2 夢でもいいから
どんなに求めても、愛しても……この手をすり抜ける。
こんなにも苦しいのなら、このような感情は捨てるべきなのだろう。
ああ、それなのに。
あの子のふとした表情。その微笑み。
抱きついてきた、あのぬくもり。
そして………この部屋に残る、シズノの香りが、我輩の胸を、切なく苦しめる。
捨て去ることなど、とてもできぬ。
長い間待ち焦がれ、やっと再会できた、あの喜び。
お前を愛することで、我輩は生きる意味を知った。
この手に引き寄せ、抱きしめ………愛したのならば、二度と……離したくはないのだ…。
校長は、再び出逢えると言った。その言葉を………今は、信じよう。
我輩の指先から始まる、赤い運命の糸。
その先にいるのは………シズノをおいて他にいない。
ああ、シズノに逢いたい。
そして、シズノに触れたい。
それから、シズノに愛を囁きたい。
夢でもいいから――――。
我輩は一人、闇の中で苦笑する。
愛は、人を弱くさせるらしい。
このような言葉が、我輩の口から出ようとは……。
「ああ、シズノ……お前がいなくなって、我輩は狂いそうだ。
愛している……。この想いが届くのなら、いくらでも囁き、再び出逢えたのなら、何度でも口付けをするものを。
夢でもいい。幻でもいい。ただ今は…シズノ……お前に逢いたい…」
そう呟き、我輩はお前の香りが残るローブをそっと、抱きしめた――。
(H23,6,03)