あなたの隣で | ナノ

愛しているから不安になる


私は、幸せに蕩けそうだ。


何故なら、ついに愛する人、アイネと結婚したから。




今までは、疲れて自宅に帰っても、迎えてくれる人は誰もいなかった。

部屋は、週に何回かハウスキーパーを雇っているので、清潔になっている。
空調も入っていて、自宅の中が冷えているということはない。




だが、自宅に戻っても迎えてくれる人は誰もいない。



シーンとした家に帰って、ただ寝るだけの毎日に、私は、孤独を感じていた。

自宅がいくら綺麗になっていたとしても、温かさは感じなかった。むしろ整然とした室内に孤独を募らせていた。


だから、私は驚いたんだ。




家で待っていてくれる人がいるという幸せ。自宅に帰れば愛する妻が待っていて、「おかえりなさい」と言ってくれる。
アイネ、君の笑顔、その言葉に…身体も、心も温かくなる。アイネ、という愛しい存在が、こんなにも私の心を幸せで満たしてくれるとは。




いくら世間に認められても、賞を貰って騒がれても、ギャラが上がって生活が豊かになったとしても、それを共に喜び、分かち合う人がいないと、人生は無意味だと気づいた。




だから、私は今、本当に幸せなんだ。

そう、そのはずなのだが………。




最近、アイネが時々、思いつめたような顔をしているのが気になる。

何か、心配事でもあるのだろうか?ひょっとして、故郷が恋しいとか?
日本に帰りたいのだろうか…。



私は、時々不安になる。

アイネのことはこの命よりも大切だ。心から愛している。この気持ちに嘘偽りはない。

だが、年若い彼女が、知り合いもいない異国の地で生きていくことに不安を抱えているのではないかと思ってしまう。
それとも、遠く離れたご両親のことを心配しているのだろうか?


もし、ご両親と私を天秤にかけたとしたら、私の勝ち目はないに違いない。




アイネ、君を何よりも、そして誰よりも愛している。心から大切に思っているんだ。だから君が本当にしたいと言ったことを、拒否するなんて私にはできない。




愛しているから………不安になる。



君のその憂い顔の原因が解った時が。私は、捨てられるかもしれないなどと思ってしまうんだ。

だから確認できない。君が悩んでいる、その悩みが何なのか知るのが怖いんだ。いい年をして、情けない……。




私は一人、苦笑するとクシャリと髪をかき上げる。



愛しているから聞けないなんて、私は本当に臆病だ…。


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