君がここに居合わせることはわかっていた。
そして、その命を危険にさらすことも。
だが……私はテロリストのボス。目的のためには手段を選ばない人間。
例外など、つくれるはずもない…。
冷静な顔をして、犯行声明文を読み上げる。
目は、高木社長を探しながら、頭は、君のことを考えている。
いつもの、あのお堅いスーツを着てきているだろうか。
朝は、いつも通りあのカフェでコーヒーを買ったのだろうか。
今日は、あの男は居なかっただろう?
いいや、2〜3日前から見かけなかったはずだ。君の隣にいつも座る忌々しい男は。
あの男は永遠に君の側には来られない。
何故なら、今頃、河に浮いている筈だからな……。
高木社長と友好的な話が出来ればすぐに終わるが……おそらく、そうはならないだろう。
そうなった時、君と……もっと深く知り合わなくてはならない。
もっと、もっと深く……。
部下達が君を狙わないように目を光らせなくては、な。
酷く、魅力的な君だ。部下の中には手の早い奴もいる。
普段はそんな事、気にも留めないが……もしもメイ、君に手を出したりしたら…私は自分がどうなってしまうのか、心配だ。
正直、金などどうでも良い。
今は、金では手に入らないものが欲しい。
欲情に染まった君の瞳……あの甘い喘ぎ声をもう一度聞きたい。いや、何度でも聞きたい……。
何故君は、高木社長の姪なのだ?
どうして私達は、こんな場所で出逢わなければならない?
洒落たレストランなどではなく、犯罪現場で、など……ロマンの欠片もないではないか。
銃声と怒号、悲鳴と暴力の中でしか、君と居られないとは、な。
本当は、君とはもっとロマンチックな関係でいたかった。
そんなことを考える自分を嘲笑う。ハンス、しっかりしろ。今は女だけに現を抜かしている暇はないはずだ。
そう、計画を成功させることを第一に考えなくてはならないのだからな。
計画はあくまでも計画。上手くいかないことや、計画通りにならないことも出てくるはずだ。
部下もきちんと統率しなければならない。
私は無事に計画を遂行できるだろうか。
そして…願わくば君を、手に入れられるだろうか、メイ………。
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