▼ 夢でもし逢えたら
夢でもし逢えたら、素敵なことね。貴方に逢えるまで、眠り続けるわ…
気が付くと、そこは何もない空間だった。
あれ、?私どうしたんだろう。どうやってここに来たんだ?まるっきり憶えてないよ。
周りを見渡すけど、本当に何もない、真っ白な空間だった。どうしよう、と思ったが、とりあえずここにずっといてもしょうがないか、と思って歩き出した。
ふと違和感があって足元を見る。…私裸足じゃんか。どうなってんの?それに歩いても歩いても何もない。
さすがに不安になってきた頃、辺りが暗くなってきた。何だか、全体的に暗い、ダークな感じ。
さっき私が最初に気が付いた場所は何もなくって真っ白だったけど、何となく暖かいイメージがあった。でもここは…暗く、寂しいイメージだ。こんな寂しい所に、人なんかいるんだろうか。
さらに歩いていると、何もない暗い場所に、池のようなものがあるのを発見。
そしてそこに人影が……。
あれは、教授?
私は駆け出した。教授へと向かって。
近づくとやっぱりスネイプ教授だ。虚ろな目をして、池を見つめている。
教授、何だか 淋 し げ?
私は胸が締め付けられるように痛んだ。教授、一体何があったんです?そんな虚ろな目をどうしてしているの?
「セブルス、こんな所で何しているんです?」
思い切って話しかけちゃう。教授ははっとしたように私を見つめた。
「お前は…レイではないか」
何かめっちゃ驚いてるんですけど、私、側に来ちゃいけなかった?話しかけちゃまずかったのかな。
「あ、ごめんなさい。来ちゃいけなかったですか?」
思わずおずおずと聞いてしまう。
「いや……そういうわけではない。ここに誰か人が来るなど、初めての事であった故…驚いただけだ」
あ、そーでしたか。よかった教授に嫌われたかと思ったよ。私教授に嫌われたら生きてゆけません。いやホントマジで。
「そうですか…良かった」
私がほっとして笑うと、今度は教授が不思議そうな顔をして聞いてきた。
「お前は、何故ここに居るのだ?」
いや何故って言われても。私にもわかんないよ。
「どうしてと言われても…気が付いたら何にもない所で…何かないかと探して歩いていたらここにセブルスが居たから。この池みたいのはなんですか?」
最初から不思議だったんだよね、何なのコレ。な〜んもない空間に突然。あからさまに怪しいし。教授何か知ってるのかな?
「これは……“深淵”だ」
教授、何だか悲しそう。聞いちゃいけなかったんだろうか。
「深淵……?」
何か、良く分からん。私馬鹿ですね、そうですね。
でも…見ちゃいけないような気がする。これ以上聞いちゃいけないような気がする。
「セブルス、よく分かりませんが、こんな所にいちゃだめです。あちらに行きましょう。あっちも何にもない所ですが、ここよりはましだと思います」
うん、言ったらなおさらその方がいいような気がしてきた。ここは良くない。それに、この深淵…絶対に覗いちゃいけないような気がする。私は笑うと、驚いている教授の手を掴んだ。
「さあ、セブルス、行きましょう」
そう言うと教授は躊躇っていたが、ふとため息をつくと、一緒に歩き出してくれた。良かった…。歩きながら私は教授に言った。
「ここにセブルスがいて本当に良かったですよ〜。も〜不安で不安でどうしようかと思いました」
私が苦笑すると教授は驚いていたみたい。教授、どうしたのかな?
「我輩がいて……良かったのか?」
何言ってんの教授、当たり前でしょうが!
「何言ってんですかセブルス!当たり前でしょう。セブルスに逢えて、本当に嬉しいんですよ?それにすっごく安心しました!」
私が笑ってそう言うと、信じられないことを教授が言ってきた。
「ああ、我輩もレイに逢えて嬉しい」
ってええ!なにどうしたのなにがあったの聞き間違えましたか私?
「う、え、ああ、そそそそうでしたか。それは良うございました」
私あからさまに怪しいですね、そうですね動揺してしまいました。うう、直球は効くな。私が動揺したのがわかったんだろう、教授はここであって初めてクスリと笑ってくれた…教授、良かった表情良くなったよ。
二人で手を繋いで歩き続けると私が最初気付いた何もない真っ白な空間にやってきた。あれ?さっきは何もなかったはずなのに一面が花畑になってる!
