19





めったに出さない綾子の鋭い目を見た杏は、久々に身震いするほどの恐怖を感じてた。
一方、綾子は再び何処からか仮面を取り出すと、今まで侵入者に合わせていた狐の変化を解いた。

基本、綾子は相手に合わせて変化をし、惑わすことで難を逃れていたが、
今回は侵入者のため、あえて本来の力を使うために、変化を解いたようだった。

「化け狸か…厄介だな…」
「チッ…」
「やれるか飛影?」
「さぁな…」

短く会話を交わした侵入者が、綾子に気を取られた瞬間、杏が大きな錫杖で侵入者に殴りかかった。

「…っ?!」
「油断大敵よ」

避けられることを想定していたのか、地面を強く叩きつけた杏がそうつぶやくと、侵入者は少し焦りを感じた。
まずは、今の杏の攻撃であたり一面砂埃で視界が悪くなったこと。
更に、杏の攻撃を避けた反動で連携を取るために側にいたはずが、バラバラになってしまったこと。
そして、何より大きな不安材料は、このコミュニティーの結界内で、
厄介な幻術を使うであろう狸と、力が強いであろう天狗らしき者を敵に回していることだった。


先に侵入していた狐が、何やら妖術で風を起こすと、砂埃は一瞬であたりへ散って視界は戻った。


侵入者二人は少し離れたものの、お互いの間合いを保ったままお互いの一を確認した。
少し先には、先程殴りかかってきた杏と、仮面から覗く口元が、不敵な笑みを浮かべている綾子が立っていた。

「…あらら…目くらまし、もう解けちゃいましたね…」
「まぁ、子供だましだから…」
「それじゃ、本格的に行きますか…」

緊張感しかないながらも、会話は茶化すような雰囲気で話を進める二人に、
侵入者が違和感を感じ、先の侵入者…狐の方が目だけであたりを見回し始めた。

「あら…よそ見してますわよ奥さん…」
「誰が奥さんよ綾っち…人のこと言えないかもしれないけど、余裕ね…」
「それじゃ…行きますか…」

綾子と杏が攻撃を仕掛けようとした時、狐は右後方の草むらに狐火を投げつけた。

「熱っ?!えぇ?!もうバレた!!」
「ふざけているのか…」
「さすが、年の功…まさか一瞬で見破るとか…」
「さすが化け狸だが…まだ術が荒いな…」

綾子の幻術を見破った狐から受けた狐火で、正面にいた杏と綾子は消え、
代わりに狐火があたった草むらの影から二人が出てきた。狐火があたったのか、
綾子の仮面は割れ、更にはあたりの幻術も解けていた。

「でも、時間稼ぎとしては十分ですよね?」
「何?」

見破られることは想定内だったのか、綾子はやはり不敵な笑みを浮かべていた。

「天狗か?!」
「しまった!」

後から来た侵入者の声に、狐が気がついたときには遅く、二人はそこ場から動けなくなっていた。



1/1
prev / next
list



Novel top / Top
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -