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「あの…」
「……”御用のない者通しゃせぬ…”」
少女が声をかけてきた答えとして、綾子は歌の一部で答えた。
「すみません。山を歩いていたら、迷ってしまって…ここの神様ですか?」
「……フフッ」
素直に迷ったという少女に、仮面をしたままの綾子は、ただ笑うだけで、答えようとしなかった。
少し、異様とも取れる綾子の様子に、侵入者の少女は少し恐れを感じ始めたのか、
胸の前で両手をギュッと握りしめた。
「あの…出口を…教えてもらえませんか…?さっき、結界みたいなところ…
あ!ここもですよね…結界があるってことは、きっと誰かの領地で…怒られないうちに帰らないと…」
相変わらず喋ろうとしない綾子に、恐る恐る話を続ける少女に、
綾子はやはり敵対者ではないことを確信しながらも、
肝試しのために言葉を極力発しないことを決めた。
綾子は、すっと立ち上がると、少女が現れた方向とは別の、
明らかに奥に続く道を指さした。
「あっち?あっちに行けばいいの?」
少女の問いかけに、一度だけ頷いた綾子は、少女が道を見た後、綾子の方に振り返る瞬間、
ポンッという軽い爆発音と煙とともに姿を消した。
「え…えぇ?!」
突然姿を消した綾子に、少女は驚き涙目で声を上げていた。
それを、上空では様子を見るために、杏が気配を消して見ていたが、
必要以上に少女が怖がっているのを察知し、頭を抱えながら持ち場へと飛び去っていった。
少女は、一気に恐怖を感じていたが、そのままそこに立ち止まることもできず、
先程指をさされた道をゆっくりと歩き出した。
まだ日が高いため、道自体は明るく見通しが良かったが、
道を囲む木々が鬱蒼としているため、そのギャップが一層不気味さを醸し出していた。
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