短編 | ナノ


▼ 魔法薬学の補習



それは私の背中の傷が丁度癒える頃のこと。


ある日の午後、午前の授業を終えた私は大広間で皆と一緒に昼食を食べていた。するとふくろうが一羽飛んで来て私の目の前に降り立ったのだ。私にはこの世界に知り合いなんていない。おそらくダンブルドア校長かな?と思い手紙を読んでみる。
手紙には綺麗な文字で以下のように書かれていた。




To Mr.カンザキへ


本日15時より、魔法薬学教室にて先日の授業の補習を行う。時間厳守。遅刻は認められないので気をつけたまえ。

P,S
 教科書を持参すること。

                        

From S,S



何じゃこりゃあ。
手紙を見て固まっていると、皆が何事かと覗き込んできた。ハーマイオニーは手紙をみて、

「まあ、スネイプ教授からよ!…そういえばレイあの時怪我しちゃって薬を作れなかったものね」

と言ってきた。

「いや、途中までは作ったよね、ハーマイオニーとさ」

確かに途中までだったけど。ハーマイオニーは肩をすくめて、

「スネイプ教授が補習をするっていうことは、絶対出席しないとダメよ」

と言ってきた。ということはネビルと一緒かな?でもネビルの所にはふくろう、来てないけど。不思議に思いネビルに聞いてみたところ、

「僕はもう補習をやったよ…」

青い顔をして言ってきた。
何があったんだネビル、怖いよ…。ハリーやロンが気の毒そうな目をしている。今日は珍しく午後から授業がないから、図書室で本を読もうと思っていたのに。
教授席を見るとスネイプ教授がこちらをじっと見つめてきた。うう、眼力が…!!ひええ。わかりましたよ、出ますったらそんなに見つめないで下さい穴が開いちゃいますから。
私はふくろうにおかずのベーコンをあげるとため息をついたのだった。



皆に同情の視線を浴びながら魔法薬学の教室へと向かう。皆はこれから談話室でチェスをするんだってさ…くそう、皆ひどいよ。
ぶつぶつとそんなことを言っていると教室に着いた。ドアを開けると誰もいなかった。時間を確認するが15時5分前だった。ちょっと早かったのかな。

私は適当な席に座ると、教科書を開いて確認することにした。おできの薬だったよね。教科書に集中していた時だった。

「時間通りに来たようだな、結構」

突然背後からスネイプ教授の声が聞こえた。
びっくりしたなあ、もう。教授、急に私の背後に立たないでくださいよ。 

「はい、教授。お手紙読みました。今日は前回の授業で提出できなかったおできを治す薬を調合するのですね?」

私は良い子だもんちゃんと来ますよ教授を怒らせたら怖いとか考えてませんよ〜と思いながら返事をする。

「…さよう。あの時はほとんどクレンジャーが作っていたからな」

教授、あんなに沢山生徒がいるのに何で知ってるんだ!見てたんだろうか、私が干しイラクサしか計ってないの。私は心で冷や汗をだらだらとたらしながら教授を見つめた。教授はフフンと笑うと、

「今日、グレンジャーは居ない。それではMr,カンザキ、お手並み拝見といこうか」

わぁ〜どうしよう、私の弱点が知れてしまう…。
実は私は小さくてウネウネと動く物が苦手なのだ。しかしもうここからは逃れられない。


それから、恐ろしい補習が始まったのだった。




干しイラクサを計る所は何の問題もなかった。蛇の牙を砕く所も何とかクリアした。

問題は角ナメクジを茹でる所だった。私、心は女の子なんです、こんなの無理!だってナメクジがお湯の中で踊るんだよ?!ウネウネと動いている角ナメクジをみて、気が遠くなりかけた。

「どうしたのだね、Mr,カンザキ?」

調合の手が止まった私をみて教授が尋ねて来た。
実は私、心が乙女ですから、ナメクジなんて茹でられないの、なんてこと言えるわけない。そんなことを言おうものなら、医務室直行だろう。

ええい、ままよ!私は目をつぶると、えいっと角ナメクジをお湯の中に放り込んだ。

うわあ〜踊ってる踊ってる。チラとナメクジを見たが、とたんに目を逸らす。直視しない方がいい。でないと気絶してこの鍋の中に頭からつっこみそうだ。
しばらく沸騰するお湯を見つめていたがそろそろもう頃合か…。なるべくナメクジを見ないようにしてすくい上げようとしたその時!教授の声が。

