「あついねぇ」
蝉の鳴き声が五月蠅い。太陽に反射する白いコンクリートがまぶしかった。屋上は、太陽に近い。
雲雀と名前がいるのは学校の屋上、昼過ぎの傾いた太陽のおかげでできた日陰である。日蔭といえど、もたれかかるコンクリートの壁はじわりとあつい。
ふと、隣で寝ころぶ彼女に目をやる。制服が汚れるなんてこと、彼女は頓着していない様子だ。
よほど熱いのか多少着崩した制服から、白い肌がのぞく。
ほてった頬はほんのり赤みをおびていた。
「…あつい」
呟いて、名前は目を閉じる。うんっと伸びをして、その白い腕はだらりと投げ出された。
「あー、あついよ、ひばりさん」
薄目を開けた名前は、ぼんやりと雲雀を見る。
「……うるさいよ」
「仕方ないです。暑いんですから……、ひばりさんは、涼しそうでいいですね」
いったい何を根拠にそう言うのか、名前はうらめしそうに雲雀に視線を送った。
雲雀は呆れたように名前を見返す。蝉が、五月蠅い。
「……あつぅい」
再び名前は目を閉じる。
蒸気した頬がピンクに映って不意に愛おしさに似た感覚をおぼえた。
薄桃色の頬は生きている証拠。
確かに名前は雲雀の目の前で、生きている。ばかばかしい。こんなことを考えるなんて。
雲雀は胸の中で呟いて、隣に寝転ぶ彼女の顔を覗き込んだ。
うっすらと汗ばむその白い首の両脇に手を付いて、じっと名前を見る。
「君、さっきからそればっかり」
雲雀の呆れた声に、名前はゆっくり目を開いた。
自分を覗き込む雲雀に、彼女はわずかに驚いて目をしばたかせる。
意図せず気だるげに雲雀を見る名前は、扇情的といえた。
「だって、あつい、」
「他に言うこと無いの」
名前は、目を細める。雲雀は表情を変えずに彼女を見つめた。
じりじりと暑い夏の日。
「じゃあ、」
赤い唇が遠慮がちにひらかれる。
一瞬、静寂が訪れる錯覚。
「好きです、ひばりさん」
そう言ってから、名前はまた目を閉じた。
自分でも気付かぬうちに、雲雀は微笑む。
聞こえるのはただ、蝉の声ばかりだった。
090729
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