リボーン複数主 | ナノ


▼ 標的89

ヴァリアーの邸から無事帰還できた3人は夕陽に赤く染められた道を歩いていた。最初は取り乱して心配だったなまえも、最後には楽しそうに笑っていたことにホッとしたくるみはあ!と大きな声を上げる。突然の大声にビクついた2人にごめんと謝ってすぐになまえを呼んだ。

「恭弥くんからの伝言!明日お昼に並中に来てだって!」
「えっ…」
「ああ、言ってたアレ…」

戸惑うなまえにどこか納得したような素振りを見せる由良。くるみは由良の言葉に頷いて、まだ理解が追いついていない様子のなまえにニコリと微笑んだ。

「私と由良ちゃんが責任持って送り届けるから安心してねっ!」
「ヒバリとの話が早く終わったら山本の家まで送ってもらいな。明日そこでパーティーやるらしいから。」
「いやいやいや!全然理解が追いついてないんですが!?」

ようやく理解し、待ったをかけるなまえの言葉を無視した2人はじゃあそういうことで!と言って強制的に別の話題に話を持っていった。


翌日。宣言通り、くるみと由良はなまえを学校に送り届ける為にわざわざ家まで迎えにやってきた。学校に行くだけならいつも待ち合わせている場所で時間を決めて行けばいいはずなのだが、現実逃避をして来なかったら困ると言われて反論できなかった。

「………………。」

そんな2人に逃げることは許さないと言わんばかりに両脇を固められ、泣く泣く学校に送り届けられたなまえは現在1人で応接室の前に立っていた。てっきりここまでついてきてくれるものだと思っていたのだが、2人は何故か休日なのに開いていた昇降口に入り、なまえに上履きを履き替えさせるとそれじゃあ頑張ってと言って帰って行った。しかし、なまえが逃げ出さないように校門から暫く見張るつもりのようで、なまえは逃げ場はないと知り、がっくりと肩を落として応接室までトボトボと歩いてきたのだ。

「すぅ、はぁ…」

緊張でバクバクと煩く鳴る心臓、強ばる表情を落ち着かせるように大きく深呼吸を繰り返す。
以前よりもこの部屋に入ることは多くなったが、それでもやっぱり入るのには勇気がいるので、今もこうして何度も深呼吸をして落ち着かせてからでないと入れないのだ。ましてや今回はヒバリが直々に呼び出している。十中八九以前のようにヒバードに校歌を教えるようにというものだろうが、そうでない場合もある。例えば、一昨日のお説教とか。
思いついた瞬間益々心臓が煩くなり、冷や汗がドッと流れる。黒曜から帰ってきて暫くしてから受けたヒバリのお説教は怖かった。一昨日ヒバリは怪我をしていたからか、以前のようなお説教ではなかったので、手当を受けて調子を戻してきた今改めてするのかもしれない。それは是非お断りしたいものだけど、無理だろう。

「早く入りなよ。」
「ぁ………」

ガラリとドアを開けてこちらを見下ろすヒバリにキュッと喉が詰まる。先程までお説教のことを考えていたからか、怒られる!と思ってすぐに謝り中に入った。
ヒバリはいつもと様子の違う(いつもなら真っ赤な顔でちょこちょこ入るが、今日は青い顔で俊敏に入ってきた)なまえに内心首を傾げたが、突拍子もないことをよくする彼女なので大して気にせずドアを閉め、改めて見下ろした。

「じゃあ校歌歌って。」
「っ!ぁ、はぃ……」

お説教ではなかった!
歓喜に震えるなまえはホッとして、しかしヒバリに気づかれないように頷いた。そして何時もならヒバリの頭や肩、もしくは室内のどこかにいるはずの黄色い小鳥を探す。
が、どこにも見当たらなかった。
あれ?と思ったなまえはスタスタと執務机に戻っていったヒバリにあの、と声をかける。

「小鳥さんは…?」
「いないよ。」
「…………………えっ?」

1拍遅れて声を出したなまえは、理解が追いつかない頭を必死に動かして考える。小鳥、基ヒバードがいないということは、校歌を教えることが出来ない。
ヒバリの返答に今日はヒバードが来ていないということが分かっていたが、くるみには来るなという連絡が行っていない。ヒバードがいなくてもヒバリがなまえを呼んだということは、つまり校歌以外の件ということで……お説教!?
そんななまえの思考を遮るようにヒバリから声がかかる。

「早くしなよ。僕は仕事をしているから、そこでいいから歌って。」
「えっ?こ、こで、ですかっ…?」
「それ以外にどこがあるの。」
「えっ、あっ、えっと…小鳥さん、いないんだったら、歌う必要ないんじゃないかなあって…」

なまえの言葉に一気に機嫌が悪くなったヒバリはむすりとした顔を隠しもせず、嫌なのか尋ねてくる。それに慌てて首を振るなまえはそんなことは!と言うが少しして、顔を少し赤くしながらでも、と呟いた。