「あれ?さっきは何もなかったはずなのに…花畑になってる…」
どーなってるのこの空間。怪しすぎるぜ。私はうーんと考えたが、どうしようもない。
とりあえず危険はないみたいだし、私は教授と繋いでいた手を放すと、花畑に近づいてみることにした。
「きれーですねえ。それにいい香り…」
私は花の香りをいっぱいに吸い込んだ。そうなんだ、明らかに夢っぽいのに、教授の手の感触とか、匂いとか感じるんだよな。何でだろう?ま、いいかよくわからんし。
考えてもしょうがないことは止めて、私は振り返ると教授に言った。教授は辺りをきょろきょろと見廻している。
「ねーセブルスも早く来て〜!本当にいい匂いがしますよ!」
私が笑顔でそう言うと、おずおずと教授も近づいてきた。何かわかんないけど、可愛いな教授ってば。ひょっとして怖がってるの?大丈夫なのに。
教授も花畑に入ってきてくれた。
「ふむ……よい香りだな。これは…薬草の一種だ」
と花に触れながら言ってきた。教授、こんな所で授業しなくってもいいから。
私は笑いながら、
「セブルスってば…こんなところでも授業ですか?」
本当に可笑しい。ある意味、期待を裏切らない人だ。
私がいつまでもクスクスと笑っているので、
「レイ、笑いすぎだぞ。…これは何の花だかわかるかね?もちろんわかるのでしょうな?我輩の授業で出てきたもの故、わかって当然」
教授の、いじわる〜。
教授が触れている花を良く見たけど……わかんないよ。
「……わかりません、教授」
私が仕方なくそう答えると、教授はニヤリと笑い、
「ほう、わからないと?ではレイには懲罰が必要ですな」
だってさ!何で今は授業中ではないでしょ、酷いよ〜!
「教授酷いです!今は授業中ではないでしょう?解らないのは仕方ないにしても、懲罰なんて……あ」
あ、やっば又やちゃったよ。教授はクスリと笑うと、
「レイ、ペナルティですな。またもや我輩を“教授”と呼ぶなどと…しかも二回もですぞ?これでは我輩に口付けしたいのではないかと思われますぞ」
だって!いや〜んそんなわけ無いでしょ!教授はニヤリとしながら私に迫ってきた…いや、やっぱりしないと駄目?
私が顔を赤くしながら教授を見つめると、教授はため息をついて、
「そんな目で我輩を見るな…襲うぞ」
だって。何ちゅう大胆なことを言うんだこの我輩。いやそれは止めてくださいホントマジで。
「なななな、何を言っているのですかセブルス。冗談は顔だけにして下さいよ」
そう言いながら後ずさる。教授はフン、と笑うと私を花畑に押し倒した!花がクッションになってくれたみたいで衝撃は無かった。
でももう逃げられないじゃんか。何か、最近の教授ってば大胆ではないですか?
「さあ、ペナルティを頂こうか…」
教授、嬉しそうですが。ま、またなの…。私は涙目になりながら、教授にキスをしようとした。
「前回した所以外でお願いしたいですな」
って、ええ〜!前回した所以外っていったら、瞼と唇しか残ってないじゃん。
唇はだめだってば。…そしたら瞼しかない。あ、でも瞼は両方あるから、2回分だけどこれでいいかも。もう、しょうがないなぁ。
私は覚悟を決めると教授に言った。
「じゃあ……目を閉じてください」
私がそう言うと教授は、
「よかろう」
といって目を閉じた。こんな時は素直なんだから!
私は覚悟を決めると、まず教授の左瞼にキスをした。は、恥ずかしい〜!
えい、あと一回!私が続けて右瞼にキスをしようとしたとき、ふと教授の目が開いた。あ、目を開けちゃだめだってば!瞼にキスできないじゃん。
「懲罰分も加算せねばな…瞼は却下だ」
ひっどいよ教授、じゃあ、じゃあ、あとは唇しか残って無いじゃんか。
ええ、そんなぁ。私が思わず唇を尖らせていると、教授はニヤリと笑いながら、
「誘っているのか…?」
と言ってきた。ななな、なにを大胆なことを。そんなわけ無いでしょ!やればいいんでしょ、やればさ。
私はもう一度教授に目を閉じるように言うと、唇にキスをする覚悟をした。たかがキスだ。だって教授とはもう何度ももっと凄いキスもどき(?)してるじゃんか。薬を飲むためだけど。
サッとかするようにすればいいんだよ、そうそう。さっき瞼にしたみたいにさ。頑張れ、私!
