02.3センチ
※教授×生徒。01.鼓動の続き。
彼の事が気になる。
あの、つれない態度の奥に隠された、本当の彼を知ってしまった。本当は、彼はとても優しい人なのだ。
抱き上げられた時の、あの腕の感触を忘れたくなかった。だって、あんな経験、もう二度と出来ないかもしれないもの。
コツコツと歩き回るスネイプ教授の足音にまでときめいているだなんて、知られたら大変。
魔法薬学の授業中、そんなことを考えていたら、教授と目が合った。
ドキン、と心臓が脈打った。
私は慌てて視線を大釜へと戻した。今は授業中で、調合の途中だ。そんな時に、スネイプ教授をじっと見つめると、間違いなく減点されるだろうから。
慎重な手つきで、大釜をかき混ぜる。右に2回、左に3回。すると、白っぽく、それでいて少し青みがかった液体が出来上がった。最後に杖を振る。もう少し待ってから瓶へ詰めよう、と思ったら。
「ふむ……まぁまぁの出来ですな」
すぐ横に、スネイプ教授がいた。私が調合した薬を覗き込んでいる。そうして、ふいに私の方へ顔を近づけると彼は囁くように言ってきた。
「―――よそ見をしていた割には」
その距離は、3センチにも満たなかった。
スネイプ教授の息遣いが聞こえてくる。その温かさも、香りも全て感じる、そんな近い距離に、教授がいるなんて…!
私はあまりの衝撃に、言葉もなかった。ああ、こんな近くに……どうしよう……。
それはたった数秒のことだったのだろう。スネイプ教授は衣擦れの音をさせながら、私から距離を取る。そうして彼は、いつもの口調で言ったのだ。
「粗熱が冷めたら、瓶に入れて提出したまえ」
次の授業へと向かいながら、動悸が収まらない。
ああ、どうしよう…どうしよう、私、本気でスネイプ教授、貴方の事、好きになってしまった、みたい。
誰もいなくなった階段の、石壁に身体をもたれさせ、私は火照った顔を冷やした。
(H25,02,11)
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