イブ 20時
ついに、ダンスパーティが始まってしまった……。
友人達に、あっちを引っ張られ、こっちを撫でつけられ…そっちを寄せられて……綺麗に着飾ったレイは、瞳をウルウルさせながら、地下室へとトボトボ歩いていた。
パーティの会場をおっかなびっくり覗くと、そこに、目当ての人物はいなかったのだ。
当然といえばそうである。
騒がしいことが大嫌いな彼が、ここに居るはずがないのだ。
(良かった…ってことは、告白出来ないんだからしなくっても良いよね…?)
ホットした顔でそう友人に言ったら。彼女達はニッコリと笑いながら恐ろしいことを言ってきた。
「探しなさい」
「………はい」
それゆえ、レイは一人、地下室へと向かっているのである……。
「ううっ……皆のばかぁ…っ」
ぼそぼそとぼやきながら、螺旋階段を一段、また一段ずつ下がっていく。ゆっくりと歩いているのは、少しでも遅らせたいからに他ならない。
告白なんて馬鹿げている…きっと、本気になんてしてくれないに違いない。
彼のことだ、最大に減点して、懲罰までくらうかも。
ちっとも甘くない未来の予測がくっきりと見えて、レイは瞳をさらに潤ませた。
そんなことを考えていたので、後ろから何かがやってくる気配を感じ取ることは、レイには不可能だった。
ひゅっ、っと一瞬の風。
ん?と思った瞬間、レイの身体は前に投げ出された!
「きゃーっ!!」
「けけけっ!ばーか!ぼぉっとしているお前が悪いんだよぉ〜〜」
螺旋階段を転がり落ちるレイを楽しそうに見ているのは、ピーブスだった。
「へへっ!メリークリスマス〜♪」
やけに上機嫌に去っていくピーブス。
レイは螺旋階段を転がり落ち……そして、ややしばらくの後、レイの身体は、かなり派手に扉にぶつかって止まった。
そう、セブルス・スネイプの自室の。
ドゴン!!その大きな音に、スネイプはペンを止めた。思わず眉間にシワを寄せる。
一瞬、あのいたずら双子の仕業かと、スネイプは考えた。
(クリスマスくらい、おとなしくしろ馬鹿者!)
怒鳴りつけてやろうと、杖を持ち扉を開けると………そこには、女生徒が一人、呻いていたのだった。
「い…痛ッ…」
「………なにをしている」
スネイプのその声に、レイは目を見開いた。そしてスネイプを見つめる。スネイプの視線は、レイのめくれ上がったスカートを見ていた。
セブルス・スネイプもそこは男。スカートの中にはそれなりに興味があるらしい。
(ふむ……ガーターとは…なかなか……)
「あ、あのっ……驚かせちゃってすみませんっ!」
女生徒は慌ててスカートを整えると、立ち上がった。とたんに鋭い痛みが走り、レイはバランスを崩してしまう。
「痛ッ!!」
「危ない!」
スネイプは転びそうになるレイを慌てて支えた。柔らかな感触に内心驚きながら。
「大丈夫かね?足をやられたか」
間近で聞こえるスネイプの声に、レイの心臓の音は破裂しそうだ。
(私…先生に抱きしめられてる…?)
「ああああのっ!これくらい大丈夫で――痛ッ!!」
恥ずかしさのあまりスネイプから身を引こうとしたレイは、右足に体重をかけようとして、痛みにまた、バランスを崩してしまう。
スネイプは慌ててレイをもう一度支えた。
「無理をするものではない。歩けるか?いや、無理だな……失礼」
スネイプはそう言うと、レイをひょいと抱き上げた。俗にいうお姫様抱っこというヤツである。
緊張と興奮で硬直してしまっているレイは、言葉一つ話せない。
この状況が信じられないからだ。
「我輩の部屋で休め…傷薬くらいなら常備してある」
「は、はい……」
やっとのことでそう答えながら、レイは、この時初めて、この片想いの相手、セブルス・スネイプの私室へと招かれたのであった。
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