リボーン複数主 | ナノ


▼ 標的72

今、何が起こってるの?
「おかけになった電話番号はおでになりません」という無機質な声が聞こえてくるスマホを耳につけたまま、ただ前にある壁を見つめる。暫くすると、通話終了のツーッツーッという独特の音が聞こえ、のろのろと通話終了ボタンをタップした。
シン、と静まり返った部屋がやけに怖く感じて、寒くもないのに体が震えてくる。

「待って。一度整理してみよう。」

自分を落ち着かせるためにも呟いて、必死にさっきまでの自分の行動を思い返す。
お風呂から上がって、髪も乾かして、みんな大丈夫だと信じて、気を紛らわそうとゲームをしようと起動させた時だった。くるみちゃんから電話がかかってきたんだ。ひょっとしたら、リング戦が早く終わって、明日から一緒に学校に行けるようになったのかもしれない。そう思ってもしもし!って勢いよく出た。

「あ!なまえちゃん久しぶり!」
「ひ、久しぶり!どうしたの?突然電話なんて…」

声が裏返ったけど気にしない。期待でドキドキとうるさくなる心臓を静めるように服の上から押さえて、くるみちゃんの返事を待つ。くるみちゃんは何故か歯切れ悪くえっとね、と言葉を選ぶように間を空けた。

「最期に、なまえちゃんの声が、聞きたくなっちゃって…」
「ぇ…」

小さく零れた声は掠れていて、相手に聞こえたかどうかも分からない。けれど、私はそれどころじゃなかった。最後って、どういう意味?聞きたくても、くるみちゃんは明るくごめんね!と言って、答えてくれない雰囲気を出している。
きっとこれは、いつもの様に知らないフリをしないといけないものだ。だから私は大丈夫!と返して、照れちゃうな、なんて茶化してみせた。
そんな時、くるみちゃんに静かに名前を呼ばれる。同じようになあに?と聞き返した。

「あのね、私ならできるって、言ってくれないかなぁ?」

くるみちゃんのお願いに、静かに目を見開いて、息を呑んだ。でも、すぐに分かったと答えて、ゆっくり息を吸う。

「くるみちゃんなら、できるよ。私が保証する!」
「ありがとう!」

それじゃあこの後用があるからと言って通話を切ったくるみちゃんは、またねも、また明日も言わなかった。一度通話を切った私は、少し迷って、もう一回くるみちゃんにかけようとリダイヤルボタンをタップした。

「!」

その前に、スマホが着信を知らせる画面に変わり、相手の名前を見た瞬間通話ボタンをタップし、勢いのまま耳に当てる。

「由良っ!」
「なまえ、久しぶり。」

くるみちゃんのこともあって焦る私は久しぶりと早口に言ってあの、と言いかける。由良に聞いたところで、何か答えてくれるだろうか。
あの時、ツナがヴァリアー襲撃について言おうとしたのをリボーンが遮った。まるで、私は聞いてはいけないとでも言うかのように。ということはつまり、私はリング争奪戦に関わってはいけないということで、じゃあ、由良がリボーンに言うなと言われていたら?聞いてもきっと、教えてくれないだろう。
そう思うと、聞こうとしていたことも聞けなくなって口を閉じた。電話口で不思議そうな由良の雰囲気を感じて、でも言えないから何も話せない。そんな私の代わりにあのさ、と由良が声を出す。

「理由は聞かずに、私なら大丈夫って言ってくれない?」
「え…」

思いもよらない頼み事に、言葉が出なかった。頭の中はどうしてという疑問の言葉が次々と溢れてくるのに、口から出るのは、あとか、えとか、言葉ですらない音ばかり。そんな私になまえ?と不思議そうに聞いてくる由良にハッとなってなんでもない!と慌てて返す。

「由良なら、大丈夫だよ。私がついてるんだからね。」

震えそうになる声を頑張って張って、由良が望んだ言葉をかける。私の声に気づいているのかいないのか、由良はありがと、といつもの様に返して軽く笑った。

「なんか、私らしくないんだけど、無性になまえの声聞きたくなってさ。我儘に付き合わせてごめん。じゃ、そろそろ切るわ。ちゃんと早めに寝なよ。」
「あっ…」

由良っ!と呼ぶ前に切られてしまい、聞こえるのはツーッツーッという音。通話を切ることも出来ず、私はスマホを持っていた手を下ろし、部屋をぼんやりと眺める。

「どうして…」

どうして、2人とも同じようなことを言うの。
どうしようもなく不安で堪らなくなり、急いで2人にかけ直す。最初にかけてきたくるみちゃんにかけても電源を切られているのか、おかけになった電話番号は、という無機質な声が聞こえるだけ。次に由良にかけるが、結果は同じ。それが、今の私。

