短編 | ナノ


▼ スネイプ教授の受難 後編




どうしよう、逃げていいですか。

いや、むしろ土下座をして謝ったほうがいいのではないか。何を謝れば良いのかよく解らないがとにかく必死で謝れば許してくれるかもしれない、いやそうであってほしい。これが正に今の私の正直な気持ちです。眉間にものすんごい深い皴を寄せたスネイプ教授を見て、私は心からそう思ってしまった。

現在、私はダンブルドア校長のいる校長室のガーゴイルの前におります。
おじいちゃんから、『夜8時に校長室前で』という手紙を受け取っていた私は、着慣れないタキシードを着て、校長室へとやってきた所なのですが。静かな足音がして振り返ると、そこには先ほどの光景が、って訳。

教授ったらあからさまに不機嫌。っていうか怒ってらっしゃるようでございます。きっとダンブルドア校長に嵌められたんだろうな。

「スネイプ教授、こんばんわ」

一応挨拶は礼儀だよね。そう思い挨拶をしてみる。すると、教授からはうなり声が聞こえた。


こ わ い で す が


私は聞かなかったことにしようと思い、

「教授の所にもお手紙が届いたのですか?ということはこれからダンブルドア校長と一緒にお出かけですか?実は、僕の所にも手紙とこのタキシードが届いたんです。…教授、何処へ行くのかご存知ですか?」

と聞いてみた。教授は返事をしてくれないのではないかと思ったが、

「…そうだ。何処へ行くのかは我輩も知らぬ。しかし、校長命令では逆らえぬだろう」

と言ってきた。教授、不機嫌度指数がMAXですね…。
教授ははぁ〜……とため息をつくと、

「仕方ありませんな。では行くぞ。…カエルチョコ!」

教授がそう言うと、校長室へと続く階段が出現し、私と教授は一緒に校長室へと向かったのだった。




校長室の中にはダンブルドア校長がいた…って何で校長先生だけ正装をしてないのかな?私がハテナって顔をしていたのが分かったのか、おじいちゃんはほっほっほ〜と笑い、私に爆弾発言を落としてきたのだ。

「レイよ、その正装、よく似合っておるの〜、さすがは我が孫じゃ!今日はワシからのクリスマスプレゼントとして、一緒にオペラ鑑賞をしようと考えておったのじゃ。チケットもちゃんととっておいたのじゃが、残念なことにワシは魔法省に呼ばれてしまっての、一緒に行けなんだ。
しかし幸いにもセブルスが一緒に行くことになっていたからの、お前達だけでも楽しんできておくれ」

おじいちゃんはそう言うと、にっこりと笑った。
ってはぁ、私とセブルスだけ………え、私とセブルスだけ?


私とセブルスの 二 人 だ け???


いやそんなまじで本気ですか私幸せすぎて死にますがどうしたっていうのさ校長私の心読んだの魔法使いだからそれもありかもしれん。

一瞬で頭をよぎった。いやあのでも恥ずかしいのですが。…嬉しすぎて今心が宇宙を駆けたよ。妄想するのと現実では違うよ。まじですかい。いやでもまてよ…。

「え〜!おじいちゃんどうして!クリスマスプレゼントなんてもう貰ったじゃないか。そんな高価なプレゼントなんかなくたっていいのに…。
や、勿論嬉しいけど。おじいちゃんはどうしても行けないの?」

できれば、せっかくチケットを取ってくれたおじいちゃんとも一緒に行きたい。勿論教授と二人きりというのは大変な魅力ですが。
ダンブルドア校長はほっほ〜とまた笑うと、すまなそうに言ってきた。

「どうしてもだめなんじゃ。大切な集まりでの。…セブルスでは役不足かもしれんが、勘弁しておくれ」

いやあの校長それってひどくないですか。教授がかわいそうですが。
スネイプ教授がフン、と鼻を鳴らすと、

「役不足と言うのであれば、喜んで辞退しましょう。我輩も暇ではないのでな」

そう言うとローブを翻し校長室を出ようとした。ええ、教授行っちゃうのぉ……。
私がしょぼーん、としたのが解ったのだろう。校長が、

「ほれ、レイよ、泣くのではない。セブルスはそんなことはせんよ。もちろん一緒に行ってくれるに決まっておるでの、大丈夫じゃ」

いやあの校長私泣いてませんので。それにさっきからさりげなくスネイプ教授に酷くないですか?これ、いわゆるパワハラ? スネイプ教授はツカツカと私の側まで来ると、私の顔を見てまたはぁ、とため息をついた。

