第21章 記憶の華
「蔵馬!裟羅ちゃん!!」
瑪瑠の声が響く
逆光でよく見えなかったが、両刃の結界を破ったのは蔵馬と裟羅だった
2人は木の上から瑪瑠達のもとへと降り立つ
「両刃…!」
「違うの、蔵馬!両刃さんは…!」
瑪瑠が慌てて2人を制す
裟羅は怪訝そうに瑪瑠を見た
両刃は涙の滲む瞳で蔵馬と裟羅を睨みつける
その涙を見て息を飲んだ
「両…」
「どうして、ここが解ったのかな…」
弱々しく笑う両刃には、もう闘気や殺気はなかった
裟羅にはその姿がかつての自分とだぶって見える
まだ、ほんの小さな猫だった時の自分と―――
「両刃さんはただ苦しかっただけなんだよ…!裟羅ちゃんと同じで…」
先程両刃が言った言葉が頭の中に蘇る
“好き合っている者達には僕たちの気持ちなんか解らない”
それは、裟羅もずっと思っていた言葉だ
「…わかるよ…」
瑪瑠は小さく呟く
「わかるよ、両刃さんの気持ち…」
2人の気持ちは、最初から自分にも共感出来ていたじゃないか…
「“誰かを好き”って気持ち。瑪瑠にだって、わかるよ」
―――瑪瑠だけじゃない…蔵馬だって、琉紅だって…“恋”をする人なら、みんな解る気持ちなんだよ
―――その対象が違うだけ…
「…瑪瑠は、蔵馬のことが好き。恋をして、楽しくなったり辛くなったりする時だってある。その気持ちは、みんな一緒なんだよ」
パァッと瑪瑠の持つ琥珀が光り輝く
それと同時に、瑪瑠の頭の中に数々の光景がフラッシュバックする
『お前には俺と同じような道を歩んで欲しくない…』
『誰も憎むな…』
初めてかけられた貴方の優しい声
『戦うよ!あなたを助けたい!』
『蔵馬に伝えたい事があるの…!』
ただ、ただ、貴方一人を想っていた
『わかりました、人間界へ行きます』
それがどんなに危険なことでも、貴方の傍にいられるだけで良かった
貴方の事が好きだったから
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