私は自分にエールを送ると、教授にキスをした。
キスをしたとたん、教授がキスをし返してきた…教授こそ、違反してるじゃないか!教授に文句を言ってやる!と思って口を開けたのがまずかった。教授の舌が入ってきたのだ。いや、教授そんなところ攻めないで、そんな舌を絡めてきたらだめだってば…感じちゃうでしょ?何とか逃げようともがくが教授にがっちりと頭を押さえられており逃れられない…延々とキスをされてしまった。
教授の…エッチ。
「……っはあ……セブルスの嘘つき…キスをし返すなんて…」
はあはあ息をしながら教授を攻める。教授はニヤリと笑うと、
「懲罰分だ…お前が授業を憶えていないのが悪いのだ」
だって。も〜屁理屈言ってるよ。も〜いいよ。私はしばらくボーっとしていた。いや、あのキスは凄かったよ…教授ってば、思う存分やるんだもん。
しばらくして、教授は私を立ち上がらせてくれたあと、ちゃんと花の説明をしてくれた。授、エッチなだけじゃなかったか。
「この花はジギタリスといって、ゴマノハグサ科の2年草で多年草だ。全体にジギトキシン、ジゴキシンなどの強心配糖体を含み、これらばジギタリスの葉を温風感想したものを原料としていたが、今日では科学的に合成もされている。別名はキツネノテブクロとも言う」
教授はそう言うと、ジギタリスを一輪、私にくれた。
大好きな人から初めてもらった花が薬草って…なんか今の気持ちは形容しがたいですね。とほほ。
その後しばらく花を眺めたり、花輪をつくってセブルスの頭にかけて冠にしたり(ちなみにすっごく似合わなかった)して時を過ごした。
私はう〜んと伸びをしながら、
「う〜ん幸せですね」
と言った。だって大好きな教授と、ずっと一緒だよ?すっごく幸せ。
ずっとここにいたい…。私が言ったことに教授は驚いているようだった。
「レイは…今、幸せ……なのか?」
どうしてそんなに驚くかな。ま、今は夢の中みたいだし、いいかな?ちょっと大胆になっても。
「だって大好きなセブルスと一緒だもん!ここなら誰にも邪魔されないしさ。とっても嬉しくって幸せだよ?」
私がそう言うと何故か教授はうろたえているようだった。大好きとか、きもかった?もしかして私NGワード言っちゃったとか…。
はわわ、大胆すぎたか?私。
「レイは…我輩のことを好きだと言って……くれるのか?」
教授、戸惑ってるみたい。やっぱりきもかったんだ。
「あ、セブルス、迷惑でした?だったらごめんなさい、僕ったら調子に乗ってしまって変なことい」
「いや、そうではない!迷惑とか、そんなことは思っていない…ただ驚いただけだ。我輩も、同じ気持ちであった故…」
教授何ていいました?何か凄く驚きの発言が今さらっと聞こえてきましたが。
耳が壊れたんだろうか。
私はもう一度聞き返そうとした。しかしその時突然回りの空間が歪んで来た。何これ。どうしたんだろう。
「これは一体どういうことでしょうか?」
思わず不安だったので教授に縋り付いてしまった。だって怖いんだもん。教授もしっかりと私を抱きしめてくれる。…教授、暖かい。
「おそらく目覚めるのだろう」
教授、悲しそう。……目覚める?ってことはこれはやっぱり夢?私の願望が形になっただけなのかな。
「やっぱり夢だったんだ。でも夢でもセブルスに逢えて嬉しかった!今度は現実の世界で、セブルスに、さっきの台詞を言って欲しいな」
私はそう教授に言った。教授驚いてる。私はエヘヘと笑うと、
「セブルス、大好きだよ!」
そう言ってにっこりと笑った。
やがて、教授の顔もわからないほど空間が歪んで来た…。
「我輩も……………」
教授が何か言っていたけど、聞こえない。
何?何て言ってるの?
*****
がばっと起きた。するとやっぱり自分の部屋。辺りにはもちろん教授もいない。
「やっぱり夢オチだったか……って、ん?これは」
私の右手にはジギタリスの花が!
ってええ?これって一体??
私は混乱してしまい、その日の朝食を食べ損ねてしまったのだった。
(いや、あれは私が見た夢だった……はず…なんだよね?)
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