第11章 予兆



「もしも、君に好きな人ができたら…早めに殺しておくんだよ?」



両刃の言っていることの意味が、梅流にはわからなかった
彼の眼に光はない

蔵馬が梅流の肩を掴み、後ろへとやる
その瞬間、再び黒い風が舞い、蔵馬の肩を掠めた


「蔵馬!!」


真紅の血が肩から吹き出る
蔵馬は梅流に微笑むと言った


「梅流、君は逃げるんだ」

「でも、蔵馬が…!!」

「俺なら、大丈夫…こいつは、俺が食い止める」

静かに瞳を閉じる
蔵馬の身体を目映い光が包みこみ、彼の姿が変わって行く


あの日見た、銀色の長い髪

冷たさと温かさを秘めた金色の瞳



「妖狐…」


両刃が嬉しそうに呟いた



「蔵馬…」

「…俺を信じろ、梅流」


梅流はぎゅっと眼を瞑ると、意を決して走り出した
深い雪に何度も足が縺れながらも

ただただ、走り続けた

何処へ向かっているのかも、何処へ向かえばいいのかも解らない
長い間走っている筈なのに、不思議と寒いとは思わなかった

彼女の虎目石のような瞳から、水晶のような涙が次々と溢れ出る
歪んだ視界に見えるのは、白銀の雪原だけ




「お願い…!!無事でいて、蔵馬…!!」




胸元に握り締めた琥珀が、鈍く光る
だが、梅流はそれに気付く事はなかった




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