3 秘密を知る者
「君は、一体どこから来たのかね?」
ダンブルドア校長が青い目をキラキラさせて女の子へ言った。
女の子――彼女はシズノ・ニイザキと名乗った――は首を傾げながら校長へと答える。さらりと流れる黒髪が綺麗だなんて、僕はそんなことをぼんやりと思っていた。
「どこって…日本です」
すると校長は目を見開く。
「ほぉ、日本とな?随分と遠くから飛ばされてきたのじゃなぁ〜…」
アジアの小国じゃの、と言いながら校長は髭を撫でた。
ニホン……?一体どこの国だ?
僕が世界地図を思い出しながらニホンという国を探している時、ニイザキは首を振ってきた。
「違います、ダンブルドア校長先生」
「違う…とな?」
「はい。私が住む日本は、この世界には存在しません」
ニイザキの言葉に、僕は心底驚いてしまう。
校長は髭を撫でながら言った。校長はいつでも冷静だ。
「この世界に存在し得ぬとな?」
「はい、そうです」
「何故それが解るのじゃ?」
そうだ。どうしてそんなこと一瞬で理解できる?僕だって不思議だった。
するとニイザキは笑うと、最初に僕、そして校長を見つめた。
………?
「貴方達がいるからです」
なんだって?
「僕達が居ることが、どうして君の故郷が存在し得ないことと繋がるんだ…?」
意味がわからない。
僕の問いにニイザキはためらっていたみたいだ。少しの間の後、彼女の口から出たその言葉に、僕は心底驚いてしまったのだから。
「だって……貴方達は本の中の人達なんですもの。私の世界では大ベストセラーよ?セブルス・スネイプ…そしてアルバス・ダンブルドア校長……偉大な魔法使いさん」
「にわかには信じがたいのぉ…」
僕が驚きに固まっていたら、校長はのほほんとそんな言葉を発していた。
本当にこの人は凄い。普通なら怒鳴りつけられたっておかしくない状況だった。信じられないような話だ。普通なら嘘をついていると思うだろう。
僕だってそう思っている。
名前なんて調べたらすぐに解ることだろう?ダンブルドア校長は魔法界では有名人だ。
僕のことは……不本意だが、ホグワーツでは有名だろうからな。
僕は胡散臭いモノを見るような目をしていたんだろう。それを見たニイザキがクスクスと笑ってきた。何が可笑しいんだろう?
『あなたって人は……やっぱり、想像していた通りだわね…』
「?なんて言ったんだ?」
「気にしないで?スネイプ君。大したことじゃないの」
スネイプ君なんて呼ばれたのは初めてだった。なんだか…背中が痒い。
「ワシらが物語の人物だとしたら…ワシらのことを知っているのじゃろう?証拠をみせてくれんかのぉ?」
校長はそう言ってきた。
そうだ。そうしてくれないと困る。本当かどうか解る手段は、もうそれしかないような気がした。ニイザキが真実を話しているのならば…。
するとニイザキはうーんとしばらく考え、そうしてしばらくすると苦笑した。
「本当に言わなきゃ駄目?」
「君を信じるためには必要なことじゃのぉ」
「どんなことを言っても…許してくれる?」
「善処しよう」
なんだか緊張してきた。ニイザキは僕らの何を、知っているというのだろう。
「アルバス……貴方にはご兄弟がおいでですね。綺麗な妹さんと、貴方と同じように髭をたくわえた弟さん……」
校長に兄弟がいたのか。僕は知らなかった。
ダンブルドア校長の目がキラリと光った。
「そのような事は…調べればわかることではないのかのぉ?」
「そうですね……では、ここからは貴方だけに……」
それから先の言葉は、僕には聞き取れなかった。
『貴方は妹さんの死に責任を感じていらっしゃる。妹さんを死に追いやったのは自分だと、今でも、攻め続けていますね?
貴方が独身なのは…過去に、もう二度と愛せないくらい、深く、ある人を愛したから…。その人のことを、今も愛している……だから…貴方は……。
ごめんなさい……。こんなこと、言うべきじゃなかった…許してください……』
何と言ったのかは解らないが、校長の瞳が悲しげに曇るのが解った。ニイザキはしゅんとしている。
そんなニイザキを見つめていたら、ふと、目が合った。
「スネイプ君のことは良く知ってるよ?私の大好きなキャラクターだもの!」
だ、だいすきだと……?
「冗談は止めろ」
笑えない冗談だろう。僕のことが好きだなんて…しかも大好きだなんてそんなこと有り得ない!!
「冗談なんかじゃないよ?セブルス君はね…とっても優しくて、思いやりがあって…そして一途な人だもの。
好きな子だってずうっと同じでしょ?あの子、可愛いわよね!緑色の瞳の…貴方の幼馴染……」
何でそれをお前が知っている!!
「な…な…な……!!」
反論できないくらい驚いている僕に気が付かないのか、ニイザキはさらにとんでもないことを言ってきた。
「思慮深くて…本を読むことが大好きでしょ?得意な科目はほとんどだけれど…一番は魔法薬学!闇の魔術にもちょっと詳しいよね?
自分で研究もしてて、新しい呪文なんか考え出そうとしていたり……するでしょ?」
どうしてそれを!誰にも言っていないのに……!
目を見開いて驚いている僕をすまなそうに見つめると、ニイザキはこう言ってきた。
「私、貴方達のことを良く知ってます。これから起こることも…。嘘じゃない、信じてほしいんです。貴方達を傷つけたことは謝ります。私、信じてほしかったの……」
ごめんなさい。そう言ったニイザキの顔は本当に悲しそうで、それを見た僕の胸は、何故かドキリとしてしまったのだった。
……何故なんだ?
(H23,07,24)