企画 | ナノ


▼ 愛にこたえよう

※このお話は、【愛にこたえて】と関連のあるお話となっています。




今まで、我輩の人生において、誕生日を特に重要と思ったことはなかった。
誕生日というものが、祝うものであるということを知らなかったのだ。

それがあるとき、思いがけない状況で祝われた。そして、その相手というのが…まさか、お前とは。




見抜かれていたとしか思えない。
いつの間にか芽生えてしまったこの感情を押し殺し、教師としてお前と関わっていた、この我輩の恋心を。
自分の心に何重にも鍵をかけ、悟らせまいと振るまってきたのに、レイ、お前という奴はその鍵をやすやすと開けてしまった。


プレゼントは正直、嬉しかった。
我輩が長年探していた専門書で、もう手に入らないと諦めていた品物だったから。


だが、手に入れた瞬間、もっと欲しい物があったことに気づかされた。
“一人静”の栞の香りで……。




何故、君のことを好きになったのだろう。
君は生徒で、我輩は教師。しかも、我輩とは年もかなり離れておる。

普通なら、そのような感情が芽生えることはないと思われるのだが…。


気が付けば目で追っている自分に気づく。


綺麗に撫でつけられている黒髪。我輩のそれとは比べるべくもなく、美しい。
微笑みは控え目なのに、その輝く瞳が我輩の心を捕えて離さない。
極めつけはあの声だ。ほんわりと、心が温かくなる…君の声。


「スネイプ教授…?あの………これ…どうぞ……」


頬を薔薇色に染め、我輩に渡してきたモノが、レポートでなければ……あれが、恋の始まりかと確信したのに。

姿形ではない。
レイ、お前の全てに、我輩の細胞一つ一つが反応するのを感じる。
制御できない……これが、「恋」なのだな。


もう随分昔、我輩のこの錆びついた心に血を通わせてくれた人とは、共に歩むことは出来なかった。
だが、レイ、君となら……将来そうなれるかもしれぬ。


我輩はそんなことを考えながら、本を閉じた。栞は勿論、「一人静」。だがもう、この香りを切なく思うことはない。
何故ならば――――、




「スネイプ教授!お誕生日、おめでとうございますっ」


お前が我輩の隣で、こう言ってくれるからな。


「ごめんなさい、お誕生日のプレゼント、間に合わなくって……まだ、出来ていないんです」


恥ずかしそうに、申し訳なさそうに言いながら、レイは我輩から両手を隠した。
その指先には、いくつもの包帯が巻いてあるのを我輩は知っている。痛々しいその包帯に胸を痛めながらも、少しだけ…いや、かなりの優越感を感じてもいるのだ。
おそらくは、料理か調合をしていたのだろう。ただし、失敗してしまい、我輩の誕生日には間に合わなかった、ということではないかと我輩は踏んでいる。


我輩のために、怪我をしたのか。癒しの魔法も使えないのに、無茶をしおって…。


我輩は苦笑しながら、レイの包帯だらけの手を取った。唇を寄せ、そのひとつひとつにキスを落とす。


「あ、あの…っ……きょうじゅ?」


愛しい…愛しい…愛しい…。
言葉では足りないくらいの愛しさがこみ上げる。


顔を真っ赤にさせ、目を泳がせるレイの、そのあまりの初々しさに我輩がノックアウトされそうだ。

我輩は杖を這わせると呪文を唱えた。もう、痛まないように。そして、愛しいお前の美しい指先は、美しいままであるように。


「いらぬ」

「……え?どうしてですか?」

我輩の言葉に、驚くレイ。
我輩は微笑むと囁いた。愛を込めて。

「もう、もらった」

「?」


わからないのだな。そんな所も可愛いと思う我輩は、どう考えても末期だ。




レイ、お前が居る。
お前が我輩の隣にいて、微笑んでくれる。
それが我輩にとって一番のプレゼントなのだ……。




喉の奥で笑うと、有無を言わさず、レイをローブの中に閉じ込めた。
この想いをわかっていただくのには、言葉では不十分だからな。覚悟は良いかね?レイよ。

今日は我輩の誕生日。多少のワガママは許していただこうではないか。



無言呪文で部屋に鍵をかける。
これから、誕生日のプレゼントに思う存分触れて、楽しませていただこう……。




(H25,1,07)


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