単発短編 | ナノ


▽ お慕いしております、御嬢様。


※“おはようございます、御嬢様”の続編。




天蓋付きのベッドに、眠る眠り姫。


薔薇色の頬に、さくらんぼのような唇。その口元からは、規則的な息遣いが聞こえてくる。
その流れるような金髪は、魅惑的に輝く。

まるで、美しい1枚の絵のような光景が、くりひろげられるのは毎晩のことだ。


しかし…この美しい光景を見られることが出来るのは、私以外いない。

御嬢様……レイ様の執事である、このセブルス・スネイプだけだ。




*****




この屋敷に、オーウェン様が来られてから間もなく、私は採用になった。
オーウェン様は、前妻との間に、お子様を授かってらっしゃった。それが……レイ様だった。

御嬢様は当時まだわずか3歳。
母を亡くしたばかりのレイ様は心を閉ざしてしまわれていた。
メイド達がかわるがわるあやしても、決して笑顔を見せない。


困り果てたオーウェン様が、私の所に連れてきたのが、つい昨日のように感じられる。




決して愛想の良い人間ではないと、自負していた。
子供になど、懐かれたことは生まれてから一度もなかった。どう、対応をしたら良いのか、皆目見当もつかない。

仕方ないので、いつもと変わらず接することにした私に、何故か奇跡が起きて……レイ様は、何故か私にだけ、笑顔を向けてくれるようになった。

そのため、レイ様のお付きのメイドはいなくなり、私がメイドの仕事を兼任することになったのだ。


レイ様のおはようからお休みまで……御嬢様が健やかにお過ごしになられるよう、対応できるのは私だけ、ということになった。

四六時中一緒にいるためなのか…それとも、レイ御嬢様の愛らしさが原因なのか。そのうち、私の心の中に、いつしか、抱いてはいけない感情が巣食うようになってしまったのだ。




御嬢様が愛おしい。



その愛おしさは年々膨らみ、私を苛んだ。
ときに、主従関係を危うくさせる感情を抱いてしまう自分に、どうしたら良いのかわからない。



子供の頃からしているおはようのキスも………いつまで我慢出来るのだろうか。



あの、柔らかな唇に、自分の唇が向かってしまわないのか。

激しく、抱きしめ愛を囁いてしまわないのか。



自分が心配でならない……。





*****




そんなことを考えながら、顔は平然とした表情を作る。執事とは、そういうものだ。どんな時も、平常心でいなければ。
たとえ、うわべだけでも……。


「御嬢様……レイ御嬢様…」


そっと呼びかけながら、私は、胸のときめきと戦う。

すると御嬢様は私の声にわずかに反応を見せ、形の良い眉を密かにひそめる。


「御嬢様、お時間ですぞ」


「う〜ん、もう少し……」


眠たげな、可愛らしい返答。それだけでも私の心はぐらついているのに、それなのに御嬢様はクッションを抱えながら寝返りを打たれた。

すると、薄い素材のネグリジェの裾がはだけて、御嬢様の形の良い太ももが露わになる。




なんというしなやかな足。ああ……甘美なこの瞬間。




御嬢様に触れてはいけない。もし今、そんなことをしたら、後悔することをしてしまいそうになるだろう。


私は囁く。朝に弱い御嬢様が、どうしたらすぐに起きて下さるのか、本当は知っているから。

こうやってじらすように起こすのには理由がある。そう、ゆっくりと起こせば、それだけ長く、眠っている御嬢様を眺めることができるからだ。



私はそんな自分に苦笑すると言った。


「仕方ないですな……では今日は、おあずけということで――」


「イヤッ!起きる…起きますっ」



その素早い起き上がりは、小鹿を思わせた。いつもながらの素早い覚醒に、私は笑ってしまった。


「レイ御嬢様、寝癖がついておりますぞ」


ごまかすように、御嬢様の寝癖を撫でつける。絹のような肌触りのする髪からは、ほのかにジャスミンの香りがした。




ふむ……本日のバブルバスもジャスミンにしよう…。




私はそう心に決めると、可愛らしく恥じらうレイお嬢様のその額に、そっと、キスを送ったのだった。


(H24,08,24)


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