リボーン複数主 | ナノ


▼ 標的79

リング争奪戦最後の戦いである大空戦はXANXUSがツナに攻撃を仕掛けたことで始まった。修業で成長し、強くなったツナはXANXUSと互角と思わせ、熾烈な戦いを繰り広げていた。
XANXUSの炎は2代目ボスと同じ威力の強い憤怒の炎と呼ばれるもので、それに加えて2代目は使用しなかった武器、2丁拳銃を使って戦っていた。グローブを使って炎を噴出し飛び回るツナに追いつき、ツナ以上の威力を持った炎を凝縮したレーザーのような強い攻撃を放射し、ツナを追い詰める。
その中でツナが一瞬引きつけなければ霧の守護者であるクローム、マーモンのいる体育館に直撃してしまうような攻撃も仕掛け、更には施しと称して嵐、雷のリングが乗ったポールを撃った。それにより、ヴァリアー側の守護者であるベルフェゴール、レヴィがそれぞれ解毒に成功し、回復してしまった。慌てて仲間を助けに行こうとするツナだったが、それはXANXUSに阻まれ、ツナは焦りの表情を浮かべた。

「こっからだと近いのは雨か雪か…」

ツナ達が焦る中、モニターには解毒したベルフェゴールが校舎から飛び降り、思案する。雨、雪共に行われたフィールドは隣合っていて、今の時点でベルフェゴールが向かえば雨のリングだけでなく雪のリング、そして雪の守護者も手に入れられる。瞬時に考えついたベルフェゴールは一気に形成を有利にする為に2つの守護者戦が行われたフィールドへ向かおうとした。
「!」

キンッという高い音を立て、ベルフェゴールが手にしていたリングが校舎の方へ飛んでいった。
リングを気にすることなく殺気を感じた方を見れば、何故か解毒し回復したヒバリが立っていた。

「お前は…」
「ふぅん。よくかわしたね。」

君、天才なんだって?
屈むベルフェゴールを見下ろすようにして立つヒバリの姿に皆が驚く中、ベルフェゴールとヒバリのバトルが始まった。


校舎の各所でツナ側、ヴァリアー側の守護者が戦っている中、なまえはポールの上で旧校舎の窓からくるみと由良が毒で倒れている姿を見て焦っていた。高い場所にいたこともそうだったが、それに加えて友人が死ぬかもしれない状況に焦りから自然と体が緊張で強ばり、息が荒くなる。心臓がどくりどくりと大きな音を立て、耳のすぐ近くで聴こえているような感覚になる。

「っ………!」

なんとか落ち着かせようと声を出そうにも、出てくるのは悲鳴に近い息だけ。
雪戦の時と比べて流れ等分かっている大空戦の方が気持ちに余裕が持てるはずなのに、友人の危機に頭では分かっていても体が追いつかないような状態で、ちっとも落ち着けない。

「っ…」

私が、私がやらなきゃ…!
この場で自由に動けるのは戦っているツナとXANXUS、そしてなまえだけなのだ。怖がってる場合ではないのだ。
何度も言い聞かせたお陰か、次第に落ち着いていき、なまえは浮かんでいた涙をぐいと拭って旧校舎を睨む。雪戦で崩壊した壁や校舎がそのままになっているから、大きく空いた穴が窓代わりとなり倒れている2人がよく見えた。2人の表情は苦しげで、知っていたとしても早く助けたいという気持ちが膨れ上がる。

「フゥーー………」

一度大きく息を吸って、吐き出した。
考えろ、限られた時間の中で自分が出来る最大のことを。
落ち着き、深呼吸で頭も司会もクリアになったことで考える余裕も生まれた。その中で、今自分が得られる情報を整理する。
自分が立っているポールは旧校舎より少し高いが、校舎に空いた穴から2人の様子を見ることが出来るくらいだからそこまで高くはない。ポールの台座はそこまで広くもないが、思ったよりも動き回ることが出来そうな大きさで、今は恐怖で震え、動けていないが、直径は10歩位なら歩けるだろう。
それらを整理していくと、ピンとある案が思いついた。視線を台座から旧校舎へ移す。

