一方、綾子は歩きながら再び変化をしていた。
和服に身を包んだ人間子供のような姿をしつつ、顔には狐の面のような物を当て、
顔を隠して歩いていた。

領地内の小さな結界の1つにたどり着くと、侵入者もうまくそこに動いているのを気配で感じた綾子は、
結界の側に腰掛けた。

段々と侵入者の気配が近づいてくると、綾子はまるで自分の存在を知らせ、
そこへ誘導するかのように、突然歌を歌い始めた。

”通りゃんせ…通りゃんせ…”

人間が遊ぶときに口遊む童歌だったが、綾子は子供の姿で仮面をつけたまま、あたりに通る声で歌い続けた。

”ここは何処の細道じゃ…天神様の細道じゃ…”

ゆっくりと歌を続けていると、侵入者の気配がどんどん近づき、しまいには足音も聞こえるほど近づいてきた。

”ちっと通して 下しゃんせ…御用のないもの 通しゃせぬ…”

そこまで歌うと、一瞬ピタリと足音が止まった。

”この子の七つの お祝いにお札を納めに まいります”


歌を続けると、再び足音が聞こえ、最後に差し掛かったとき、
真後ろの草がガサガサと音を立てて動き出した。

(来た…)

後少しだと感じた綾子は、仮面の下でニヤリと笑うと、歌の最後のを続けた。

”…行きはよいよい 帰りはこわい
こわいながらも通りゃんせ 通りゃんせ…”

綾子が歌い終わるのと同時に、草むらから一人の少女が姿を表した。


草むらをかき分けてきたため、服や頭に葉っぱを付けながら、不安そうな顔をし、
それでも綾子の声…人の声に導かれて、何処かホッとしたような顔で現れた少女は、
先程綾子が報告したとおり、頭の上はピンと尖った耳、
尻にはフサフサの美しい毛並みの尻尾がついていた。




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