「もう一度、整理、しよう。」

通話アプリを開いた状態のスマホを放り、急いで机の引き出しにしまっていたノートを取り出した。
memoと表紙に書いたそれは、私がこの世界に生まれついて字が書けるようになってから思い出せる限りのこの世界のことを書き留めたもの。最初はどんなキャラクターが登場するのか、大まかなあらすじが書かれていて、途中から細かい覚えている話を章ごとにまとめてある。その中からヴァリアー編と書かれたページを開く。
ヴァリアー編が始まるのは、10月のツナの誕生日付近。確か日曜日って言っていたから、たぶん13日に始まった。そこから10日修業する期間があって、でもヴァリアーが来るのが早くて修業期間は短くなったから、半分の5日と考えて晴、雷、嵐、雨、霧…
カレンダーの日付に当てていた手をピタリと止める。

「今日、が、2人が戦う日?」

言って、自分でも驚いた。2人が戦うなんて、おかしな話だ。大抵守護者は1人ずつ、ツナ側とヴァリアー側が戦うのに、きっと私が知らないヴァリアー側の守護者がいるのだ。そのはずなのに、じゃあどうして、2人とも最期とでも言うように電話をしてきたの?

「もしかして、相手はヴァリアーじゃない?」

それならば、辻褄が合う気がする。それじゃあどうなるの?2人は無事に生きているの?
2人が敵意をもって戦うなんて考えられない。でも、だからって、2人が戦うことを拒否したとして、死なないとも限らない。
あの電話は、2人ともどこか死のうとしてるように思えた。自分はどうせ死ぬから、みたいなそんな感じに聞こえた。

「させない…!」

上着をひっつかんで羽織る。スマホと家の鍵を持って、親にちょっと出てくる!と叫んで家を飛び出した。後ろから呼び止める親の声が聞こえた気がしたけど、気のせいだ。

「絶対死なせない…!」

この世界に生まれて、住んでる町が並盛と知って、嬉しいと思うのと同時に、怖いと感じていた。どうして怖いのか分からなくて、分からないから誰にも言えなくて、ずっとずっと不安で仕方なかった。
由良に会ったのはそんな時だった。初めは、ただ授業でグループが一緒というだけだったけど、その時から、由良といる時だけは、何故か安心できて、不安も恐怖も感じなかった。由良といれば大丈夫という絶対的な安心感があった。だから、由良とクラスが離れた時はすごく不安で、ショックだった。
そんな私を元気づけてくれたのはくるみちゃんだ。くるみちゃんは由良とは違う安心感を与えてくれて、傍にいるだけなんでもできるような気がして、怖がらなくても大丈夫という自信が溢れてくる。
2人がいつも私を気にかけてくれるのは知っていたし、私だってそんな2人の力になりたいと何度も思っていた。ずっと迷惑をかけて、任せきりで申し訳ないと思っていたし、何も出来ない自分が嫌いだった。もしかしたら、私のこの行動で、また2人に迷惑をかけてしまうかもしれないと思うと、足が止まりそうになる。でも、それ以上に、私を動かす感情があって、私は走った。

「間に合え…!間に合え…!」

たぶん私は本当は行かない方がいいんだろう。京子ちゃんたちと同じように、何も知らないまま、いつもと変わらずに過ごすべきなんだろう。
でも、たとえそれが正しいことだとしても、そんなの知らない。私にとって大事なのは、2人が無事でいること。何も出来ない私だけど、代わりに怪我を負うことならできるから、もし2人が死にそうになったら、私が全部代わりに受ければいい。

「はぁっ…はぁっ…!今何時っ…!」

いつもより早く学校に着いて、ポケットからスマホを出す。布が絡んでイライラして、急いで出したらチャリンと鍵か落ちた。スマホの電源を入れながら鍵を拾って時間を確認すれば、夜の11時7分と表示していた。たぶんまだ間に合う…!
息を吐いて、フェンスをなんとかよじ登って敷地内に入る。問題は、校内のどこにいるか。

「思い出せ、思い出せ…!」

たしか、最初は外、グラウンドは雲だから、たぶん玄関辺りで晴、雷は屋上だったはず、嵐は校舎内だし、雨はB棟だった。と、思い出していると気づいた。原作で、登場していなかった校舎。いや、それよりも、原作にあったかどうかも定かではない場所。

「旧校舎…!」

きっとそこだと当たりをつけて、私は限界間近で震える足を動かして、旧校舎に走った。
お願いだから、間に合って…!

「2人ともっ…無事でいて…!」

祈るように言って、やけに遠く感じる旧校舎を目指した。

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