単発短編 | ナノ


▽ アップルパイの誘惑



今日もまた、変化のない毎日。


いつものように、ポッター達からちょっかいをかけられて、魔法で応戦し。
放課後は図書室で宿題をこなし、魔法薬学の本を読み漁る。
これから、大広間へと寄って夕食を食べ、それから風呂に入って寝る前に借りてきた本を読み進めよう。


今日だって、いつもと変わらない日だ。


そう、そのはずだった―――。




図書室で宿題をしていた僕の嗅覚は、ありえない匂いを感知した。
図書室には相応しくない香り……。一体、どういうことだろう?僕は鼻をヒクつかせた。
この香りは、リンゴ、だな…。まぁ、僕には関係ない、と思っていたら、徐々にその香りが強くなってくる。

一体、どういうことだ?僕は顔を上げた。

するとそこには、レイ先輩が立っていた。片手には何か包みを持っている。そうして、先輩の視線は僕に注がれていた。






僕は、読んでいた本を閉じると先輩に尋ねた。一応、面識はほとんどないが自寮の先輩だ。対応は気をつけなければ。

「レイ先輩、どうかしましたか?」

するとレイ先輩はにっこりと笑いかけてきた。この僕に、だぞ?
レイ先輩は美人なんだ。プラチナブロンドに菫色の瞳で……肌は透き通るように白い。それに、声だって……。

「今、お話しても良いかしら?スネイプ君」

先輩の口から、僕の名前が出るなんて。
嬉しくて恥ずかしかった僕は、目を伏せた。自分の顔が赤くなるのがわかった。僕は下を向くとぼそりと言った。

「ええ、かまいませんが……」

するとフフ、という笑い声。僕が照れている様が可笑しいのだろう。無理もないと思わないか?スリザリン1の美女に面と向かって話しかけられたんだから、な。
レイ先輩はクスクスと笑いながら、僕の教科書の上にそっと何かを置いた。

これは…先輩が今まで持っていた包みじゃないか。

僕は不思議に思って顔を上げる。すると先輩はニコニコ笑いながら言ってきた。


「これ、スネイプ君にあげる!」


………貰ういわれはないが。
校内一の美女から頂き物を貰うなど、いくら同じ寮出身の僕でもできない。そんな恐ろしいこと。ルシウス先輩から報復されそうだ。
レイ先輩は僕よりも2コ上の先輩で、ルシウス先輩のお気に入りだから。
だから僕は首を振った。

「申し訳ありませんが、頂けません」

僕がそう言うと、先輩はいたずらな顔をして笑ってきた。

「ルシウスのことは気にしないで。私が、あなたに差し上げるのだから…」

「しかし……」

まだ渋る僕に、先輩は目を伏せてきた。長い睫が震えている。
ひょっとして泣かせた?!

「どうしても…貰って下さらないの……?」

僕は慌てた。泣かせたらそれこそルシウス先輩に殺される!!

「すみません、レイ先輩を悲しませるつもりじゃ……頂きます。なんだかよくわかりませんが、ありがとうございます…」

僕はそう言うと、ラッピングされた包みを受け取った。するととたんに満面の笑みを浮かべた先輩の顔と目が合う。

………やられた!

先輩、演技しなくてもいいでしょう?!僕相手に何をやっているのですかあなたは。
勿論そんなことは面と向かって言えないので(仮にも先輩だ)、溜め息をつくことでやりきれない思いを逃がした。

「セブルスならそう言ってくれると思っていたわ。じゃあ、お返事待っているわね」

「はい、わかりました―――?」


ん?
今、なにやら不思議な会話になっていたような気がする……。
先輩に聞き返そうとしたが、彼女はさっさと図書室を出て行ってしまった。後に残ったのはハテナだらけの僕と、ラッピングされた贈り物。


返事って……なにを、どうしろと?




寮の部屋に戻ると、ルームメイトは誰もいなかった。金曜の放課後だ、皆思い思いのことをしているんだろう。
僕は机に向かうと、教科書を置いて、そして先ほどレイ先輩から貰った、謎の包みも一緒に置く。包みからは甘い香りがした。リンゴの香りだ。この包みから香っていたのか…。

先輩の質問の意図が読めない。返事ってどういうことだろう。
悩んでも仕方のないことなので、とりあえず、もらった包みを開けてみることにした。
綺麗にラッピングされた包みを解いていくと、そこにあった物は―――お菓子?

手作り菓子だ。これは…アップルパイ、か?
僕は、甘い物は苦手なのだが……これの返事、とは一体どういう意味なんだ?ますますもって訳がわからない。
僕は頭を抱えた。


ふと見ると包みの中にメッセージカードが入っていた。白いカードだったから気がつかなかった。僕は、それを手にとって読んでみる。この字はレイ先輩の字だ。


【私のアダムへ……】








僕は、一瞬で全身に熱が駆け巡るのを感じた。
なぜなら、先輩が仕掛けてきたモノの正体がわかったから。
いや……しかし………でも………なにかの間違いでは?考えすぎ、ではないか…?

そうであって欲しい。というかそうでなくては困る。こんなに強烈な告白はないだろう。それもよりによって僕なんかに……。先輩は本気なのだろうか……。


「僕に、禁断の果実を食べろと…?先輩、冗談がすぎますよ……」





僕は、アップルパイを見つめた。

甘い香りをさせるパイ。そのスウィーツよりももっと、レイ先輩が仕掛けた問いは甘い。

「僕がアダムなら、先輩はイブですか……」



告白もスリザリン流とは………。さすが、ルシウス先輩のお気に入りだ。
僕は苦笑すると、パイを見つめた。パイは甘い香りをさせて、僕を誘惑してくる。






このパイ、どうするべきか―――?

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