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一方、幻術を解いた綾子は、今度は狐の耳と尻尾を生やした姿で、突然の侵入者と対峙していた。
相手は、どうやら狐のようで、道を塞ぐ綾子を機嫌が悪そうに睨みつけていた。

「聞こえませんでした?通りゃんせ…御用のないもの通しゃせぬ…っていいましたよね?」
「用があるから来たんだ。気配を感じる…ここにいるんだろ?」
「誰のことですか?侵入者なら、誰であってもそれ相応の罰がくだされるのくらい、
どのコミュニティーでも一緒じゃないですか?」
「お前が、俺の領地に不法侵入したときは、大目に見たつもりだったが?」
「あれま…やっぱご存知でした?」

どうやら、綾子が以前迷い込んだという、狐のコミュニティーの長が直々に現れたようだ。

「お前も、こちらが気づいているのを承知で、俺の領地に入ったんだろ?」
「まぁ、あの時は意図せず入ったんで、今回と同じケースとも言えますけどね…」
「だったら、今すぐあの子を返せ…」
「ですから、言ってるじゃないですか…迷子ならともかく、意図を持った侵入者には、罰がくだされると…!」

不敵にニヤリと笑った狐の姿をした綾子が手をスッと前に伸ばすと、
手のひらを上に向け、手のひらの上に小さな狐火を出現させた。

「戦うつもりか…」
「さぁ?どうでしょう…」

侵入者が苛立ちを隠せず、冷たい目をしたまま、綾子の様子を伺いつつ、
すぐに攻撃を仕掛けられるように身構えた瞬間、綾子の隣に杏が現れた。

「…殺気立った侵入者は、見逃せないね…」
「でしょ?」
「最初から殺気立ってたなら…ってことね?あえて殺気立たせたとなっては別だけど…」
「さぁ…なんのことでしょう?」
「…新手…天狗か…」

綾子だけならば、どうにかして押し通ろうとしていた侵入者だったが、杏が現れたことで、躊躇が見られた。
すると、次の瞬間侵入者の隣に、人間に近い人物が急に現れた。

「侵入者も増えたね…」
「あらま…侵入者その2…人形(ひとがた)の妖怪でしょうか?」
「ふざけるな…誰がその2だ…」

明らかに苛立っている新手だったが、侵入者が相当の使い手であることは、綾子も杏も感じ取った。

『ちょっと!まさか、引っ込みつかないんじゃないよね綾っち?』
『流石杏ちゃん…』
『いざとなったら、領地守るために見捨てるからね…』
『酷い…』

共に長く生活しているからか、テリトリー内ではたまに妖気を介して会話することができていた。
口に出さない分、侵入者に気づかれず会話ができた為、杏はそれを使い綾子に問いかけると、
綾子は案の定おふざけから引っ込みがつかなくなってしまっていた。

『亜梨ちゃん助けてぇ』
『うるさい杏…私がそこに着くまでになんとかしなよ綾子…』
『ぅえ?!私?!』
『当たり前だろ!』

怒りの余り、思わず口調をいつもにも増して荒げる亜梨馬に、綾子はため息を付いた。

「はぁ…とりあえず…行ってきま〜す…」
「ちょっ?!綾っち!」
「どうも、向こうさんもだいぶ【おこ】なので、骨は拾ってくださいね〜」
「ちょっと!!」

口調はふざけつつも、いつも飄々と生きている綾子には珍しく、目は何時になく鋭く、侵入者を見据えた。



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