リボーン複数主 | ナノ


▼ 標的82

くるみと別れた由良は体育館へと急いでいた。B棟に向かうくるみを最後まで見送ることはせず、体育館へ駆け出した由良だがすぐに息が上がり苦しくなり、近くの壁に手をついて息を整える。

「っ…はぁっ…!」

旧校舎を出るまでは心配そうにするなまえがいる手前見せられなかったが、由良はくるみと比べてデスヒーターとの相性が悪かったようで、まだ完全に毒が抜けきれていなかった。深呼吸をして体を落ち着かせることでようやく解毒剤も効いてきたようで、苦しさも激痛も感じなくなっていく。

「はっ……よしっ…!」

短く息を吐いて漸く本調子に戻ったような気がした由良は再び駆け出した。
由良が向かう体育館には、ツナ側の霧の守護者として選んだ骸と深い繋がりのあるクロームがいる。雪戦の夜、道場になまえ、くるみと泊まった際、原作の流れを粗方聞いていた由良は2人から聞いた話を思い出していた。
原作ではヒバリとの一戦を終えたベルフェゴールが消去法で助ける相手を選び、霧の守護者として選ばれたマーモンを助けようと体育館に向かう。ヒバリに助けられた山本、獄寺が体育館に向かったのはランボや了平を助けた後だから既にクロームは敵に捕らえられ、クロームを助ける為に山本達が預かっていたリングが奪われる。
恐らく、山本はまだ助かっていないが、ベルフェゴールが体育館に向かったのは変わらないだろう。となると、ヒバリに助けられてすぐに向かっているとはいえ、ベルフェゴールが先に着いてマーモンを助けている可能性が高く、クロームを助ける為にはリングが必要になる。が、由良はリングを持っていないし、そもそも雪のリングは現時点でベルフェゴールにもマーモンにも触れない。つまり、由良がクロームを助けるには実力行使しかないのだが、その為には幻術を使う必要があった。
現時点で、くるみがいない状態で由良がベルフェゴールとマーモンに勝てる手立てはない。ベルフェゴールの戦闘能力はヒバリやくるみと同等で、由良では太刀打ち出来ないし、マーモンに圧勝した骸に幻術を教わっていると言ってもマーモンの高度な幻術を上回るものは例え万全な状態であっても使えない。それは霧戦で骸が断言していたし、由良も理解していた。しかし、逆ならば勝機はある。
マーモンは術士のため戦闘能力は由良より低く、ベルフェゴールは幻術への耐性がマーモンより低い。万全な由良がベルフェゴールのみに幻術を今出来る最大の術で行使すれば、マーモンより耐性がないベルフェゴールを撹乱出来るかもしれない。
その一縷の希望を掛けて由良はなるべく万全な状態にして体育館に向かっていた。

「クロームっ…」

霧戦以降、由良は骸とは会えていない。雪戦の後、クロームと少し話した時は骸がどうのとは聞いていないが、恐らく原作で向かわせていたというランチアと連絡を取るために集中しているのだろう。
力を使い果たして、それでも尚一度だけ由良を死なせないとでも言うように会いに来た骸。黒曜で対峙した時は感じなかった骸が仲間を想う気持ちを目の当たりにし、由良の中で確かに骸に対する情が生まれ、それは他の友人に対するものとは少し違うものでもあった。クロームを助けようとするのは、彼女自身が助けたいという思いもあるが、助けられなかった時、骸に顔向けできないと無意識に考えていたからだ。

「クロームっ……!」

漸く辿り着いた体育館のドアを開け、クロームの名前を叫んだ。
しかし、目の前に広がるのはロープで腕を縛られ、ベルフェゴールのナイフを突き付けられて宙に浮かされたクロームの姿。
遅かった…!
息を呑んだ由良は一瞬焦るが、すぐに薙刀を構える。が、それに素早く反応したベルフェゴールがナイフをクロームに近づけた。

「クロームっ…!」
「動かない方がいいぜ。」
「お前の持つリングを渡してもらおうか。さもなくばこの女は惨い死に方をする事になるよ。」
「っ…」

やはりそうきたか。
踏み出そうとした足を寸でのところで止め、薙刀を握る手の力を強める。2人を睨みつける由良は焦る気持ちを必死に抑え、考える時間を稼ぐためにと口を開いた。

「悪いけど、私はリング持ってないよ。」
「信用ならないね。」
「そっちの雲の守護者自分で解毒してたぜ?」
「あんな化け物と一緒にすんな。っていうか信じるも信じないもそっちの自由だけど、私がもしリングを持っていたとしても雪のリングはアンタ達に触れるものじゃないんでしょ。」
「ム…」

2人と会話をする中で不自然に思われない程度に視線を体育館全体に滑らせる。霧戦や骸から聞いた術士の特徴から、マーモンは用心深い性格だと予想していた。その為、今こうして対峙する2人もクロームも幻覚の可能性が高い。原作を覚えているなまえやくるみは詳しい事まで覚えておらず、大まかな部分しか聞いていなかったのでクロームがどう助かったのか分からないが、用心するに越したことはない。

「!」

見つけた。
視線を横に移したところに、初めて骸の幻術で感じた時のような違和感を覚え、注視する。うまく体育館の背景と合わせているが、どこか歪んでいるような空間が見える。恐らくそれが本物だろうが、目の前にいるクローム達も本物のように見える。全員幻覚で隠しているのか、誰かが本物で幻覚と合わせているのか区別がつかない。

「やはり気づいたようだね。」
「!しまっ…!」

何処からか声が聞こえてきて霧戦で見た時のような藍色の鈍く光る触手のようなものに体を絡め取られる。気づいた時には遅く、首、腰、手足の関節に当たる部分全てを拘束され、持っていた薙刀もカランと音を立てて落ちる。幻覚だと分かっているが、骸やクロームのように対抗出来る程の高度な幻術は焦ったこの状況では使えない。もし使えたとしてもそれは一部分のみで、由良の体全てを拘束する物を取り除くには至らない。

「ぐっ…ぅ…!」

首を絞められて息がしづらい中、由良は咄嗟に閉じていた目を開け、落ち着かせるように大きく息を吸う。
思い返すのは霧戦で骸に言われた言葉。鍛えれば、マーモンや骸のような高度な幻術を使うことが出来るということ。加えて、たった数日でも、由良は骸の指導の下確実に強くなっていた。骸に会えなくなってからも、幻術の修業は欠かさなかった。その少しの日々を思い出して、息苦しい状態の中、静かにゆっくり息を吸って、同じように吐いた。
思い描くのは、骸が出していた植物。今自分を拘束しているのは冷たい触手などではなく、瑞々しさを感じる緑鮮やかな蔦。繋がる先はマーモンではなく美しい薄桃色の花弁。

「!」
「何っ…!?」

動揺したような声を遠くで聞いていた由良の息苦しさは次第になくなっていき、自身を縛り上げていた物の感触もゆっくり離れていく。集中するために閉じていた目をゆっくりと開き、目の前に映る驚いた様子のベルフェゴールとマーモンの姿を捉えてホッと息を吐く。
今まで幻術を使う時、骸やマーモン、クロームといった強力な人物たちを思い浮かべてあまり自信が持てなかった。それは迷いとなり、幻術の精度を下げることとなっていた。骸はそれを伝えることなく会わなくなってしまったため、由良はこの直前まで不安で仕方がなかった。しかし由良は完全にとまではいかないが、今初めて自分に自信を持って挑んだことでマーモンの幻術を上回る術を使うことが出来たのだ。

「できた…………っ!はっ…!」

安心したのも束の間、息を吐いた瞬間襲いかかる疲労感と倦怠感に耐えきれず、由良は崩れ落ち床に手を着いた。

「どうやら、今のはただのマグレだったようだね。」
「シシッ…雪の守護者、いただき…!」

それを見逃すはずのヴァリアーではなく、息を切らし立ち上がれない由良に向かって再びマーモンの触手が、そして今度はベルフェゴールのナイフが飛んでくる。

「はっ……くっそ………!」

なんとか震える手を手繰り寄せて掴んだ薙刀で応戦しようとするより早く、由良の体がグンと後ろに引っ張られる。次いで目の前で小さな爆発が幾つも起き、さらに後方からは数発の銃声が聞こえ、ナイフと触手を撃ち落とす。
荒い息のまま振り返り、安堵からかグッと喉からせり上がってくるものを感じ、唇を噛んだ。それでも嬉しさは隠しきれず、歪んだ笑みを浮かべた。

「くるみ、獄寺、山本…!」
「助っ人とーじょー!」
「ったく、1人で先行きやがって…」
「由良ちゃん、お待たせっ!」

名前を呼ばれた3人はそれぞれ反応を示しつつ、クロームを捕らえる2人を睨みつけた。

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