「大丈夫。いけるいける…!」

これは自分の勇気とどれだけ動けるかにかかってくるし、1回きりしか試せない。それでも、自分に出来る事は限られているのだから少しでも可能性があるのなら試すべきだろう。
迷っている余裕はない。こうしている間にも2人の毒は進行し、2人が死んでしまう。

「やるしか、ない…!」

グッとリングを握り締め、もう一度深呼吸をした。よしっ!と気合を入れたなまえは振り向き、台座の端を確認し、そのままゆっくり後退する。

「大丈夫、大丈夫…」

繰り返し呟いてしきりに後ろと前、自分が向かおうとする旧校舎の大きく空いた穴を確認しながら台座の際まで震える足を動かして移動する。


なまえの行動はモニターに映されていた。観覧席にいたリボーンらは一体何をしているのか、疑問に思いながらモニターを見ていた。

「ひょっとするとアイツ、アソコから旧校舎に飛び移る気かもな。」
「なっ…!」

なまえの行動の意図が読めたリボーンの言葉皆絶句する。

「無茶です!大分距離が空いているのに!」

バジルの指摘通り、なまえがポールから見ている距離よりも、実際の距離は倍ほど離れている。それでなくても、運動能力皆無ななまえがポールからなんの補助も無しに旧校舎に飛び移るなど出来るはずもないのだが、彼女は友人の為ならばできると思えてしまう厄介な人間だったのでその考えに至らず、今震える足で少しずつ助走がつきやすいように台座の端に移動していた。それが分かっているからか、リボーンは何を考えているのか読めない目でモニターを見る。

「通常ならそう思うだろうが、この前の雪戦の時もなまえは由良とくるみが危険に晒されるととんでもねぇことをし出すからな。」
「そんなっ…」
「恐らく、リボーンの言う通り、あの嬢ちゃんは飛び移ろうとしてるみたいだな。」
「ああ。台座の端に移動するのも助走するためだろーな。」

見ている皆がリボーンの推測に納得し、冷や汗を流す。
これが例えばくるみや由良であれば武器を使って落下したとしても衝撃を和らげるかもしれないと少し期待できるが、体力もなく、運動もできないなまえは武器すら持っていない、生身の状態だ。いくらリングが加護を施しているからといっても、落下した衝撃まで軽減するかと言われたら分からない。
いつもなら無理だ出来ないと言ってやらない行動を、こういう時ばかり思いついて実行しようとするのだから、とんだお騒がせ少女である。

「大丈夫。できるできる。私はできっ…!」
「ああっ!」
「マズイ!」

言い聞かせる途中、不自然に言葉が切れたが、丁度その時後退していたなまえの足が台座から滑り落ち、そのままなまえの体が後ろに傾いた。バランスを崩したことで体勢を立て直すことも出来なかったなまえは重力に逆らうことなく落下した。途中台座を掴もうと手を伸ばしたが、爪が掠る程度で届かなかった。
背中を下にした体勢で落下するなまえをリボーンたちはただ見るしかできなかった。


落下しているなまえは脳裏に色々な考えや後悔、絶望、そしてこれまで過ごした日々が代わる代わる浮かんでは消えていた。所謂走馬灯というものである。
ああ、悔しいなぁ。なんで最期までこうなんだろう…
泣きたくなるほど無力な自分に絶望し、次に浮かぶのは2人と過ごした様々な思い出。楽しかったなあと思うが、だからこそ助けられずに終わる自分に腹が立つ。落ちる衝撃が強すぎるせいか、悲鳴を上げることなく落下していくなまえは泣きそうな、しかし諦めたような顔で受け入れた。

「!」

しかし、そんななまえは落下した時のものではない何かにぶつかるような衝撃を感じた。同時に腕と膝裏を強い力で掴まれているような感覚さえする。
自分が無事でいることも、その感触にも驚いたなまえは眼を白黒させてきょとりとする。そんななまえの近くでねぇと静かな声がかかる。

