第10章 黒き炎と白き光



『飛影』


凛とした声に飛影が振り返る
銀色の長髪に金色の瞳

彼が苦手とする蔵馬だ
飛影はぶっきらぼうに告げた



『…今度はお前か』

『お前に頼みがある』

『断っても無駄なんだろう?』

『すまないな…』

『用件はなんだ。…大体察しがつくがな・・』


遠い所で雷が轟く音が聞こえる
まるで彼らを警戒しているかのように


『…約束したんだ。遠い昔に。俺はそれを果たしにいく。きっと彼女は待っているだろうから』

『…・』

『飛影。もしも…俺がいない間に白狐の森が危険に冒された時は、その時はお前があの森を守ってくれ』

真剣な眼差しでそう言われる
蔵馬は、ひとりの少女を守れなかったことを今でも悔いている
だからこそ、今度はその少女の傍らにいたいと願うのだ

飛影は小さく舌打ちをしてその蔵馬の頼みに承諾した
随分甘くなったものだ、と自分でも思う

だが、大切な者の為に闘う気持ちは飛影にも理解出来る
痛い程に
彼を後悔の牢獄に閉じ込めてしかねない程に











――――――――――――――――――――



「…貴様に、本当の炎術というものを教えてやる」


飛影の腕に描かれた黒龍の印が僅かに紅く光る
まるで目の前の獲物に牙を向けているようだ
少年がまるで苦虫を噛み潰したような顔で飛影を睨みつける


「…あんたが邪眼師の飛影か」

脳裏に若き首領の顔が浮かぶ
クスクスと笑いながら自分に指示を出すその姿はとても癪に触るものだった



『頑張ってね、“片刃(かたは)”。白狐の森ならきっと簡単に潰せるわよ』



握りしめた拳に血が滲み、“片刃”の表情に焦りが見えた
決して自分の力は弱くはないと思っていた
現に強力な白狐の結界を苦もなく破る事が出来たし、それなりに経験も積んでいる筈だった

だが、目の前にいる男はどうだ
物差しで量れるような強さではない
先程の炎を見た時から決着はついているようなものだった


「…話が違うじゃねぇか…!!!」


飛影は何も言わない
ただ、左腕に宿した黒き龍だけがゆらゆらと陽炎を纏いながら片刃を見ていた


――――どうする?どうすればいい?
まともに闘り合って勝てるような奴じゃないだろ ならば逃げるか? いや、そんな真似は出来ない
逃げた所であの女に殺されるのがオチだ
なら、どうすれば―――――――――― 


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