「茹ですぎだ…もう一度茹で直し」

ええ!そんなあ〜!こんなにキモイ生物をもう一度触って、茹でろと??
がーんという気持ちが顔に出ていたのだろう、教授が、

「そのような茹で加減ではおできを治す薬にはならん。失敗するだけだ。そうすると最初からやり直しだが…」

なんて恐ろしいことを言ってくる。
わかりましたわかりましたよぉ。もう一度やればいいんでしょ。私はもう一度ナメクジを茹でる事になってしまった。



結局そのあと、10回くらいナメクジを茹で直した。私の横には茹ですぎたナメクジで一杯だ…気持ち悪い。
やっとの思いで茹でたナメクジをつぶし、他の材料と合わせて火にかけ、掻き混ぜる。湯気が顔に当たりあっつい。あ、今ナメクジエキスが私の顔にかかっているのかも、なんて考えてぞわーっとしてしまった。自分で追い込んでどうするんだよ。

鍋を火から下ろして刻んだ干しイラクサを加える。ここでネビルは間違えてあんなことになったんだったな。今日はそんなことにはならず、きちんとした色の薬になった…緑色ですが。

「よし、あとは冷まして瓶に入れれば完成だ。レイ、よくやったな」

教授が褒めてる!それに何だか初めて名前を呼んでくれたような…。
すっごく嬉しかったんだけど、安心したのか張り詰めていた気がゆるんでふ〜っと意識が飛んでしまった。あ…倒れる!後でまた教授に怒られるよ…そう思いながら私は意識を失ってしまった。


…男の子なのに情けない。




目が覚めると教授の部屋だった。私はソファーに寝かされているみたいだ。
恥ずかしい、私気絶してばっかりのような気がする。教授に情けない姿ばっかり見られてるよね。
ゆっくりと起き上がると教授は机に向かって書き物をしているようだった。私の気配を感じたのか、手を止めた。

「せっかく薬ができたのに気絶するとは…おまえは本当にナメクジが苦手なのだな」

やっぱりわかっちゃったか。ほんと恥ずかしいなぁ。

「すいません…小さくてウネウネと沢山蠢いているのをみるのが苦手なんです。ご迷惑をおかけしました」

昔、田舎に遊びに行ったとき、大量に蠢くハエの幼虫を見たんだよ。それがトラウマになってるみたいなんだよね。ああ、思い出しただけで気持ち悪い。
よっぽど青い顔をしていたんだろう、教授が杖を振って紅茶を出してくれた。

「顔色が悪い。紅茶でも飲んでもうしばらく休め」

と言ってくれた。私は有り難く教授の紅茶を頂くことにした。

教授の紅茶大好き!だって美味しいんだもん。もちろん教授も大好きだけど。
紅茶を飲みながらそういえば、さっき気絶する前に名前で呼ばれたな〜ってことを思い出した。思い出したら気になる!教授に聞いてみたくってうずうずしてきた。駄目だ、確認しないと今日は眠れないよ〜。

「教授、ちょっといいですか?」

ああ、緊張してきた。

「何かね?」

教授がハテナって顔をしている。

「さっき、僕が倒れる前に教授、名前で呼んでくれましたよね?」

どうしよう否定されるかな。どきどきしていると教授は口を手で押さえて私から目を逸らした。

「あー…そのようだな」

と言った。私はとても嬉しくなり笑顔で言った。

「やっぱりそうですよね!僕、とっても嬉しかったです。…もし教授さえ嫌じゃなければ、これからも名前で呼んでください!生徒が居ない時でいいですから…」

大胆だな、私。でもこの口が止まらないんだもん〜。しばしの沈黙の後。教授が、

「…わかった。では我輩からも条件を出そう」

なんだろ?私に可能な条件ならいいけど。

「我輩だけが名前で呼ぶのは反則であろう。お前も我輩を名前で呼んでくれるのなら、名前で呼ぼうではないか」

と言ってきた。私が驚いていると教授がニヤリと笑っている。教授、ずるいです。
私は顔を赤くさせながら、

「わ…かりました。…セブルス」

うきゃ〜恥ずかしい。
教授に向かって初めて名前で呼んじゃったよどうしてくれようこのやろう。今なら恥ずかしくて死ねる。
今の私は収穫を迎えたトマトのようになっているに違いない。私が何とか返事をすると教授は、

「うむ、ではレイ、そろそろ薬が冷えた頃合であろう。瓶につめたまえ。今日の補習はそれで終了だ」

と言ってきた。

私だけが恥ずかしいのか…。しょぼーんとしていたらに教授の顔色がいつもより良いことに気が付いた。何だか心なしか頬がピンク色のような…。じっと教授を見つめていると慌てたように、

「何をしている、早くしたまえ」

と言ってきた。もう、教授ったら照れ屋さん。
私は笑う。嬉しい。本当に嬉しいんだもの。

「はい、わかりました…セブルス」

そうう言うと私は、魔法薬学教室へと向かったのだった。


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