暗い部屋の中、ベッドへ組み敷いて、我輩は背徳の快感に酔いしれる。

そんなことが出来るのは、ここが地下室だからだ。そして、我輩が教師だから。こんなことをするとは思われていない、真面目で、陰険な教授の仮面を崩さないから。

まさか、我輩が生徒と関係を持っているなどと思われる訳がない。


そう思われるように普段から振る舞ってきたし、どんな小さなミスも犯さぬよう気を付けてきた。
それはまるで、薄い氷の上を細心の注意を払いながら歩くようなものであり、ゾクゾクするような背徳感を、我輩の心に植え付けた。



「あ…あぁ…ッ」



恋人の甘やかな喘ぎ声に、誘われて……我輩は徐々に壊れていく。


酷く、欲情したその顔。濡れたようなその瞳。開いた唇からは、誘うように、赤い舌が見える。

普段はしおらしく模範生を演じるこの生徒は、我輩に対して気のある素振りなど、することは一切ない。授業では、いつも「教師と生徒」という関係性であり、それが崩れたことはないからだ。しかし、授業ではない時間は、我輩達は肩書などない、ただの男と女になる。

一番上まで止められたブラウスに、きちんと絞められたネクタイ。スカートの丈は標準で、清潔感溢れる、ごく普通の生徒を演じているレイ。


そのお前は、夜になるとこれほどまでに乱れる。
身体を絡ませ、喘ぎ、妖艶なまでに我輩を魅了する、恋人になるのだ。

そう、秘密の恋人に……。


なんてイケナイ背徳感なのだろう。だから癖になる。酷く、癖になるのだ。




「んんッ………は……ァンッ」



そんなに可愛くよがるな。でないと、我輩としても抑えがきかなくなるではないか。
そう思っていても、恋人のあまりの乱れぶりに、我輩もつられてしまうのだ。


夜になれば、我輩は自分の息が上がるのも、髪が乱れるのも構わず、ただ、お前だけを求める。
どんな魔法薬の専門書だとて、新しい薬草や、論文だとて………敵わぬのだ。お前に溺れている。そうだ、そう思ってくれて構わない。




二人で、吐息を合わせて……。

愛が、我輩達の心を、身体をシンクロさせる。その瞬間は、どんなモノだって敵いはしない。
全ての常識は覆される。思うまま……感じるままに、お互いを求めるその瞬間。


ああ………癖になるな。酷く……癖になる…。




「何を考えていた…ッ?」

「ああんっ……なんにも……かんがえてな―――あぁ…ッ!」

「嘘を付くな……。他のことなど……考えられなくしてやる…ッ」

「あ…ぁん…ッ」




この瞬間だけは、我輩の事を考えろ。他の誰も見るな。思うな。
我輩だけを見て、感じて、そして……、我輩のことだけを愛してほしい。


そう思う気持ちが、暴走してしまった。

激しく、乱れていくシーツ。ベッドの軋む音が早くなっていく。

愛しくて、切なくて、苦しくて、気持ち良くて、そして……温かい。

ああ、どうか止めさせないでくれ。この瞬間をいつまでも、いつまでも味わっていたいのだ。こうやって、二人……心と身体をシンクロさせるその瞬間、お前は我輩だけのモノになるのだから。

そう、我輩だけのモノにな―――。



(H24,09,17)

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