リボーン複数主 | ナノ


▼ 標的84

保健室に着いたなまえとヒバリは、ヒバリが持っていた鍵で難なくドアを開け、常備してある備品で手当てをしていた。間近で見る痛々しい傷の数々に泣きそうになりながら、ぎこちなくも手当てをするなまえの良いとは言えない手際のお陰かヒバリは少し楽になれた。

「あの、折角なら、少し休んでいった方が…」
「そんな時間は無いよ。」
「っ…す、すみませんっ…」

手当を終えてベッドで休んだ方がと言いたかったが、ヒバリはすぐにでも加勢するつもりのようでピシャリと跳ね除ける。が、すぐには動けなかった。目の前にいるなまえをどうするか考えたからだ。
ただ守るだけならリボーン達のいる観覧席に連れていけばよかったのだが、厄介なことに彼女はリングを持っている。認めたくはないが、自分もかなり体力を削られる毒でくるみ達も万全ではない状態だから、何が起こるか分からない。本当なら一緒に連れていきたいところだが、今まで危険な場面を見たことがなかった彼女が巻き込まれた際どうなるかが分からない。
ヒバリが考え込んでいるのをなまえが不思議そうに呼びかけた時だった。

「!」
「ひっ…!ひ、ヒバリさんっ…!」

突然パッと室内の電気が落ち、辺りを暗闇が包み込む。驚くヒバリに怖がったなまえが縋るように声をかけるが反応はなく、暗いせいか目の前にいるはずなのに本当にいるのか分からなくなる。更に恐怖を感じ、そろりと手を伸ばした。

「ひぃっ!」
「!」

次の瞬間、何かに持ち上げられる感覚がして悲鳴を上げたなまえ。反応したヒバリは暗闇に慣れてきた目で何者かが彼女を連れ去ろうとするのを確認し、トンファーで攻撃しようとするが何かを投げられそれを弾く。キンッと弾いた高い音を聞き流し、なまえを助けようと踏み出すが既に影はなく、パッと明かりが戻った保健室にはヒバリしかいなかった。
ヒバリは自分の少し後方の地面に目をやり、苛立ちから歯を食いしばる。そして消えていっただろう、来た時は閉められていたはずが、今は開いている1ヶ所の窓を睨みつけた。


なまえはいつの間にか変わっている景色に驚いた。
あれ?確かさっきまでヒバリさんと一緒に保健室にいたはずでは…?
何故か外にいることに首を傾げるなまえの耳に微かに己を呼ぶ声が聞こえ、顔をキョロキョロと動かす。そしてすぐ呼んだ人物を見つけギョッとした。

「ツナくん!?」
「みょうじさん…」

ヒバリのように怪我だらけで起き上がれない様子のツナが少し離れたところにいた。駆け寄ろうとしたがうまく動けない。それだけでなく、先程から腹部が圧迫されて仕方ない。何故、と思う間もなく圧迫感から解放され、代わりに地面に落とされる。

「?」
「早くお前もリングを嵌めなよ。こちらはリングを揃えたんだ。条件の通りにね。」
「えっ?………っ!」

目を白黒させるなまえは、早くしろとベルフェゴールにナイフを突きつけられ小さな悲鳴をあげる。

「ツナ!」
「10代目!」
「!なまえ!?」
「なまえちゃん!」

その時、校舎の方から獄寺、山本、了平、クローム、由良、くるみがやって来た。ヒバリに預けたはずのなまえがいることに由良、くるみは驚くが、すぐにベルフェゴールにナイフを突きつけられている光景に気づき睨みつける。

「どいつもこいつも新ボス誕生のために立ち会いごくろーさん。」

邪魔をされないと分かったベルフェゴールはナイフをしまい、ツナから奪ったリングを血塗れで力なく仰向けに倒れるXANXUSの指に嵌めようとする。同じ頃、マーモンは体育館で奪った全てのリングをXANXUSが持っていたチェーンに嵌め終えて、ベルフェゴールと入れ替わるようになまえに早くリンクを嵌めろと脅す。

