3 ついていけない
飛行機に揺られること約8時間。やっと、ニューヨークに着いた私は、久しぶりの飛行機にヘロヘロになっていた。
アランが私を甘やかすから、なんと!生まれて初めてビジネスクラスに乗せてもらったのだけど、あの異常なくらいの高級感に付いていけない私だった。
しゃ、シャンパンとか飛行機の中で飲むっけ?せめてビールでしょ?
飛行機の中でナイフとフォークとか…格好つけなくても良いのに。
せめてアランと一緒だったら楽しめたのだけど。私は溜息を付くと、入国審査を受けた後荷物を持ってアランが送ってくれた紙を取り出した。えっと…次は…っと…、
『名前を書いたカードを持っている人に、ホテルまで案内してもらって――ってアレ…かな?』
私の目線は、出待ちをしている人達の中からある人の前でピタリと止まった。すっごく背が高くて、高そうな服を着ている人だけど…。
「レイ・カンザキですか?」
「あ、はい……」
「よかった!既に押しているのです。さ、早くこちらへ!」
押してる?
どういう意味だろう、と考えている間に、その男の人は私の身体を支えながら、丁寧に、かつ確実に私をせかしてきた。
「ってどこに行くんですか〜!」
「まずは美容室へ!」
び、美容室〜〜?!
「ちょ、ちょっと待ってくださ―――」
「申し訳ありませんが待てません!さ、ボブ、出してください」
車の中にあれよあれよという間に押し込められてしまう――ってこの車リムジン!!アランったら一体何を考えてるの?!
車は静かに、けれど徐々にスピードを出しながら何処かへと向かって出発した。あ、どっかの美容室に向かってるのね…。
私を強引にエスコートした男の人――わりとイケメンだった――はにっこりと笑うと恐ろしい台詞を言ってきた。
「時間がありませんので1回しか言いません。よく聞いてくださいね?Ms,カンザキ、あなたはこれから美容室でセットとメイクをし、その後場所を移して衣装チェンジをしてもらいます。予定より30分遅れでスケジュールが動いていますので休憩は無しです。長旅でお疲れの所申し訳ないですが……」
セット?メイク?衣装チェンジ?
アランに逢いに行くのに、どうしてそんなことまでしなくちゃいけないの…?
ぽかーんとする私に、イケメンさんは笑った。
「可愛らしい御嬢さんですね。アランから、何も聞いていないのですね?」
「聞いていないって…何を?」
「……何でしょうかね」
「聞きたいのはこっちです!」
「そうですよね〜」
はぐらかされた!!
これでもかってくらい混乱している私のことを、彼は十分に理解していると思うのだけど…そこは軽くスルーされてしまう。
「シンシアに言わねば…髪の毛の量が、写真よりも多いようだし……それに思ったよりも……」
「あ、あの…?」
「服は……やっぱりプランBにしよう……」
「も、もしも〜し……」
ブツブツと呟きながら、携帯をいじっている。またもや、私を無視、だ。
一体……どうなってるの?!
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