アラン・映画夢 | ナノ

5 覚悟



トイレのドアを閉め、プライバシーが保たれた瞬間、私は急いで視線を彷徨わした。
どこか、逃げる場所があるはず……!


見上げたその先には、窓があった。なんとか、人1人くらいなら抜けられそうな、小さな窓だったけど。
あそこから、逃げられる―――?そう思った私は、窓を開けようとした…って、あれ?取っ手がない。




そう、その窓には、取っ手がついていなかった。

いや、開けられないし。窓の意味ないし。



これは、逃げられなくするための処置なんだろう。私は溜息を付いた。窓から逃走は無理だということね。
私はもう一度辺りをみまわした。なにか…武器になるようなものは……?


けど、トイレだから当然ながらなにもない。お掃除グッズもなかった。ここ、掃除しないのかしら…。汚いわね。
あとはトイレットペーパーしかないじゃない。こんなものじゃ、身を守れない……。




OK、解ったわ。ここから逃げるのは不可能。身を守るものもない。
あの背の高い隣人から身を守る方法はないということなのだ。いつも使っていたバッグの中には催涙スプレーが入っていたけど、ここに連れてこられた時、私はまさに、着の身着のまま。持ち物なんてなかった。

私はトイレに掛けてあった鏡を見つめた。そこには緊張し顔の青い私が映っていた。髪は乱され、ぼうぼうの状態で。しかも、泣いたからメイクが落ちてる。私はティッシュを濡らして顔を拭いた。縛られた両手で身だしなみを整えるのは、かなり難しかったけれども頑張って、手で髪を撫でつける。今は少しでも人間らしいことをしたかった。

呑気に何をしてるんだって思われるかも。でも今こんなことをするのは、私が非人間的な事をされているからなのかもしれない。





少し落ち着いた私は自分の身体をみまわした。



まず、レイプはされていない。今の所。意識を失っている間にそんなことをされたなら、いくら私だって気が付くから。
下着はちゃんと穿いているし、ストッキングだって電線しちゃってるけど穿いている。
ブラウスのボタンは飛ばされちゃったけれど、ジャケットを着ていたから、ボタンを締め、ブラを隠した。

とにかく、隙を見せないようにしないと。それには、私が何故あの男――絶対に彼の名前はMr,フレミングじゃないだろうからもう男って言うことにするわ――にチョコなんてプレゼントしたのか、真相を言う訳にはいかない。
というか言っても絶対に信じてもらえなさそうだし。



じゃあどうするのか?






………どうすればいいの?







貴方のこと、密かに慕っていました…なんて口が裂けても言えないわ。


たまに、エレベーターで一緒になった時、心をときめかせていたなんて。

貴方に見とれ、どんな職業なのかしら、どんなものが好きなのかしら、と想像していただなんて絶対に言いたくない。言ったらどうなるのか怖い。





しかも、一方的に好意を持っていた人に、気絶させられるわ、攫われるわ、ナイフで脅されるわ……有り得ないし。こんな危険な人だって解っていたら、絶対にあんな感情を抱かなかったに違いない。





私、どうしたらいいの?



頭のいかれた男――しかも私好みの容姿――に監禁されるなんて。





この胸の鼓動は、恐怖だけじゃない。そう、私ったらこんな状況に陥っても、貴方のことが…………。





……………。




夢なら醒めてほしい。私は目を閉じた。次に目を開けたら、きっと自分の部屋の、ベットの上で、いつものように出かける支度をして、職場へと向かうんだって、そう思いたいけど。



そろそろ5分経ってしまう。ずうっとここにいるわけにはいかない。彼の提示した時間が過ぎてしまうのだ。
仕方ない。私は覚悟を決めると、深呼吸を一つして、扉を開けた。


(H23,12,11)

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