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少女は、綾子が指さした方へ黙って歩き出した。
そして、綾子もまたその後ろを黙ってついていく。
そんな綾子の腕に抱かれたままの琉紅は、しっかりと抱かれている為、
動くこともできず、ただ綾子に従っていた。

少女も、会話をしたわけでもないが、綾子の存在が緊張をほぐしているのか、
先程までよりは少し足取りも軽くなっているようだった。

暫く歩いていると、綾子が急に琉紅の喉元から口の当たりに手を当て、撫で始めた。
猫の姿である以上、否応なしに撫でられるのが気持ちよく、綾子に身を委ねていたが、
急に何やらピリピリとした気配を感じ綾子を見上げると、
綾子は琉紅を片手で支え、もう片方の手の指を立て、口元に当てた。

「にゃ?(声をだすなってこと?)」

首を傾げつつ一度小声で声を出し、それから黙った琉紅を見た綾子は、
仮面の下で微笑んだ。

そんな二人のやり取りを知らない少女は、ゆっくりだったが歩みを進めていると、
琉紅が感じた気配と同じものを感じ、突然立ち止まった。

何かがおかしいと、振り返るといつの間にか綾子の姿がその場から消えていた。

「…え?あれ!!」

後ろにいるとはいえ、足音も聞こえていたし、ずっと一緒にいると思っていた綾子の姿が急に消えたことに、
少女は一気に恐怖を感した。

すると、それに追い打ちをかけるように、当たりの木々が大きな音を立てて揺れ始め、
しまいには少女の立つ場所以外の木々の葉が急にバラバラと
何者かに切断されたかのように細切れになり、地面へと落ちた。

「ひっ?!」

突然のことで、理解が追いつかないながらも、思わず悲鳴を上げかけた少女がその場で立ちすくんでいると、
正面から人が歩いてくる影が見え始めた。

恐怖を感じながら、目を凝らして見ると、正面から歩いてくる人物は、大きな鎌を手に持ちながら、
無表情でゆっくりとこちらへ向かってくるのが見えた。

「ひっ?!!」

恐怖のあまり、声にならない声で悲鳴を上げそこねた少女が、
泣きそうになりながらその場で動けなくなっていると、
いつの間にか綾子が少女のすぐ隣にたった。

「っ?!!!」
「…………」

急に現れた綾子に、必要以上に驚いて、声も出せないくらいに恐怖を感じ、
目に涙をためる少女に、綾子は仮面越しに指を立て言葉を発しないようにするジェスチャーをした。

すると、琉紅を抱いたままの綾子は、まっすぐ正面の人物、鎌を手にした鎌鼬の璃尾狐に近づいていった。
少女から離れているため、二人の会話は届かないようだ。



綾子が猫の姿のままの琉紅をそっと璃尾狐に差し出すと、
璃尾狐は鎌を持ち替え、琉紅を受け取りそっと抱きしめた。

「なんですかこの茶番?」
「生贄差し出して、道開けてもらう…的な?」
「え?私、生贄?!」
「…そういうことなら…美味しくいただきます」
「にゃぁぁぁ?!」

半分ふざけながらそう言うと、仮面をつけたままの綾子が少女の方を振り向くと、
少女は何がおきたのかわからず、呆然と綾子を見つめていた。

綾子がゆっくりと少女の元へ戻るのを確認した璃尾狐は、琉紅を抱いたまま、スッと消えるように姿を消した。

「今の…!!」
「………」

少女の元に戻った綾子は、無言で隣に立つと、スッと腕を上げて先を指さした。
指差す先は、今までより一層木々が茂る鬱蒼とした道で、一瞬少女は脚を出すのをためらった。
しかし、先に進ませないわけにも行かず、綾子は少女のためらいを感じた瞬間、導くように先に歩き出した。

「ちょっとまって!」

璃尾狐の攻撃(?)があまりにも怖く、恐怖で立ち止まりたい反面、見知らぬ人ではあるが、
自分に危害を加えない事を信じ、そばにいることで安心感を感じ始めている綾子に、
その場に置いていかれることの方が恐怖を感じるのか、少女は急いで綾子の傍へと駆け寄った。



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