リボーン複数主 | ナノ


▼ 標的83

由良が体育館で奮闘していた頃、くるみは山本と他の仲間を助けるべく駆けていた。足の速い山本が先に走っていたが、途中足が遅くなり、少し速めて山本に並ぶ。

「!武くん、傷がっ…!」
「っああ…まいったな…」

くるみの指摘に無理やり笑って返した山本だが、その息は荒い。
雨戦での傷が完全に癒えていない状態で猛毒を注入され、解毒されてから急がなければという焦りからいきなり走ったことで傷口が開き、着ていた白いシャツに赤い血が滲んでいる。傷のせいか、毒に対抗する為に無意識に体力を使ったせいか顔色も悪く、万全な状態とは程遠い。
それはくるみも同じで、山本を心配する彼女も雪戦の怪我がまだ完治しておらず、毒の巡りを遅らせようと体が無意識に働いた為か体力も減っており、通常ならば息切れなど起こさないはずなのに既に満身創痍の状態だ。かろうじて原作を覚えているというアドバンテージのおかげでなんとか気を持たせているが、実際見る大切な人の怪我はやはり堪える。

「てめー誰だ!?」
「!」

少し減速はしたが、なおも走り続ける山本とくるみの前に鋭い声と共に校舎の角から姿を現した影。咄嗟に警戒した2人だが、その影の正体を知って安堵する。

「獄寺!」
「獄寺くん!」
「や、山本!川崎!」

現れたのは獄寺で、こちらも嵐戦の怪我や毒によって息を切らし、ボロボロの状態であるがしかしダイナマイトを手に持ちいつでも応戦できるよう構えていた。
獄寺は相手が味方だと分かるとダイナマイトをしまい、無事だったかと声をかける。それに同意した山本、くるみはヒバリがくるみ達を助けたこと、そこから近いフィールドにいた山本を助けたことを伝える。
ヒバリが助けたと知った獄寺は己も助けたヒバリの行動を不気味がるが、事態は深刻だ。

「恭弥くん私たちの所に来る前に戦ってたみたいで、結構重傷だったよ。こっちにはなまえちゃんもいたからなまえちゃんのことお願いして代わりにリング預かってきたよ!」

雲のリングを見せながらくるみが説明すると、信じられないという顔で獄寺が呟いた。山本が続けて説明する。

「雪のリングはみょうじが持ってるらしいぜ。あと助けてねーのは誰だ?」
「アホ牛と芝生頭は無事だぜ。」

くるみと同じように晴、雷のリングを見せる獄寺に、くるみはごくりと唾を飲み込む。現在助かっているのは獄寺の嵐、山本の雨、了平の晴、ランボの雷、ヒバリの雲、くるみ、由良の雪。となると残るのは、霧。

「あの娘か!」
「ああ、体育館だ!」
「由良ちゃんが先に行ってるはずだけど、もしかしたらヴァリアーもいるかもしれない!」
「!ナイフ野郎か…!」

獄寺の言葉に軽く頷き、急ごう!と声をかける。
くるみに続いて駆け出した獄寺、山本の気配を感じ、体育館に向かうことに集中する。
由良ちゃん、無事でいて…!
短いはずなのに遠く感じる道のりの中、強く願った。


間一髪由良の危機を救ったくるみ達はクロームを縛り余裕そうにこちらを見るマーモン、ベルフェゴールを睨みつける。

「お前達の持つリングを渡してもらおうか。さもなくばこの娘は皮を剥がされ惨い死に方をすることになるよ。」

マーモンの脅しにふざけるなと反論した獄寺は安っぽい手に乗るはずがないと叫ぶが、プロの暗殺集団であるヴァリアーは殺しに関しては嘘はないとベルフェゴールが言ってクロームの顔に切れ味の良いナイフを押しつける。ナイフによってクロームの頬がプツリと切れ、赤い血が流れていく。
その様子に獄寺はリングを渡したところでクロームを解放しないつもりだろうと言うが、クロームの毒が回る時間が迫っていると言われ、焦る。そんな獄寺の前にしょーがないと山本が出る。

「俺とくるみと獄寺で、お前達の持つ霧以外のリングは揃ってるんだ。」
「それは、雪のリングもということかい?」
「ああ…!」
「なっ、おいバカ!」

山本の行動に全員が驚いた。確かに霧以外のリングはこちら側の手にあるが、今この場には雪のリングはない。にもかかわらず、山本はまるで持っているかのように自信を持って答えている。一体何をするつもりなのか、皆が注目する中動いた。

「ただしいっぺんにはやらねーぜ。まずはその娘の解毒と俺が持つ雨、くるみが持つ雲のリングと交換だ。それが出来たら信用して残りのリングとその娘の交換に応じる。」
「なっ!」
「そういうこと!」

山本に目配せをされたくるみはしっかりと頷き、由良に合わせて屈んでいた体勢を変える。山本と同じように強気で笑ってみせるくるみに、獄寺と由良は反論しようとするが、口を挟む前に話が進んでいく。
山本の刀のリーチを考え、リングをその場から転がすことにし、同時にクロームの解毒をするよう仕向けた。ベルフェゴールのせーのという言葉に山本、くるみはリングを転がした。

「わたっ…!」

ちょうどその時、山本の足元に散らばった瓦礫の破片があり、それを踏んでしまった山本は地面を滑り前の方に倒れかける。山本の姿で漸く原作を思い出したくるみは咄嗟に由良目をやり、微かに指差された方を見る。
山本は倒れかけたまま上手い具合に背負っていた竹刀から刀に変形する特殊な剣、時雨金時を自分の前に持っていき、そのまま蹴った。

