リボーン複数主 | ナノ


▼ 標的81

旧校舎を出た由良、くるみはこの後どうするか話し合っていた。

「あのっ!武くんの方行っても大丈夫かな?」

そんな中、声を上げたのはくるみだった。自身の幼なじみが傷だらけだったのでベルフェゴールとの一戦は終えたはずだが、ここ最近の彼の言動から察するに、山本の所へ行ったとは考えにくい。ヒバリが自分たちのところに来たことで、山本の毒の進行が進んでしまっている可能性を考え言ったが由良は予想していたようですぐに了承した。

「確認なんだけど、ヒバリの怪我の具合から見て獄寺とランボくんはなんとかなってそうなんだよね?」
「うん!恭弥くん切り傷だらけだったから、残ってるヴァリアーメンバーでナイフ使うのはベルフェゴールだけだし、たぶん獄寺くんは助けてると思う。」

力強く頷いたくるみにそれなら、と口を開く。

「私はクロームの方に行く。実力では及ばないけど、まだ間に合うかもしれないし。」
「そうだね!ベルフェゴールがまだ来てなかったらクロームちゃんの解毒もリングも無事に解決するし!」

ランボを助けた獄寺が了平を助け、そこから山本と合流してクロームを助けに行く流れだが、その時既にクロームはヴァリアーに捕まり、クロームを助ける為に山本達はリングを全て渡すことになってしまう。間に合う望みは薄いが、リングを持っておらず、持っていたとしても触れる人間が限られている雪のリングは狙われることはないだろうと考えた末の提案だった。
2人とも行き先を決めて頷き合う。

「それじゃ、また後でね。」
「うん!気をつけてね!」

お互い声を掛け合い、それぞれ反対方向に駆け出した。


以前の戦いでは水が貯まっていて屋上の方からでなければ入れなかったB棟は、水が完全に引いているおかげで通常の下にある出入口から入ることが出来た。

「!武くんっ!」
「くるみ…?」

ドアを開けたくるみが最初に見たのは毒によって倒れ伏す山本の姿。思わず声を上げればその声が届いたのか小さく名前を呼ぶ山本だが、意識が朦朧としているようで非常に危険な状態だった。

「待ってて!すぐにリング持ってくるからねっ!」

山本の状態を見て焦るくるみは何度も自分に落ち着けと言い聞かせ、確実にリングを手に入れられるようにポールまでのルートを導き出す。広いグラウンドや中庭等であればポールを支える脚を撃って倒してしまえば問題ないが、B棟は狭い上に雨戦の時に改造するべく校舎を壊している。更に雨戦で山本やスクアーロが斬撃で柱や壁にも幾つか穴を開けたりしているので非常に不安定な状態だった。もしそこにポールを倒して倒れた場所が悪ければ校舎自体倒壊しかねない。くるみはアクアリオン内の足場が確保されている天井を高い跳躍力で伝ってポールに近づいた。

「わっ…!」

難なくポールの台座に飛び移ったくるみだが、思ったよりも安定しない造りにバランスを崩し落ちかける。くるみでも一瞬ヒヤッとする程の不安定さに、大空戦が始まる少し前からリングを持った状態でここに立っていたナマエを思い出す。何をやっても体力も運動能力も向上しなかったなまえが例え10分程でもこの上にいるのはとても怖かっただろうし、不安だっただろう。それなのに、自分たちを助けるために動こうとしたなまえに嬉しくなるし、あの時ヒバリが間に合ってくれてよかったと心から思う。
そんなくるみは持ち前の運動神経を活かしてなんとか立て直し、リングを手に入れ再び天井へ飛び移って山本の元に降り立った。

「武くんっ!」
「ぅ…」

思わず呼びかけたくるみに返ってきたのは小さな呻き声で、くるみは泣きそうになりながらも必死に自分を落ち着かせつつリングをリストバンドに嵌める。すぐに解毒剤が注入されたようで、今まで苦悶の表情を浮かべていた山本の顔が穏やかなものに和らいでいく。

「武くんっ…!」
「くるみ…?」

山本の表情の変化を見て安堵したくるみはよかったと言うように山本の名前を呟いた。呼ばれた山本はまだ毒が完全に抜けきっていないからか、ゆっくり起き上がり傍に座るくるみをぼんやりとしながら見る。

「大丈夫?解毒剤入ってから少しフラフラしちゃうから、無理しないでねっ…」
「っ…ああっ…大丈夫だ…ありがとな、くるみ!」
「う、ううん!大丈夫!」

山本の無事を確認できたくるみだが、いつものように赤くなることはなく、山本に答えた声はどこか落ち込んでいるようで覇気がない。表情も無理に笑っているように見えた。気づいた山本は不思議そうに名前を呼ぶが、くるみはなんでもないよ!と答えるだけだった。

「私たちは恭弥くんに助けてもらったんだっ!今由良ちゃんが体育館の方行ってて、私はこれから笹川先輩の方に行こうと思ってる。」
「それじゃあ俺は獄寺とランボの方行ってくるな!」
「う、うん!でもまだ無理しちゃダメだよ!」

くるみの注意に分かってるって!と明るく答えた山本を見て、くるみは心の内で謝った。
本当なら、山本はもっと早く毒から解放されていた。ベルフェゴールとの一戦を終えたヒバリが次に助けるのはくるみ達ではなく、山本だからだ。恐らくヒバリがくるみ達を優先したのはなまえが巻き込まれたからだ。もしなまえがおらず、くるみと由良だけならば、ヒバリは山本を助けに行っていただろう。ヒバリの行動を決めることはくるみには出来ないし、なまえが巻き込まれることになるとは予想もつかなかった。だが、もしこの事態を予想出来ていたのなら、回避する策を考えられていたかもしれないし、もしそうなれば原作通りヒバリは山本を早く助けていたかもしれない。そう思い悩んで、自分の詰めの甘さに苛立っていた。

「もう大丈夫だ。途中まで一緒に行こうぜ。もしかしたらヴァリアーと鉢合わせになるかもしんねーし。」
「そうだね!ありがとう!」

くるみの心情を察した訳では無いが、このまま1人にする訳にはいかないと判断した山本の提案を受け入れたくるみは、申し訳ないと思いつつホッとした。
私、嫌な子だなあ…
山本に隠れて自嘲するように笑ったくるみはすぐにパッと表情を変え、行こう!と努めて明るく振舞った。くるみの表情の変化を見逃さなかった山本だが、今言及したところでくるみが答えてくれるとは思えず、加えて状況が一刻を争うようなものなので、聞くことが出来ず、代わりに安心させるように力強く頷いた。

prev / next

[ back to top ]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -