リボーン複数主 | ナノ


▼ 標的90

なまえを送り届けたくるみ、由良は山本の家に向かって歩いていた。2人とも山本の家に行くのは初めてなので、スマートフォンの地図アプリを使って歩いている。途中合っているのか不安になり、立ち止まって確認したりして目安の所要時間よりも少し時間がかかってしまったが、無事に辿り着いた。
シンプルな紺色の暖簾がかかったお店の入口には本日貸切と張り紙が貼られているが、鍵はかかっていないようでそろりと戸を開ける。カラカラと音がしたからか、気づいた従業員からへいらっしゃい!と元気よく声がかかる。

「くるみちゃん、よく来てくれたなぁ!」
「あ、武くんのお父さん…!」
「お友達もいらっしゃい!」
「お邪魔します。」

どうやら従業員とは山本の父親だったようで、入ってきたのがくるみだと分かるとにこやかに話しかけてくる。初めて会う由良にも気さくに話しかける様は山本に似ており、由良は静かに親子だなあと心の中で呟いた。

「くるみ!」
「武くんっ!お邪魔しますっ!」
「ああ!いらっしゃい!」

父の声に気づいたようで、テーブルに皿等を運んでいた山本がやってきた。どうやら他のメンバーはまだ来ていなかったようで、くるみ達が一番乗りらしい。ならばと2人は手伝いを申し出、次々と出てくる山本の父お手製の料理や用意されていた飲み物を運んでいく。

「こんにちはー!」
「お邪魔します!」
「なんでお前らも一緒なんだよ。」
「良いではないか!」

一通り並べ終わった頃、カララと音を立てて店の扉が開く。現れたのはハル、京子、獄寺、了平で、偶々会ってせっかくだからと一緒に来たらしい。ハルや京子は自分たちも手伝うと名乗りを上げ、由良とくるみが持っていた料理やコップを少し受け取り机に並べていく。獄寺、了平、山本は獄寺が文句を言ってそれを2人が宥めていた。
そうしていると、次々と今回のリング争奪戦に関わったメンバーが訪れてくる。

「残るはツナ達だけだね。」
「主役は最後に登場するって言うもんね!」
「お前たまにはいい事言うじゃねーか。」

くるみの言葉に気分が良くなったような獄寺が声をかけたところで店の入口からカララ、と音が聞こえてきた。

「こんばんは。」
「へいらっしゃい!ツナ君御一行!!」
「ツナ君!」

扉からひょこりと顔を出したツナ達を皆で迎え、それぞれ紙コップと飲み物を渡していく。全員に飲み物が行き渡ったところで表向きはランボの退院祝い、獄寺から言わせるとツナの祝勝会が始まった。
獄寺にコソッと言われたツナは、獄寺が指に嵌めてキラリと光るリングを見てギョッとする。よく見れば山本や了平の首元にチェーンが掛けられており、その先には獄寺と同じようにリングがキラリと光っている。

「んなー!!みんなボンゴレリングをー!?」
「ヒバリとクロームにもいってるはずだぞ。ほれ、お前のだ。」

驚くツナにリボーンが丁寧に箱に収められたリングを渡してくるが、ツナは脅えて燃えるから!と距離を置く。XANXUSを溶かした時の炎のことを指していたが、リングはそれ以来燃えてない。リボーンが言うがツナはそれでも怯えた素振りを見せる。

「どっちみちいらないって!そんな物騒なもん!!」
「ちょっと待って。私らアンタより物騒なもん持ってるんだけど。」
「えっ…!?」
「ツナくん、私たちのリングもあげるよ!」
「い、いいよ!いらないよ!」

ツナのリングと比べて呪いのリングと既に言われている物を持ってしまっている由良とくるみに詰め寄られ焦るツナは、そこであれ?と気づいた。その元であるくるみに目を向ければにこりと微笑み返された。

「これからは、私もツナくんって呼ぶね!ツナくんも私の事名前で呼んでね!」
「あ、う、うん!じゃあ、くるみちゃんって呼ぶね…」
「うん!これからもよろしくね!ツナくん!」

嬉しそうにするくるみにうんと頷いたツナはその瞬間、ぶるりと背筋が凍った心地がした。殺気とまではいかないが、どこか冷たい空気を感じ、どこからと視線を辿るとそこには山本がいた。

「まあ、何かあった時に守ってくれるかもしれないし、御守り代わりに持っといたら?」
「いい事言うじゃねーか由良。第一ツナ、お前XANXUSに10代目になるのは俺だって言ってたじゃねーか。」
「言ってないって!俺はXANXUSに10代目にはさせないって言ったの!」
「ハハハ。往生際の悪い奴だなぁ、ツナ。」

ツナが何か言う前に由良が話を振ってきたことで先程の山本も今は空気を変えてしまい、流れてしまった。そこからディーノも話に入ってきて、気づけば獄寺の提案で未来のファミリーについて話すという流れになってしまった。聞いたツナは盛り下がると思い、どう断ろうかと考えていたところに京子がやってきた。

