単発短編 | ナノ


▽ アラン、ケータイショップに現る


※完全に妄想暴走話です。




今日も、代わり映えのしない毎日が始まるんだわ。
私は溜息を付いた。

バイトとはいえ、最近はスマホが普及して忙しいのだ。携帯ショップもね。
みーんなスマホにばっかり乗り換えてさ…昔の携帯のどこが悪いのさ!バイトをしながらそんなことを思ってしまう。
お金がなくて乗り換えられない私のやっかみだったりするけれど。


そんなことを考えていたら、見本コーナーに背の高い男の人がいるのが見えた。どうやら…外人みたい。迷っているようだった。

先輩だって見ているだろうに、さっきから一向に声をかけようとしない。外国人だから嫌なんでしょ!まったく…もぉ……。

私は心で溜め息を付くと声をかけた。

「May I help you ?」

するとその紳士は振り向いた。あれ…?この人、どこかで見た顔……。

「携帯が壊れてしまってね…。この国で、買い替えたいんだが…」

凄く、良い声だった。低くて…甘い声。
少し微笑んでいるその顔は、とっても素敵だけれど、どこかで見たことがあるような…?

「君…?」

いけない!ぼーっとしてた。

「失礼しました。どちらからいらしたんですか?」

「イギリスだよ。私は職業柄アメリカにも行くことがあるから――」

「でしたらグローバル携帯がよろしいですね。こちらの機種が対応しております――」



とんとん拍子に話が進み、英国から来た紳士さんは落ち着いた、シルバー色の携帯を契約してくれた。

書類にサインをしてもらう。名前を見た私は一瞬眉を顰めた。




アラン――リックマン?




リックマンさんは立ち上がると微笑んだ。

「助かったよ、君に逢えてよかった。それじゃ…」

ぐっとくる微笑みを残し、優雅に去っていくリックマンさん。

「ありがとうございましたー…」

何だろう…奥歯に物が挟まったみたい…いや、喉の奥に小骨が刺さったみたいに気になる。



あの人、やっぱりどこかで―――そう思っていたら、先輩の叫び声が聞こえた。
私がさっき契約をとったばかりのリックマンさんの書類を見て、何故か絶叫している。
書類に不備でもあったのかしら?

『どうかしました?』

私の言葉に、先輩は興奮しながら言ってきた。

『あんた…あんたこれ!』

『?不備でもありました?ちゃんと確認しましたけど――』

『そうじゃなくて!この名前…』

『アラン・リックマンさんです…けど?』

『映画俳優なのよ!私大ファンだったのに…ハンス様…!!』

はぁ?ハンス様〜?
ぽかーんとした顔の私を見て、先輩は呆れた顔をした。

『今時の若い子には通じないか……だから、ハリー・ポッターのセブルス・スネイプ役の人よ!』





え?うそ……ってええ?!




『な、なんでそんな人が…日本の携帯ショップに?』

『知らないわよそんなこと!!あ〜しくじったわぁ……』


私が感じていた違和感はそれだったんだ!
そう言われてみれば彼にはオーラがあったかもしれない。有名人の。

サインが欲しかった、と言っている先輩を横目に、私は書類を処理した。

彼の新しい携帯番号とメールアドレスを知ってしまった……今更ながら手が震えてくる。

このバイトをしていて、初めて良かったと思えた瞬間だった。



後でメールしてみようかな……?



(H24,2,5)


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