「……わかった。では同行しよう。言っておくがくれぐれも浮かれすぎぬように」

とそっけなく言ってきた。教授、一緒に行ってくれるの!嬉しいよ〜オペラなんて初めて観るんだもん。それも大好きな人と一緒に。私はとっても嬉しかったので、思わず教授に飛びついてしまった。

「ありがとうです!スネイプ教授!本当に嬉しいです!」

うう、嬉しすぎる。
おじいちゃんがそれを見て少し寂しそうにしていた。あ、ごめんおじいちゃん。私はおじいちゃんにも抱きついた。

「おじいちゃん、ありがとう!本当は一緒に見に行きたかったけど、仕事じゃしょうがないよね」

私がそう言うと校長は笑って、

「楽しんでおいで」

って言ってくれた。うん、すっごく楽しみ!

オペラ座へは漏れ鍋まで煙突を使って行き、そこからロンドンまでは車で行くということだった。うう、また煙突ですかい。
私はげっそりとしてしまった。あれ、苦手なんだよな。




校長室の煙突を使用して漏れ鍋へ行った後(やっぱり具合悪くなってしまい教授に介抱されてしまった)、車でロンドンへ向かう。車はリムジンだった。校長、孫に贅沢させすぎではないですか。
今日の教授はローブを着ているので中の服装がわからない。けど正装をしてきているはずなので私と同じタキシードだろう。きっとかっこいいだろうな、あ、鼻血でそう。携帯持ってくるんだった。写メ撮りたかったよぉ。
私が妄想に浸っていると、隣に座っている教授がポツリと言ってきた。

「そのブレスレット…つけて来たのだな」

あ、教授気づいてくれた?とっても嬉しかったから今日つけてきたのだ。

「ええ、そうなんです。普段はもったいなくってつけられないと思うんですけど、今日は特別だから…。本当にありがとうございます!大切にしますね」

私はブレスレットを教授に見せる笑った。
教授?何でか手で口を押さえて横を向いてしまった。
教授も私が編んだマフラーをしてきてくれている。それ、正装に合わせるには見劣りすると思いますが。

「教授も、僕のプレゼント、使ってくれているんですね。でも正装にはちょっと見劣りしますね。今度はちゃんとしたものを贈りますから!」

私がそう言うと教授は私を見つめた。教授、顔近い!何か恥ずかしいんですが。
こんなに接近したことないよね。ここ車の中だし、顔が近いのは当たり前か。

「レイが編んでくれたものだ。見劣りするということはない。我輩も大切に身に着けるとしよう」

教授はさらっとなんか凄い事を言うと、

「そういえば、ダンブルドア校長もマフラーをしていましたな。あれもレイが編んだものなのか?」

と聞いてきた。何か…教授、機嫌悪い?

「ええ、そうです。ここに来てとってもお世話になったから感謝の気持ちを込めて…ってどうかしましたか?」

私がそう言うと教授は窓の外を見ながら、

「…他にもいるのか?」

と聞いてきた。他にもって…何のこと?

「他にもって、何のことですか?」

私が聞くと、教授は私の方を見ず、窓の方を見たまま、

「…マフラー」

とポツリと言って来た。これってもしかして…いや、まさかね。

「マフラーを編んだのは教授とおじいちゃんだけです」

そう言うと教授は私の方を見て、

「本当か?」

と聞いてきた。教授、どうしたんだろう。

「ええ、そうですよ。時間もなかったし、急いで編んだから二人分だけしか出来なくて」

私がそう言うと、教授は何故か機嫌が良くなっていた。まさかね、違うよね。そんなはずないよね。これじゃあ教授が嫉妬してるみたいじゃないか。そう考えて私は急いでその考えを速攻で否定した。
いやそんなはずないし。私グリフィンドールだし、今男だし。気のせい気のせい。
私は慌ててその考えを振り払うと、話題を他に向けることにした。

「そういえば、今日のオペラって演目は何ですか?」

教授は知っているんだろうか。

「たしか…“椿姫”だな」

有名どころですね。

「“椿姫”…それってどんな内容なんですか?」

本当はちょっと知っているけど、一応聞いてみる。教授は嫌がらずに答えてくれた。相変わらず、いい声で。

「“椿姫”というのは――」

結局オペラ座に着くまで、教授のオペラ講義は続いた。私はほとんど話しを聞いていなかった。教授の声にうっとりしちゃってさ。
えへへ、今日は教授を独り占めだもんね。嬉しいな。




