1 運命の赤い糸
「校長!」
アフタヌーンティーをゆっくり取っている時、血相を変えたセブルスがやって来た。
これは……恐れていたことが、起こったのかのぅ。
ワシはゆっくりとカップを置くとセブルスに言った。
「セブルス、何事じゃ?」
「あ…あの子が…ッ……あの子がおりません!!」
やはり…か……。
先ほど、時空の歪みを感じた。やはりあれは、あの子が還ったため……か。
ワシはセブルスを見つめた。髪は乱れ、顔色はいつにも増して青い。かなり、慌てているのだろう。珍しく服が乱れていた。
「セブルスよ……おそらく、ワシの見解が正しければ…シズノは還ったのじゃ」
「そ、んな……そんな!!」
拳を握り締め、ワシの前で震えるセブルス。か細い声で彼の口から言葉が零れ落ちた。
「また……我輩を置いていくのか………!」
その声はとても悲痛で、セブルスの声にならない苦痛が、ワシにも見えるようじゃった。
いつも厳格で、感情をほとんど出すことの無いセブルスが、これほどまで乱れるとは……、
この恋、本物じゃのぅ。
ワシは立ち上がると、セブルスの肩にそっと手を置いた。ビクリ、と身体を震わせ、ワシを見つめてくるその瞳は、傷ついた目をしていた。
「セブルス…待つのじゃ」
「また、ですか…。いつまでですか?いったい、いつまで我輩は待ち続けなくてはならないのですか……ッ」
「ワシの考えが正しければ…おそらくシズノはそのうち、セブルス…君が学生の頃に現れるはずじゃ」
「我輩の……学生時代に……」
「そうじゃ。君にとって、初めての出逢いとなった、あの湖のほとりに…おそらくは……」
「シズノに…また逢えるのですか…?」
肩に触れていたワシの手に、セブルスの手が重なる。こんなに不安そうなセブルスを見るのは、久しぶりじゃの。
ワシはフォッフォッと笑った。豪快に。そうしてきっぱりと言った。
「セブルス……彼女は必ず戻ってくる!いつか、まではわからぬが、必ず……必ずや君の元へ還ってくる。君達二人は、見えない糸で繋がっておるのじゃからの!」
「見えない…糸?」
ワシは笑いながら頷いた。
「そうじゃ!君達二人はな、“運命の赤い糸”で、しっかりと繋がっておるのじゃ。魔法使いのワシが言うのじゃから、真実じゃよ☆」
「運命の赤い…糸……」
そう言うとセブルスは、何故か自分の手をじっと見つめていた。なにか、シズノと約束でもしたのかのぅ?気になるのじゃが……。
「だから、セブルス……」
「はい」
「シズノに再会できるその日まで…伴侶として相応しいように、男を磨いておくのじゃぞ!介添人は、ワシがなってやっても良いからな!」
「な!何を言うのですこんな時に」
「いやいやいや〜…あながち、当たらずとも遠からずじゃろうて☆」
「う………し、失礼します!」
セブルスの顔色が良くなったの。大成功じゃな!
ずんずんと進んでいってしまい、部屋から出て行こうとしたセブルスに、ワシは声をかける。
「セブルス…待つのじゃ」
「………はい。ありがとうございます、校長」
そう言うと、セブルスは扉を閉めた。
恋の力は偉大じゃのぅ。次元や、時すらも越えるのじゃから…。
ワシもそんな燃える恋をしたいものじゃ。
「のぅ?フォークスや……」
キラリと尾羽を光らせ、フォークスが返事をしてきた。
今度シズノに逢えるのは、いつになるのかの?