リボーン複数主 | ナノ


▼ 標的80

由良とくるみが旧校舎を出て暫くして、なまえは恐る恐る共に残されたヒバリを見る。

「っ!」

バチリと音がしたようなくらいしっかり目が合い、息を呑んで真っ赤な顔で俯いた。が、すぐにそろりと顔を上げ、ヒバリと目が合わないようにしながら、しかししっかりとヒバリの怪我の具合を確認する。
守護者戦で唯一圧勝してみせたヒバリだが、雲戦でXANXUSを挑発し、ゴーラ・モスカの暴走によって深手を負っただけでなく、ここに来る前にベルフェゴールと一戦交えた際に至る所をワイヤーで切り裂かれたことで重傷の状態だった。ヒバリの怪我にくしゃりと泣きそうに顔を歪め、何も出来ない自分に腹が立つ。
今の自分は部屋着しか着ていない。上着は借り物だから汚すわけにはいかない。部屋着も汚くて包帯の代わりにはならない。

「みょうじなまえ。」
「!はいっ…!」

自己嫌悪に陥るなまえは自然と俯かせていた顔を上げ、ヒバリを見上げた。ヒバリはどこか不機嫌そうな顔でこちらを見下ろすようにしており、なまえは目が合ったことで顔が赤らんだがどういうことかと焦る。

「なんであんな事をしたの。」
「えっ、あんな、事…?」
「飛び移ろうとした事。」
「あっ…」

突然の質問に狼狽えたなまえだが、ヒバリの指摘ですぐにピンと来て、えっとと説明する。

「頑張れば、出来るかなって、思って…」
「無理だよ。」

バッサリと断言されたがなまえは負けじとで、でもっ!と反論する。

「人間誰しもっ、火事場の馬鹿力みたいなのがあってっ、わ、私だって、やれば出来るかもしれないし…!」
「無理だよ。」
「っ!」

またしても断言したヒバリはゆっくりとなまえに近づいていく。しかしなまえは気づかず、更にはヒバリにはっきりと否定されたことでショックを受け、涙目になりながらも尚もでもっ!と反論しようと声を上げていた。

「ねぇ。」

気づけばヒバリがなまえの前にしゃがみ込んで、なまえの目尻に指を添える。

「なんであんな事したの。」
「それはっ…」
「僕が来るとは、思わなかったの?」
「!」

ヒバリの問いに大きく目を見開いた。
それは、どういう意味なのか…
聞きたくとも、上手く声が出ずに口から零れるのははく、という息だけ。
至近距離で見るアイスグレーの切れ長の瞳に吸い込まれそうな心地を覚え、しかしすぐにハッとする。そして必死にグルグルと考える。
正直、ヒバリが来ることは頭になかった。あの時なまえの頭には由良とくるみを助けたいという思いだけで、誰かが来るかもしれないという考えはなかった。ついでに言えば、原作で今はこうだからと考える余裕もなかった。だからヒバリが来たことで、ベルフェゴールとの戦いが終わったのか、山本を助け終わったのか分からなかったが、そこでようやく誰かが来るという可能性が生まれたのだ。
それを正直に言うのは憚られたが、ヒバリに嘘は通用しない。加えてヒバリの手がずっと自分の頬に添えられていることでなまえの心に余裕などなく、真っ赤になりながら口を開く。

「2人を、助けたかった、のでっ…あのっ…」

目を伏せ、しどろもどろになりながら話すなまえを見てヒバリはグッと眉を不機嫌そうに寄せる。しかしその表情は不機嫌というよりもどこか悲しそうな、苦しそうなもので、実際ヒバリの胸の内から何かが込み上げてくるような心地がしていた。
それは何故か。考えずとも分かっていた。
ヒバリにとってなまえが本人が思うよりも大きな存在になっていたからだ。なまえが2人を助けたいとなりふり構わず行動することは予測出来ていた。だからベルフェゴールとの一戦の後、山本ではなくなまえの元に行くことに何の疑問も持たなかった。助けに向かった先で、なまえがポールから落ちてくる光景を目にした時は肝が冷えた。なまえは気づいていなかったが、なまえを受け止めた時、ヒバリは珍しく焦っており、無事だと分かるとホッとしたのだ。なまえのことを気にかけているにもかかわらず、なまえ自身はヒバリにも、誰にも助けを求めようとしなかった。その事実にヒバリは腹が立ったし、もっと自分を頼ればいいのにと思ったのだ。
それが何故かは、現時点でヒバリは理性的な部分で検討がついているが、本能的な部分ではまだ認めたくないという思いもあり、触れようという気にはならなかった。
そんなヒバリの心情をなまえが知る訳もないので、何も言わないヒバリに不安そうに声をかけている。そのなまえの様子を見たヒバリは呆れたように嘆息し、手を離した。ヒバリの溜息にビクリと肩を震わせたなまえはもう一度恐る恐る声をかける。

「君に死なれると、あの子に校歌を教える人間がいなくなるからね。あの子が校歌を歌えるようになるまで、君を死なせるつもりはないよ。」

真っ赤な顔で呆けるなまえに本心を隠しつつそれらしい理由をつけて話すヒバリはだから、と続ける。

「次からは僕が来るまで待っていて。」
「っ………は、ぃ…!」

言った表情がひどく真剣で、まるでその言葉が永遠のように錯覚するほどの強い意思をヒバリの鋭い瞳から感じ、真正面から受けたなまえは小さく答えて頷いた。
な、なんか、少女漫画みたい…
ヒバリの心情を知らないので深い意味はないと必死に考えようとするなまえは、頭の中にぽこりと浮かんだ考えを首を振って追いやり、ハッとヒバリを見る。

「ひ、ヒバリさんっ!あのっ、て、手当てっ…手当て、しないとっ…!」
「平気だよ。」
「で、でもっ…痛そう、だし…あの、せめてっ、ハンカチ巻いてる所だけでも…」

ベルフェゴールから受けた傷は映像を見ていたシャマルが思ったよりも深いと判断していたので、ヒバリが言った「平気」という言葉は嘘だと分かる。しかしなまえはそれすら頭から抜けていて、今はただ「痛そう」と「どうしよう」としか考えていないので、早く手当てしないととワタワタと焦る。
見兼ねたヒバリがまたしても呆れたように嘆息し、口を開く。

「保健室、行くよ。」
「は、はいっ!」

立ち上がったヒバリに倣って立ち上がり、途中ふらつくヒバリを心を無にして支えながら、2人は本校舎に向かった。

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