▽ クリスマスは二人で…
※2010年クリスマス企画フリー夢(フリー配布終了)
僕は一体、何をしているんだろう。
こんな店、入るつもりなんてなかった。そうだ、気になっただけ。目に付いてしまっただけだ。
ショーウィンドウのアレを見てしまったから―――。
今日は月に1回の、ホグズミードの日だ。
本当は、レイと一緒に過ごすはずだったこの日。あいつときたら、体調を崩し、医務室送りになってしまった。
体調管理がなっていない。一体、どこをどうしたら40度も熱が出る?!
僕は呆れてしまった。放課後、誰もいないことを見計らって、レイのお見舞いに行った。僕だって、レイのことが心配だ。
医務室へと向かいながら、僕は、この間レイと交わした会話を思い出していた。
放課後二人きりでいる時、レイの実家は遠いから(確か……ニホンとかいう島国だとか)、クリスマス休暇に帰省するか迷っている、と聞いた僕は、チャンスだと思った。
きっと、この日はレイを独り占めできる―――
僕は、教科書をじっくりと見つめる。
これは照れてるんじゃない。断じて違うからな!!この魔法薬の調合方法を記載している部位が細かくて、見えづらいだけだ!
「じゃあ、ホグワーツに残ればいい。僕も、クリスマスは家に帰る予定はないからな…」
ドキドキする心臓。ああ、静まれよ。
レイは、どんな反応をするのか。次の台詞を言ったら、きっとレイは―――いや、そんなことはどうでもいい今は!とにかく、約束を取り付けないと。ポッター達なんかに負けるか!
「スネ…セブルスも、学校に残るんだ…」
まだ僕の名前を呼び間違えるのか…。まったく、お前という奴は……。
「ああ…。だから、クリスマスは………一緒に過ごしてやってもいい」
言いながら、横目でチラリと、レイの顔を盗み見る。
「!ホントに?!」
レイの奴、顔を輝かせて、目なんか、キラキラとさせているじゃないか!
………可愛い。めちゃくちゃ可愛らしい。
見なきゃ良かった。可愛すぎて、手を出さずにはいられない…。
そんなヨコシマな気持ちを押し隠し、僕は言った。
「僕達は恋人同士なんだから、クリスマスを一緒に過ごすのは当然だろう?だから、ポッター達なんかの口車に乗るなよ?クリスマスは、僕と一緒だからな…」
するとレイは僕に抱きついてきた。
「うん!すっごい嬉しい!!ありがと……セブルス…」
僕は緩んだ頬を見られやしないか、ヒヤヒヤしたぞ。
医務室へと行くと、レイは顔を赤くして寝ていた。あまり、熱が下がらないらしい。
お前はあまり体が丈夫じゃないんだ。きっと、いや絶対に無理をしたんだろう。
一体何をしたのか?どうせ、夜更かしでもしていたんだろうと思っていたら。
ベットの横に、モコモコした物が置いてある。
?何だ?これは。不思議に思った僕はそのモコモコを触ってみた。
!これは……編みかけの、マフラー…か?
少しいびつだが、間違いなく手作りのマフラーだ。側に紙が置いてある。
“イニシャル・ステッチの入れ方”
そしてその下の文字―――S,S。
僕は胸が熱くなった。レイの奴、どうしてくれよう。
衝動のまま、レイの唇にキスをする。
可愛らしい恋人は起きる事はなかった。僕の頬は赤くなっているだろう。嬉しさと、恥ずかしさで……。
「あの、ショーウィンドーに飾ってある商品が欲しいのですが……」
店員に伝えると、おや、という顔をされた。どうせ僕が買うにはふさわしくないとか思っているんだろう。
どうでもいい。早く包め。
僕の眉間にはシワが寄っていたかもしれない。こんな雑貨屋、男の僕が入る店じゃない。まったく、これも全部アイツのせいだ。
僕の、僕だけの恋人の、レイのせい―――。
店員が確認してくる。
「こちらの商品でよろしいですか?」
僕は頷いた。
僕の目の前には、手のひらの大きさの陶器の置物がある。
黒い猫と、そうして寄り添うように隣にいる白い猫の置物。まるで僕らのようだ。そしてその猫の瞳は、照明の光を受けてキラキラと輝いていた。
レイの瞳みたいだ…。
ホグワーツへと帰りながら、僕は一人微笑む。
なぜなら、クリスマスが楽しみでたまらないから。
レイが、このプレゼントを見た時、どんな反応をするのか、楽しみで楽しみで仕方ない。
それに、あの手作りの贈り物だって、僕のモノになるはず。
クリスマスが待ち遠しいなんて、初めてだ。これだって、絶対アイツのせいだ。
そう、僕の可愛い恋人のせい。
だけど、僕をこんな心地よい気持ちにさせるなんて、レイはどんな魔法よりも強力な、僕の宝物なんだって思った。
prev /
next