03 指先
*教授×生徒。02.“鼓動”の続きです。
その、長い指先が辿るように触れる。
それはまるで愛撫のようで、私にはひどく官能的に見えた。
薬草をなぞる、その指先の動き。
無駄のない、計算しつくされたようなその手の動きは、やはり、彼がプロフェッサーと言われる所以なのかもしれない。
教授が例として実演し、出来上がった薬は、青く、澄んだ色をしていた。なんて綺麗なんだろう。
思わず、彼の指先と一緒に、瓶に入っている薬に見入ってしまう。宝石のように、綺麗な色……。
彼の手はとても大きくて、指先は少し荒れていた。
そんなところが、彼の人間性がチラリと垣間見えるような気がして、嬉しいだなんて。私はやはり、彼にとても囚われているのだろう。
あの指先に触れる薬草。それにすら嫉妬するなんて、私はなんて愚かなのかしら。
瓶に詰められた薬を見つめるその視線に羨ましさを感じるなんて。
あの薬草になれたら。
あの薬瓶になれたら。
一瞬だけでも、あんな風に触れられてみたい。まるで愛するように。愛撫するように。
きっとそれは、言いようのない、甘美な感覚がするのだろうと、私は一人で想像し、そして自己嫌悪に陥る。
そして思うのだ。
あの指先がいけない。
お世辞にも手入れがされたとは言えない、少し荒れたあの指先の動きが。
私を、惑わすから………。
私は後悔している。
どうして、あの瞬間……薬を浴び、教授に運ばれたあの時、指先で触れられた感触を憶えていないのか。
腕の力強さや感触を憶えていた。
彼の、薬草の香りも。
胸の鼓動も、その力強さも速さも。
ああ…なのに……。
労わるように触れれてくれたであろう、その指先の感触を憶えていないだなんて。自分の不甲斐なさに腹が立ってくる。
だってこの間、マダム・ポンプリーに言われたのだ。
「あなた、とても運が良かったのよ?スネイプ先生が素早く、貴方の身体に応急処置を施してくださったおかげで、綺麗な素肌でいられるのですからね」
特に背中が酷かったのですよ、スネイプ先生の塗り薬は本当に良く効くのね……という衝撃の台詞と共に。
塗り薬ということは、教授は私の素肌に触れたのだ。
あの、長い指先が私の肌を辿ったことがあるのだ。
そんな奇跡、もうないかも知れないのに…。
もう一度、触れてほしい。
あの指先で、頬に。唇に。そして………背中にも。
あなたが治してくれたから、こんなに元気でいられる、綺麗でいられるのだと言いたい。
そして―――。
教授が杖を振った。
「それでは、調合を始める。制限時間は1時間。―――では、始めたまえ」
そう言うと教授は、あちこちの調合に目を光らせ始めるのだ。
私も慌てて調合を開始した。
時折、教授の指先に焦がれながら………。
(H25.04.08)
*お題…「確かに恋だった」様“それは甘い20題”より。
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