「いだあっ!」
「何!?」
「足で、刀を…!」

山本が蹴った刀はベルフェゴールに突き刺さった。時雨蒼燕流攻式三の型、遣らずの雨である。
山本は蹴飛ばした刀を素早く手に持ち、ベルフェゴールの悲鳴に動揺するマーモンに動くなと突きつける。いきなり形勢逆転した状態に一拍遅れて獄寺がやるじゃねーか!と山本に駆け寄る。

「待って2人とも!」
「!」
「くるみ…?」

そんな2人に鋭い声をかけたのはくるみで、銃口を山本が捕らえているマーモンではなく、別方向に向けて警戒している。どういうことかと山本と獄寺が疑問に思うより早く、刀を突きつけられているマーモンが余裕そうに警戒しておいてよかったと言い、ベルフェゴール、クロームと共に消えた。かと思えば空中に次々とマーモンが現れる。

「!幻覚…!?」
「さーて、残りのリングもいただこうかな…」
「させない…!!」
「くるみ!」

驚く獄寺、山本を他所に、再び優勢となったベルフェゴールに突っ込んでいくくるみ。当然ナイフを投げられるが、全て撃ち落とし近づいていく。避けるとワイヤーが張られ、動けなくなると分かっているからだ。
今のくるみ達の状態で血を流したベルフェゴールの相手は数の有利があったとしても不可能だ。だからベルフェゴールを傷つけることはせず、ナイフを撃ち落とすかベルフェゴールの足下を狙うかして弾丸を命中させる。
勿論好きにさせるヴァリアーではなく、くるみの勢いもすぐに止められる。

「無駄だよ。」
「!」
「くるみ!」

マーモンのフードの中から出てくる無数の触手に絡め取られ、身動きが取れなくなる。
咄嗟に声をあげた山本だが、動けばくるみを絞め上げると脅され寸でのところで止まる。
リングを渡すよう言うベルフェゴールとマーモンは、未だ渋る獄寺達にまたしても脅しをかける。今度はクロームを触手で拘束し、そのまま手足をもぐと言ったのだ。

「てめぇっ…!」
「やめろ!」
「くっそ…!」

クロームの小さな呻き声に歯噛みする3人にもマーモンの触手が襲いかかり、あっさりと拘束されてしまう。

「しまっ…!」

触手の力が思ったよりも強いせいか、獄寺がリングを持つ手首を締め付け、その反動か手のひらから転げ落ちた。リングを手に入れたからかマーモンの追撃は止まず、更に触手が襲いかかる。

「ぐっ…!」

由良はもう一度、あの時のように落ち着かせようと必死だった。
このままでは、みんな殺されてしまう。
焦りからか、それとも先程力のほとんどを使い果たしたせいか、どうにか落ち着かせようとする息は荒いままで、心臓も先程と比べて早く脈打っている。
落ち着け、落ち着け。思い出せ思い出せ…!
マグレであっても1度できた時の感覚を必死に手繰り寄せるが気持ちはちっとも落ち着かず、焦りばかり募っていく。

「この、ままじゃ…!」
「極限太陽(マシキマムキャノン)!」

もうダメかと思われたその時、由良達のいる後方の壁が派手に崩壊した。爆発のような衝撃によって飛んでいく瓦礫の破片が次々に浮かんでいるマーモンに直撃し、幻覚も消えていく。

「由良ちゃんっ!」
「くるみ!クローム!」

幻覚が消えたことで拘束もなくなったくるみがそれらに乗じてクロームを抱えてやってくる。声をかけられた由良がフラつきながらも受け止め、クロームの解毒は無事にされていると分かり安堵した。
そうしているうちに、体育館がガラガラと音を立てて崩壊していく。動けない由良とクロームを守るようにくるみが近くにあった鉄の棒や自身の銃で瓦礫を飛ばして事なきを得た。

「くるみ!無事か!?」
「私達は大丈夫!クロームちゃんも由良ちゃんも無事だよ!」

暫くして崩壊が治まり、皆無事を確認するがベルフェゴールとマーモンはいなくなっていた。そして一体誰が体育館を吹き飛ばしたのか、という話になったところで獄寺が近くにいた人物に気づく。

「お前は…!」
「まどろっこしいのは嫌いでな。」
「笹川先輩!」

獄寺に答えるように言ったのは了平で、右手からは血が流れている。
先程体育館を吹き飛ばしたのは了平の右拳によって放たれる極限太陽という技。その威力は、晴戦で戦う相手となったルッスーリアの膝に仕込まれたメタル・ニーすら破壊する程だ。了平とて、晴戦、そして先までの毒で本調子でないのだが、仲間を助けるために怪我の療養で使っていなかった右拳を振るったのだろう、了平の顔は青い。
しかし不調なのは皆同じことで、それ以上にリング争奪戦の、皆のボスであるツナの戦局を気にしている。

「奴らがいない…!」
「たぶんリングを持ってXANXUSの元に向かったんだ!」
「沢田くん1人じゃ危ないよ!早く行かないと!」
「そんで私らのリングも取り戻そう!」

由良の言葉に、皆悲鳴を上げる体に鞭打って奮い立たせ、頷いた。
向かうは、ツナとXANXUSが激しく攻防を繰り広げていた校庭。
向かう場所が分かると皆己の傷もそこそこに走り出した。

いよいよ、決着の時が迫っていた。

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