*****




オペラ座に着くと着飾った人々が沢山いた。これ、皆セレブみたいだな。ドレス着てる。私も女だったら、こんな可愛いドレス着たいのに…。ちょっとしょぼーんとしてしまった。
受付でコートを預けると席に向かった。私達はボックス席だった。校長、どんだけ孫を甘やかすんだっつーの。
教授の格好はやっぱりタキシードだった。めっちゃかっこいいんですけど!普段から黒い格好をしているからあまり替わり映えがしないのではと思ったけど、これはこれで良いよ!うう、素敵すぎる…。
私が、

「かっこいいですよ、教授!」

と言うと、

「馬鹿者」

と返された。本気で言ったのに。
オペラ座ってすっごい豪華だな。席に着くとパンフレットをぱらぱらとめくる(ちなみに教授が買ってくれました)。結構有名な人がキャスティングされているらしい。
場内が暗くなってきた。そろそろ開幕だ。うう、どきどきしてきたよ。

「お前が緊張する必要はないだろう」

教授からつっこまれた。
だって、緊張するんだもの、こういうシチュエーション。だって、ねえ。




*****




嵌められた。完全に嵌められた。あの髭校長、魔法省からの呼び出しなど、でっち上げに決まっておる!我輩は、それに乗るつもりはなかった、断じてなかった…のだが。レイの、あの悲しそうな顔。くっ、校長め、あやつのあんな顔を見たら我輩が断れないのをわかっていたのに違いない。結局、一緒に行くことになってしまった。

くそ、これでは校長の思う壷ではないか!




案の定煙突を使うとレイは気分が悪くなってしまい、漏れ鍋で少々時間を食ってしまったが(次からは煙突を使うのは禁止だな)、我輩達を待っていたのはタクシーではなくリムジンであった。校長よ、孫に甘すぎやしないかね?
リムジンに乗り込み、ふとレイをみると、我輩がプレゼントしたブレスレットをしている。そのことを伝えると本当に嬉しそうにまた礼を言ってきた。

こやつの笑顔は眩し過ぎる。

我輩は赤くなった顔を見られたくなくて横を向いてしまった。するとレイからマフラーのことを言ってきたので我輩は驚いてしまった。見劣りするなど、そのようなことは一切ないのに。
むしろ、こんなに心のこもった贈り物を貰うなど、初めての事であったゆえ、非常に驚き、かつ嬉しかったのだ。自分の心が、まだそう感じることができるとは、我輩も驚きではあったが。

それにレイのような可愛らしい、しかもグリフィンドールの生徒が、何故これほどまでに我輩を厭わず、慕ってくるのかがよくわからん。そして我輩もそれを不快に思わず、むしろ心地よいと感じてしまっておる始末…。我輩はどうしてしまったのだろう。こんなことでは、いけないのに。

それに校長のマフラーを見た瞬間、我輩の心に湧き上がった気持ち…。あれはどうみても…。そしてそれを思い出し本人に確認してみずにはいられない。
ああ、我輩は一体どうしたというのだろう。これではまるで嫉妬ではないか。




初めてのオペラ座であったゆえ、仕方なかったのかもしれんが、レイはきょろきょろと色々な物を見て、目を輝かせておった。受付でコートを預けた際、我輩を見て、

「かっこいい」

を連発しておったな。馬鹿者、褒めすぎた。
オペラが始まった。すばらしい歌声であったが、我輩はオペラよりももっと見たい物ができてしまった。

そう、レイだ。

なんと感情豊かな表情をするのであろう。主人公が泣くと一緒に悲しそうな表情になるし、青年との逢引では頬をうっすらと赤くして照れておった。見ていて飽きない。ずっと見ていたい。目が離せないのだ。

これではまるで…まるで…。

そこまで考えて我輩ははっとしてしまった。いや、断じてありえん!あってはならん!いや、しかし…。我輩は嵌ってしまった。それはもう完璧に。これはいわゆる例の病というやつか…?我輩はため息をついた。

これはポッターより性質が悪い。




悩んでおったゆえ、気づくのが遅れてしまった。保護者として付いて来たのに、面目もないが…。幕間になったので、一度ボックス席を出て、軽く飲食をしようということになったのだ。我輩が目を離した隙に、どこの誰か知らぬ輩にアルコールを飲まされたらしい。我輩が気が付いた頃には、レイの目は潤んでおり、顔はほんのりと赤かった。