「っ………」

今まで見たことも無い酷い怪我の状態に混乱しているなまえは声にならない悲鳴をあげ、泣きそうになりながらも首を横に振る。このままではXANXUSの秘密が暴かれてしまう。もっと傷ついてしまう。これ以上血を見たくない、見るのが怖い…!
声に出せないまま頑なに首を振るなまえに痺れを切らしたマーモンは幻覚で触手を出し、獄寺のリングを奪った時のように触手を操ってなまえの手をXANXUSのチェーンに近づけた。

「ま……待て…!」
「受け継がれしボンゴレの至宝よ。若きブラッド・オブ・ボンゴレに大いなる力を!」

ツナの制止の声も届かず、マーモンの言葉と共に全てのリングがチェーンに嵌められ、ベルフェゴールによって大空のリングがXANXUSの指に嵌められた。直後、リングから眩い光が溢れ出し、合わせて突風も巻き起こる。その中央に立つXANXUSは先程まで立ち上がることすら出来なかったはずが、力が溢れてくる!と言って嬉しそうに立っていた。

「これがボンゴレの証!ついに、ついに叶ったぞ!これで俺はボンゴレの10代目に………!!」

無邪気にはしゃぐ子供のように嬉しそうに叫んでいたのも束の間、突然言葉を止めたかと思うと次の瞬間XANXUSの体の至る所から血が吹き出した。その血は、XANXUSの近くにいたなまえにも飛び散り、顔や体に幾つもの血飛沫が飛んできた。

「っ!」
「がはっ!」
「ボス!!」
「どーしたんだ!?ボス!」

ショックで動けないなまえを押しのけ、未だ尚血を吐くXANXUSに駆け寄るマーモンとベルフェゴールは一体どういうことかと困惑する。そんな折、その光景を見ていたツナがポツリと呟いた。

「リングが…XANXUSの血を、拒んだんだ…」

同じように困惑した表情で呟いたツナに、何か知っているなと詰め寄るマーモンはどういうことか説明しろと言ってくる。しかしツナは答えようとせず、代わりにXANXUSが答えた。

「オレと老いぼれは、血なんて繋がっちゃいねぇ!!」

皆が驚く中ツナが呼びかけるが、聞く耳を持たない様子で突っぱねられる。誰も声をかけられない中、どこからか声が聞こえてきた。

「お前の裏切られた悔しさと恨みが………俺には分かる…」
「!」
「スクアーロ!!」

それは、雨戦で山本に敗れ、鮫に喰われたはずのスクアーロの声だった。山本が驚いたように声を上げ、XANXUSは生きていたかと反応を示す。そして続けて何が分かるのか、分かるのなら言ってみろと怒鳴り散らし、スクアーロは重々しい声で話した。
XANXUSは9代目の本当の息子ではなく、下町で生まれ、生まれながらにして死ぬ気の炎を宿していたこと。母親が9代目の子供だという妄想に取り憑かれ、何も知らないXANXUSに会った9代目が自分の息子だと言って引き取ったこと。引き取られてしばらく、9代目の日記にXANXUSと血が繋がっていないこと、XANXUSはボンゴレとなんの関係もなく、ブラッド・オブ・ボンゴレ無くしては後継者として認められない掟があることを知り、「揺りかご」と言われるクーデターを起こしたこと。
話を聞く限り、9代目はXANXUSを本当の息子として受け入れようとしていたのではないかと考えられ、実際ツナがXANXUSに言ってみたものの、XANXUSは無償の愛はいらないと突っぱねる。

「俺が欲しいのはボスの座だけだ!カスは俺を崇めてりゃいい!讃えてりゃいいんだ!!」

叫んで直ぐに苦しげに血を吐き出したXANXUSの、執念とも呼べる強い思いに絶句するツナ達。
あまりの拒絶反応についにリングがXANXUSの指から離れ、コロンと落ちる。その直後、チェルベッロがXANXUSがリングに相応しいか審議するとやってくるが聞く耳を持たず、終いには道連れに全員殺すと叫び、それに賛同したベルフェゴール、マーモンが戦闘態勢に入る。