「は、恥ずかしい、なあ、なんて…」
「………………いつも歌ってるでしょ。」
「あ、あの時はっ…!小鳥さんがいたから…」

目を伏せ恥じらうなまえのいじらしい姿に面白さを感じたヒバリは、良い物を見たとばかりに口角を上げる。ヒバリの変化に気づかないなまえはこれは新手の罰ゲームか何かか?とグルグル考える。

「問題ないなら早く歌いなよ。」
「っ……」

ヒバリの言葉にパッと顔を上げたなまえは真っ赤になり、潤んだ目でヒバリに何か言おうとしたが上手く言えず口を閉じた。仕事そっちのけで楽しそうに眺めるヒバリに気づくことなく、なまえは暫くしてようやく決心したのかお願いしますと小さく言って息を吸った。

「みーどーりたなーびくー」
「声が小さい。」
「す、すみませんっ…」

緊張からか、上手く声が出ずに指摘され、もう一度と息を吸う。

「みーどーりーたなーびくー」
「やり直し。」
「は、はいっ…」

先程よりも少し大きな声だが、震えていたからかダメ出しが入る。

「みーどーりーたなーびくー」
「もう一度。」
「っ…はぃ…」

今度は音が外れてしまいまたやり直しがかかる。

「みーどーりーたなーびくー」
「ダメ。」
「っ……」

最早泣きそうになりながら、なまえはそれでも歌い直した。


ヒバリからの数々のダメ出しに何度も歌い直し、ようやく校歌全て歌い終わったのは訪問してから2時間程経っていた頃だった。ようやく歌い終われたなまえは緊張と歌うことによって体力を消耗した為息を切らし、ソファーの肘掛けに手をついて息を整えている。
対するヒバリは至極満足そうな雰囲気を纏っている。
息を整えながらヒバリを盗み見たなまえはこれどんな状況?と戸惑っていた。
状況を上手く理解出来ていないだろうなまえを見たヒバリはそれで、と声をかけた。

「もういいの。」
「えっ…?」

それはこちらのセリフでは?
そう思ったが、ヒバリの顔と雰囲気が真剣なものにガラリと変わり、今までの校歌の話ではないと察し、口を噤む。が、それならばどういう意味なのか分からず、何も答えられずに困惑する。
なまえの困惑した様子に気づき、ヒバリは1つ息を吐いた。

「君は以前から、人の血を見る事が苦手なようだったけど、一昨日、君は色々と見たようだとくるみから聞いて、取り乱しているんじゃないかと思ってね。」
「…………それ、は…」

心配、してくれたのだろうか。
有り得ない考えが浮かび、すぐにそんなはずはないと打ち消し、ヒバリを恐る恐る見る。ヒバリは言うことは言ったとばかりにそれ以上話すことはせず、頬杖を着いてなまえを見つめる。
なまえはどう言えばいいのか暫し考える。
正直、思い出そうとするのはまだ怖い。当たり前だ、一昨日の事なのだから。昨日のあの出来事から少しして、また記憶がぼんやりとしてしまい、あまり思い出さないようにしている部分もあった。それに、それ以上に昨日のおかしな出来事の楽しい記憶がまるで塗り替えるように蘇り、そこまで取り乱す程ではない気がしている。
考えが上手くまとまらないまま、それでも待たせる訳にはいかないと口を開いた。

「昨日、えっと、XANXUSさん、達と色々あってゲームをしたんです。」
「!」
「最初は、その、一昨日の事を思い出して、パニックになっちゃったんですけど、でも、その、ゲームをしていくうちに、それも落ち着いて、楽しくなって…今は、あんまり、一昨日の事は思い出せなくて、だから、なんとか大丈夫、です…!」

昨日のことを思い出したからか、小さく笑って話すなまえはどこか楽しそうで、話を聞いていたヒバリは僅かに機嫌を悪くする。
なまえの話は、ただ自分を誤魔化しているだけにすぎない。いずれ、また思い出して取り乱すだろう。だが、今はなまえにそこまで話すつもりもないし、話して受け止めきれるか定かではない状態で話すのは危険だ。
そう思い至ったヒバリは気持ちを落ち着けるように嘆息し、そうとだけ呟いた。

「座りなよ。」
「えっ…」
「くるみが色々な物を持ってくるせいで、棚を圧迫している。少し処分して行きなよ。」
「あ、えっと…はいっ…!」

ソファーに座るよう促したヒバリはいつの間に用意していたのか、可愛らしい柄のマグカップをコトリと机に置いた。中には甘いチョコレートの香りがするココアが湯気を立てて入っていた。その向かい側には香ばしい匂いのするコーヒーを手にヒバリが既に座っていて、なまえは慌ててソファーに腰掛け、ココアを啜る。長く歌って酷使していた喉に優しく温かい潤いが染み渡る。

「美味しい…」

ホッと息を吐いて呟くなまえを眺め、ヒバリもコーヒーを飲んだ。そんなヒバリにあの、と声をかける。

「ありがとうございます。」

ヒバリは無言でコーヒーを飲むだけで反応は示さなかった。なまえはそんなヒバリにヒバリさんらしいなあと微笑んで、少し温くなったココアを飲んだ。

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