「きょーじゅ、なんか気持ちいいれす」

口が完全に回っていない。

「何を飲まされたのだね」

冷静を装っているが、我輩は動揺しておる。レイはキャハハと笑うと、 

「なんれしょーかね?初めて飲むからわかりませんのら。泡が出てたよーな気がしまふ」

…シャンパンか、スパークリングワインか。おそらく前者であろう。我輩はくるくると回りながら笑っているレイを捕まえると、

「それはシャンパンだ。レイよ、お前は今、酔っているのだ」

そう告げると、レイは我輩をじっと見つめてきた。そんな潤んだ瞳で我輩を見るな。

「酔ってる〜?ええ、なんれれすか?きょーじゅになら酔ってまふ〜」

レイはそう言うと我輩に抱きついてきた。公衆の面前ではしたないぞ!
これではだめだ、オペラどころではない。すぐにレイをホグワーツに連れて帰らねば…。

「レイ、ホグワーツに帰るぞ」

そう告げると、千鳥足のレイを何とか連れて受付にコートを取りに行く。オペラ座を出ると、路地裏に回り込む。抱きついてくるレイをしっかり抱え、我輩は姿現し呪文を唱えた…。




レイを抱き抱え、なんとか我輩の部屋まで辿り着いた。こやつを寮の部屋には連れて行けぬ。ポッター達がいるからな。
仕方ないので我輩のベットに寝かそうとすると、レイは何故か我輩に腕を回し、離れようとせぬ。かなり、酔っているようだった。我輩は困惑した。

「レイ、離したまえ」

冷静に命令してみる。
しかしレイは首を振ると駄々をこねて、

「い〜や!」

と言ってきおった。

「きょ〜じゅも一緒じゃないと、嫌らもん!」

だから、そんな潤んだ瞳で我輩を見るな!
頬はほんのりと上気しており、唇は濡れたように赤い。ああ、何て、愛らしいのだ。

「レイ、今の状況はよくない。お前は酔っておる。まともな思考判断ができていない。きっと後悔することになる。だから…離したまえ」

我輩の理性を総動員して何とか答える。

「きょ〜じゅになら、もうずっと酔ってるよ。だから…来て。きょ〜じゅ…セブルス、大好き……」

なんという状況でそんなことを言うのだ!我輩は流されそうになる気持ちを何とか踏みとどまらせようともがいた。

「…駄目だ。冷静な状況になったときに、もう一度同じことを言ってくれ。そうすれば我輩は――」

「何をごちゃこちゃと言ってるんら〜?その口か〜?」

レイはそう言うと、我輩の首に両手をかけると顔を近づけてきた。
………今のは一体なんだ?ひょっとして…キス、されたのか?

「やめたまえ!そんなことをしたら――」

我輩が必死で話しかけているのに、こやつはまたキスをしてきた。
もう限界だ、どうなろうと知ったことか!


我輩はレイの身体をしっかりと抱き返すと、

「いたずらをし過ぎなお子様には、お仕置きが必要ですな」

そう言い、驚いているレイの唇に噛み付くようにキスをした。

「んっ……せぶ……」

答えなどできぬよう、深いキスをしてやる。お前から誘ったんだ。我輩はレイの唇を存分に味わった。
やっと唇を離すと、親指でレイの唇をなぞった。ああ…ついにやってしまった。

「レイ、火遊びも大概にしたまえ」

我輩はそう言ったが、返事がない。ふとレイの顔を見ると、寝ているではないか!それはもう気持ち良さそうに。
我輩はため息をつくと、レイをベットへと寝かせた。




ついにやってしまった。
何となくそうではないかと思っていたのだが、我輩は、レイのことが好き、なのだろう。リリーを愛して以来、もう二度とそんな気持ちになるとは思わなかったが。

我輩が、子供で、しかも12歳の男の子に恋をするなど…人生は分からないものだ。
レイの寝顔にもう一度口付けると、我輩は溜息をついた。我輩と同じ気持ちをレイが抱いてくれていると良いのだが。


今日は我輩の受難の日だと思っていたのだが、どうやらそれは受難の日々の始まりであったようだ。我輩はもう一度溜息をつくと、机に向かって書類を整理することにした。




まったく、何てクリスマスだ。
だがこんなクリスマスも…悪くないのかもしれんな。


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