「聞いたよツナ君!相撲大会勝ったんでしょ?」
「きょ、京子ちゃん!」

京子の登場で顔を赤らめるツナから由良は自然と目を背け、奥からやってくるビアンキに気づく。その手には自らが作ったであろうポイズンクッキングが。

「デレデレしてるヒマがあったら食べなさい。」
「何故にポイズンクッキングー!!」
「ガッ…」
「獄寺しっかり!」

ビアンキの登場によって京子とツナの良い雰囲気も壊れ、どさくさに紛れて倒れた獄寺の介抱をする為に駆け寄るふりをして胸を撫で下ろした。
ああ、私嫌な奴だなあ。
溜め息をつきたくなるのを抑え、獄寺に声をかける由良をカウンターの上からリボーンが静かに眺めていた。

「?くるみ…?」

少し落ち着いた頃、先程まで隣にいたはずのくるみがいないことに気づく。キョロキョロと店内を見渡せば、山本の姿も見当たらない。
これは、何かあるな。
察した由良は胸の中に湧き上がる気持ちを必死に押し込めて、京子がやっていたように飲み物を運んだり空になった皿を片付けたりとなるべく動くように努めた。


ビアンキが登場して獄寺が倒れたところを由良が介抱するのを手伝おうとしていたくるみは、その時に山本に声をかけられそのまま店の外に出ていた。あれだけ店内は騒がしかったのに、扉を1枚隔てるだけで中の喧騒はくぐもった音となって聞こえる程度で、外は静かだった。

「武くん、どうしたの?」

自分たちがいないと気づくと皆が気にするだろうと思って声をかけるが、山本は一言答えるだけで黙っている。何かあったのだろうか。首を傾げるくるみに山本は目線をあちらこちらにやったり、言葉を探すようにあー、うー、と言葉を零していたが、少しして真剣な顔で見つめた。
その眼差しにドキリとしたくるみは少し赤くなる顔をそのままに、ピンと背筋を伸ばして見上げる。山本はどこか緊張した面持ちであのさ、と声をかける。

「前、病院で言ったこと、覚えてるか?」

山本が聞いたのは黒曜での戦いが終わった後、入院する山本の見舞いに行った時のある日のこと、山本が力になりたいと言ったことだった。くるみは少し考えてから思い当たり、勿論と頷いた。

「あの時さ、くるみに話してほしいって言ってもくるみは言わなかっただろ?俺はその時今より全然弱くて、くるみよりも弱くて、頼りないからじゃねーかって思ってたんだ。」
「!そんなことっ…!」

ないと言おうとしたくるみに首を振るだけで返した山本はそれで、と続ける。

「スクアーロと初めて剣を交えて俺の弱さを痛感した。親父に頼み込んで強くなって、少しくらいくるみに話してもいいって思われるような頼もしさも出てきたんじゃねーかって思ってたんだ。雨戦でスクアーロに勝った時、これなら次、くるみに話してくれって言っても大丈夫じゃないかって思って、安心したんだ。」

1度言葉を区切った山本は少し辛そうな顔ででも、と言った。

「次って、考えること自体間違いだったって気づいた。くるみが死ぬことを選んでるって聞いた時は、正直頭が真っ白になって、何も考えられなくなってた。そこから少し余裕が出て考えた時、なんで無理にでも聞こうとしなかったんだろうって後悔してさ、だから、もうそんな後悔しないって決めたんだ。」

言った山本はまた真剣な表情で真っ直ぐくるみを見つめる。

「くるみが好きだ。」

ヒュっと息を呑み、赤かった顔が更に赤くなる。

「今はまだ弱くて、ヒバリやくるみには届かねーかもしんないけど、絶対強くなるし、必ずくるみを守るって約束する。どんな事があっても、絶対くるみの味方であり続ける。今後くるみを死なせるようなことも、悲しませるようなこともしないし、そんな状況にならないようにする。」

山本の言葉に驚き、困惑して固まるくるみを見て、山本は柔らかく笑む。

「別に今すぐ答えてくれって訳じゃないんだ。突然言われても困るよな。ただ、今まで俺がくるみの力になりたいって思ってたのは、くるみが好きだからってことを伝えたくて、話したんだ。やっぱり好きな子には頼ってほしいっつーかさ、そう思ってたから…」

照れ臭そうに頬を掻く山本に、くるみは何も言えず目を伏せた。そんなくるみを山本は呼びかける。

「もしくるみも好きで、いいなら、付き合ってほしいとは思う。けどそれ以上に、話してほしいんだ。#ミョウジ#でも、神崎でも、ヒバリでもなくて、俺に、話してほしい。くるみの不安なことも、考えてることも、できる限り、溜め込まないでほしいんだ。」

言い切ったのか、山本はふぅと息を吐くと、これが俺が話したかったこと!といつもの爽やかな笑顔で言った。
対するくるみは顔だけでなく耳や首まで真っ赤にして俯いていた。頭の中はどうしようばかりで、考えがまとまらない。
嬉しいという気持ちはあるが、同時に山本が望む不安なことを打ち明けるということが出来るのか考え、それは出来ないとすぐに自分の中から返ってくる。自分は狡い人間だ。そんな自分が不安な時ばかり山本に頼るなんて、虫がよすぎるのではないか。そう考えると、首を縦に振るということは出来なかった。
そこまで考えをまとめたくるみはあの、と声をかけた。

「少し、考えさせて、ほしいな…」
「ああ。ごめんな、驚かせて。」

真っ赤な顔で俯いたままのくるみは山本の言葉に首を横に振るのだけで精一杯だった。

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