「どこまで腐ってやがる…!やらせるかよ!!」

それに迎え撃つのは今まで黙って見ていた獄寺達だが、全員これまでの怪我と毒によって既に満身創痍だ。遅れてやってきたヒバリもフラついており、ベルフェゴールは余裕そうに死に損ないばかりだと笑う。
まるで勝ったも同然のように話すベルフェゴールに数的有利はこちらだと獄寺が言うが、それに反論したのはマーモンで、なんと総勢50名の生え抜きのヴァリアー隊が間もなく到着すると言う。驚く獄寺達にマーモンは続けて説明する。
最初からXANXUSはこの戦いが終わってから、ツナ達に関係のある人物全てを殺す算段で計画を立てていたらしい。それも幹部クラスに匹敵するほどの強さを持つ隊員を動員するという徹底ぶり。
これには流石にチェルベッロも待ったをかけるが、ベルフェゴールがその内の1人を殺し、聞こうとしなかった。いや、はなから聞くつもりはないのだろう。

「そっちがそのつもりなら俺達がツナ側で応戦するぜ!ここから出せコラ!」
「この場合文句はないはずだ。」
「拙者も戦います!」

ヴァリアーのやり方にならばと観覧席にいたコロネロたちが各々武器を構え、叫ぶ。スピーカー機能が持続していたようで、聞いていたチェルベッロがヴァリアー側を失格とし、赤外線センサーを解除すると言ってリモコンを操作するが、既に細工されてあったようで解除されず、コロネロたちは出られなくなってしまった。

「くっそう!こうなりゃ俺達だけでやるしかねぇ!!」

増援が見込めない状況に陥ったツナ達は、動けるツナ以外の守護者達が迎え撃つべくそれぞれ武器を構えた。が、その時クロームが頭を抑え、何かを呟いている。

「おい!」
「あれは…!」

その後方でついにヴァリアー隊が到着してしまった。マズいと顔を青くするツナ達、増援によって余裕ぶるベルフェゴールとマーモンだったが、それはすぐに変わる。

「報告します!我々以外のヴァリアー隊全滅!!」
「!?」

その内容に皆が驚く中、報告したヴァリアー隊員も遂に倒れ、ヴァリアー隊は全滅した。
そしてそれはツナ達の増援が来たということ。
たった今ヴァリアー隊を全滅させたのは、黒曜で骸の影武者としてツナに立ちはだかり、骸の呪縛から解放された北イタリア最強と謳われた男。

「取り違えるなよボンゴレ。俺はお前を助けに来たのではない。礼を言いに来た。」
「ランチアさん!!」

ランチアの登場で戦局がガラリと変わり、それならばとベルフェゴールがナイフをツナめがけて投げるが、それを山本、くるみが弾き落とす。

「そーはいかねーぜ。」
「さっきとなまえちゃんを脅したお返し、たっぷりするんだから…!」
「山本、川崎さん…!」

ヴァリアー側の戦力が削られたことで余裕が生まれ、山本もくるみもキレが増している。
その様子を見ていたマーモンも攻撃を仕掛けようとするが、その前に地面から火柱が飛び出し、更に植物の蔓が鞭のようにマーモンを襲う。

「逃がさない。」
「なまえに手を出したこと、後悔させてやる…!」

悲鳴を上げるマーモンに近づきそれぞれ武器を構えるのはクロームと由良で、こちらもだいぶ回復した為か幻覚の精度が上がっている。
加えて、山本、くるみと対峙するベルフェゴールにねぇと静かな声がかかる。

「決着つけようよ。」

言って、トンファーから鎖を出して睨みつけるのはヒバリだ。先程チーム戦だからと有耶無耶に終わった勝負の続きをするために、そしてなまえを攫ったという個人的な理由でその怒気は凄まじい。
更にそこに了平が行かせないと拳を構え、獄寺もツナに駆け寄る。これにベルフェゴール、マーモンは降参し、XANXUSは立ち上がることも出来ず怒りのままに叫んだ。
そのXANXUSの傍にチェルベッロが近づき、幾つか会話すると怪我のせいかXANXUSは気絶した。それにお疲れ様でした、と声をかけたチェルベッロとはまた別の1人が結果を発表すると言う。

「XANXUS様の失格により、大空戦の勝者は沢田綱吉氏。よってボンゴレの次期後継者となるのは、沢田綱吉氏とその守護者8名です。」

その言葉にホッとしたからか、ツナはそのまま気を失い、手当てをするというディーノの部下に運ばれていった。他の皆も手当てを受け、それぞれ帰路に着いた。
これでようやく、長くも短い戦いが終わった。

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