イブ 15時
ところ変わってここはグリフィンドール寮。
自室の鏡の前で、レイは、青くなったり、赤くなったりを何度も繰り返していた。
何故彼女がこんな人間信号機と化しているのか……その理由は先ほどの男が原因であった。
そう、暴君ネロも裸足で逃げ出す、全身黒ずくめのねっとり男…セブルス・スネイプである。
「ど、どうしよう…。ついにイブになっちゃったよぉ〜…」
髪の毛を何度もいじりながら、ぶつぶつと呟くこの娘は、非常に珍しいことに、あの、陰険薬学教授にホの字であった。
どっかに頭をぶつけたとしか思えないが、彼女は真剣に、スネイプのことをただひたすらに長い間片想いしていたのだ。
入学してからずっとだ。
今年で15になるこの少女――名前をレイ・カンザキというのだが――は、友人とある約束をさせられていた。
それはすなわち、
【イブの日に、片想いの相手に告白する】
というものであった。
気の良い友人達は、レイが長い間片想いしていたことを知っていた。
何度も相手の名前を聞き出そうとしたが、頑なに名前を言わないレイのことを、密かに応援したいと考えていたのだ。
そこへ、今回のダンスパーティである。
これは……チャンスは、今しかない!!
友人達は考えた。
この人一倍、謙虚で、控え目で、とても恥ずかしがり屋なこの子がアクションを起こせる日は、今日をおいて他にはいない、と。
本人からしたら、放って置いてもらうのが一番ありがたいのだろう。本人は毎日スネイプの顔が見られて、その声が聞けて……時折、視線が合う、ただそれだけで幸せだったのだ。
想いが叶うはずなどないと、そう思っていたのだった。
友人達に囲まれ、好きな人を言いなさい!と言われて拒否したら……友人の一人がニヤニヤしながら言ってきたあの一言は、後から考えると罠だったんだ、とレイは半べそで考えた。
「ふ〜ん…じゃあ、しょうがないから……好きな人の名前を言わない代わりに、イブに告白してきてね!
後で必ず確認するからね……?」
そ、そんな!!
がーん、という顔をするレイひとりそっちのけで、友人達は話に夢中だった。
レイをどうやって可愛らしく着飾るか…。彼女達のプロジェクトは、進行していったのであった。
「ねぇ……どうしてもしないと駄目?告白……」
「「「「ダメ」」」」
「ねぇ……どうしても着ないと駄目?このドレスとか……」
「「「「ダメ!」」」」
「うう……恥ずかしいよぉ……ッ」
瞳をウルウルさせながら友人達を見上げるレイは、食べてしまいたいくらい可愛い。
もっと自信を持てば良いのに、元来異常なまでに謙虚なこの娘は、自分に全く自信を持てずにいた。
「当たって砕けたらどうするのよぉ〜…」
「うーん……その時は骨くらいは拾ってあげる♪」
「うう…そんなぁ…」
ケラケラと笑う友人を恨めしい顔をして見つめる。
そんなことをしていると、友人の一人が手をたたきながら言ってきた。
「おしゃべりはそろそろおしまいよ!じゃあレイ……そろそろ準備しましょうか?」
「え?だ、だってまだ15時じゃない。まだ早いわよ―――」
「甘いわ!!乙女の仕込みには十分な時間と労力が必要なのよ……ってことで、はい、これ」
友人はレイに、入浴グッズを渡した。
へ?という顔をするレイに、にっこりと笑顔で爆弾発言をさらっと落とす。
「監督生のバスを貸切りにしといたから、そこで隅々まで綺麗に洗ってきて頂戴ね♪
おへそとか足の間とかも特に念入りに洗うのよ?愛されちゃっても良いように…ね…」
「な…な…な……」
一瞬でトマトのように真っ赤になったレイを部屋から押し出しながら、友人は言った。
「なんなら手伝おうか?」
「結構です!!」
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