「何してるの。」
「………………ヒ、バリさん…?」

ゆっくりと視線を動かせば、こちらを見下ろすヒバリがいた。声は静かだが、どこか怒気を孕んでいるような空気を感じ、言葉に詰まる。

「えっ、と…」
「死にたいの?」
「い、いえ…!」

静かに、しかし強く問われたなまえは慌てて否定する。それに対しヒバリはムスッとした顔のまま不機嫌そうに見るばかりで、信用していない様子だ。
気まずさを感じたなまえは視線をウロウロさせ、そしておずおずとヒバリを見上げてあの、と不安げな顔で声を上げた。

「走っていけば、あそこから、あの穴に入れるかなって思って…」

落ちる際咄嗟に伸ばしていた手を使って台座と旧校舎を指差して説明したなまえに、ヒバリは無言で台座と旧校舎の位置を確認するべく見上げ、すぐに戻る。

「君の運動能力で出来るとは思えないけど。」
「えっ、で、でも!火事場の馬鹿力みたいなので、出来るかなって、思って…!」
「無理だよ。」
「っ…」

キッパリと否定されたなまえはショックを受け、泣きそうに、苦しそうに顔をくしゃりと歪める。言葉を詰まらせたなまえに、ヒバリはまた何かを言おうとして口を開いたがやめ、なまえを抱えたまま歩き出した。突然動いたヒバリに慌てて声をかけるなまえだが、ヒバリは反応を見せない。
そのまま辿り着いたのは旧校舎2階、雪戦が行われた場所で、今は由良とくるみが毒によって倒れていた。

「由良っ!くるみっ…!」

ヒバリに下ろされたなまえは上手く力が入らない足を懸命に動かし2人の元へ駆け寄った。2人とも毒によって苦しそうな表情を浮かべ、呻き声しか上げられない様子だった。なまえはすぐにリングを取り出し、2人のリストバンドに嵌め、解毒剤を注入する。2人は暫くして表情を和らげると、目を覚まし、起き上がった。

「なまえ…」
「恭弥くん…」
「由良、くるみ…!」

毒が完全に抜けきっておらず、少しぼんやりとした様子でなまえとヒバリを確認した2人は心配し、涙目になって見るなまえを安心させるように笑いかける。

「大丈夫だって。心配しないでよ、なまえ。」
「助けてくれてありがとう!なまえちゃん!」

ポンポンと頭を軽く撫でる由良とにこやかに話すくるみにようやく安心したのか、鼻声のままうん!と頷いた。それに苦笑した由良とくるみは目を合わせ、頷き合った。

「さ!それじゃあ元気になったことだし、恭弥くんリング貸して!」
「くるみ…?」

なまえを由良に任せたくるみは立ち上がり、ヒバリの方に手を向けた。由良とくるみを助けたいあまり、ヒバリはてっきりいなくなっていたものとばかり思っていたなまえは後方の柱に寄りかかって静観していたヒバリの姿に驚いた。
ヒバリは暫し黙って近づいたくるみを見下ろしていたが、やがてリングをくるみの手に落とすように渡す。くるみは任せて!と言って今度はなまえに声をかけた。

「ここからは、恭弥くんと一緒にいてねっ!リングは持ったままで大丈夫だよっ!」
「えっ…えっ!?」

くるみに続いて由良も立ち上がり、くるみの方へ歩いていく。

「私らは他の守護者助けに行くから、アンタはヒバリの手当でもして、大人しく説教されてな。」
「お説教…!?」

ヒバリと行動を共にすると知って顔を赤くしたり、お説教をされると言われて青くなったりと忙しいなまえ。そんな彼女を確認した2人は、じゃあよろしくとヒバリに言ってパタパタと階段を下りていった。

「ちょっ、待っ…!」

呼び止めるなまえの声は聞き入れられず、ヒバリとなまえはしばし無言のまま2人がいなくなった階段の方を見るだけだった。

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