▼ あなたと一緒なら…
明日はついにハリーのクィディッチ初戦だ。ここに来て、もうそんなに経ったんだなぁ。明日の私の行動1つが、今後に大きく左右してくるんだよね。そう考えると、眠れなくなってしまった。
私はどうすべきなんだろう。部屋にいても、もんもんと考えるだけだ。
私は箒をつかむと、窓から出て、屋上へと向かった。…こっそりなら、大丈夫でしょ。
屋上にはもちろん誰もいなかったので、適当な所で腰を下ろすと私は空を眺めた。今日は半月だ。月がとっても綺麗。まるでスネイプ教授みたい、鋭く、人を寄せ付けない感じがね。
月はひっそりと佇んでいる。星も輝いていた。ここから眺める星は格別に綺麗だ。あ、あれって…。
『オリオン座かな?』
思わずつぶやいてしまった。星はあんまり詳しくないんだ。
ここから見る月も、星も……私の世界とおんなじ。最近忙しくて考えていなかったけど、父さんや母さん、どうしてるかな…。私が急にいなくなったから、大騒ぎになってたりして。確かめる術がないのが悲しい。
せめて無事でいることだけでも、教えられたらいいんだけど。
でも、私をここへ連れてきたのが誰かも分かっていないのだ。帰る術も分からない。本当に帰れるのかも。
それに皆を、スネイプ教授を助けるまでは、ここに居たい。
そんなことを考えているとちょっと悲しくなってしまった。止め止め!考えたってどうしようもないんだから。私は頭を振ると考えも一緒に振り払った。
も〜しょうがないよ、考えたってさ。
よし、歌でも歌うか!元の世界でも、よく由香里と一緒にカラオケに行ったっけな。元気がない時とか、落ち込んだ時とか、思いっきり歌うとすっきり元気になれたっけ。由香里に、
『あんたは単純だから、楽ね』
って言われたことを思い出して、歌を歌うことにした。どうせ誰もいないし。
今は、前向きな気持ちになりたい。
私は息を吸うと、ある歌を口ずさんだ―――。
歌いながら想うのは、あなたの事。自然に涙が出てくる。
ああ、私、本当にあなたが大好き。
そうだよ、私はいつまでも歌うよ、あなたのために……。
何だか、ちっとも元気になれない。由香里、今私は単純じゃないみたいだよ。
グスグスと泣きながらそんなことを考えていたら…、
「レイ、こんな夜更けにここで何をしているのだね。何故泣いているのだ?」
え?スネイプ教授がなぜ此処に!しかも何時から居るんだよ。ひょっとして歌とかも聞かれてた?めっちゃ恥ずかしいんですが。
「あああの、スネイプ教授!どうして此処に!!いつから居たんです?」
ものすっごいびっくりしたので涙が一瞬止まってしまった。
「見回りだ…。最近は夜更けに寮を抜け出す生徒が多くてな。歌声が聞こえたのでここへ来てみたのだ。そうしたらお前がいた」
教授はそう言うと私の側に来た。
「こんなに泣いて…」
教授はそう言うと私の涙をそっと拭ってくれた。教授、どうして…。
「どうしてそんなに優しくしてくれるんです?僕、セブルスの嫌いなグリフィンドールなのに」
思わずそう言うと教授はフッと笑って、
「そうだな…何故かなど我輩にも解らぬ。お前が危なっかしいからだろうか。どうも見ておれんのだ」
よく怪我もしますしな?そう言うと教授は私をチロリと見てきた。うう、それはその通りかもしれませんが。でも教授〜危なっかしいって…!
「危なっかしいだなんて、そんなことはないですよ!」
思わず反論してしまった。そうだよ、これでも考えて行動してるんだからね?教授はニヤリと笑った。
「泣いたり、怒ったりと忙しい奴だ。それに随分と身体が冷えているようだな」
と言い、教授は自分のローブを開くと、私をすっぽりと覆ってしまった。
?!?!教授何すんですか!教授の大胆な行動に私はすっかり驚いてしまった。
呆然としていると、教授は意地悪そうに笑い、
「レイ、どうしたのだ?顔が赤いが」
わかってるくせに。教授のいじわる。
私は仕返しができないかと考えた。やられっぱなしじゃあ悔しいもんね。教授、覚悟してくださいよ?
私はニヤリと笑い返すと、教授にぎゅっとしがみついた。今度は教授が呆然とする番だ。
「っな、何をしているのだ!」
ふふ〜ん♪今度は教授が顔色良くなってるよ。私は笑うと、
「だって寒いから…暖かいんですもん、セブルス、どうかしましたか?」
教授驚いてら。私をなめるなよ?あ、なめてないか。教授はため息をつくと、なんと、私をそっと抱きしめ返してきた。超さりげなく。
えっと…これって凄いことなんじゃ?これは何と教授と抱き合ってるということでは??う、嬉しいんですが。あ、鼻血出そう。
「どうやら泣き止んだようだな。何を考えていたのかは解らぬが、あまり考え込まぬことだ」
と言ってくれた。教授…ありがとう。
私はエヘヘと笑うと、嬉しくて教授にさらにぎゅっとしがみついた。
「ありがとうございます、セブルス!元気が出ました」
教授の顔を見つめて、私は笑った。
しばらくそうしていたろうか。身体が暖まってきた頃、おもむろに教授が言ってきた。
「では後日、罰則を受けていただこう。レイよろしいですかな?」
ってえ〜!そんなぁ。私は両手を教授から離すと、
「え〜!いたずらしたわけじゃないんですから、見逃してくださいよぅ」
と思わず言ってしまった。
「駄目だ、グリフィンドール5点減点。罰則は後日言い渡す。夜中に寮を出るなどお前に何かあったらどうするのだ!…では寮に戻るぞ」
うう、減点された…って教授今なんて言いました?
「セブルス…今なんて言いました?」
聞き間違いかも。もう一度言ってほしい。その、声で。
でも教授はフンと鼻を鳴らすと、
「もっと減点されたいかね?」
だって。ほ〜んといじわる。素直じゃないんだから、もう。私がジト目で見ていたのが解ったのだろう。教授はため息をつくと、手を出してきた。
「ほら、手を貸せ。これ以上迷子になられたらかなわぬからな」
私は手を差し出した。教授、手が大きいな。初めて教授と手を繋いじゃったよ。これってすごくね?
私はしょうがないなあ、もう、という顔をして(脳内では悶えていたが)教授に寮まで送ってもらうことになったのだった。
そんな二人を月の光が優しく照らしていた。
(あなたと一緒なら、笑顔になれる。)
(あなたがいるなら、この世界でも淋しくないよ、教授…)
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