リボーン複数主 | ナノ


▼ 標的71

今日はディーノに野暮用があるということで、普通に学校を終えて、放課後から河川敷で修業が始まった。くるみは2人の動きを注視していたからか、反応は鈍いものの、なんとか追いつき、時には反撃も出来るようになり、成長を見せていた。
そんな折、ディーノの携帯が着信を知らせ、一旦休憩という形になり、くるみは嫌だと拒否の姿勢を見せるヒバリのトンファーを受け止めて強制的に終わらせた。ディーノはくるみのお陰で電話に出ることに成功し、2人から少し距離を置いたところで相手と一言二言話すと通話を切った。そして少し顔を強ばらせながら2人のところに戻ると、くるみの名前を呼んだ。

「明日は、雪の守護者戦に決まったそうだ。」
「!そう、ですか…」

静かに言われた内容に1度大きく目を見開き、すぐに伏せて答えたくるみは動揺しているのか表情が少し硬い。独りでに震える手を抑えるように握り拳を作り、ぐっと力を入れ握り締め、ディーノさんと呼びかける。

「今まで、ありがとうございました。私、頑張ります!」

最後はにこりと、いつもの様に笑って言えば、ディーノは最初驚き目を見張り、すぐににっと笑って頷いた。続けて俺も見に行くからな、と言えば嬉しい!と返ってくる。ヒバリはそんなくるみの様子に溜め息を吐き、トンファーをしまった。


帰り道、珍しく一緒に帰路に就いているヒバリと並んで歩く。ちらりと目を向けると、何を考えているのか分からない表情で前だけ見ている姿に凛々しさを感じる。くるみの視線に気づいたヒバリが顔を歪めて何、と問いかける。くるみはヒバリに怯むことなく恭弥くんさ、と口を開く。

「なまえちゃんと話してたでしょ、入院してる時。」
「ついに盗聴にまで手を出したの。」
「聞こえてたの!」

もう!と怒る素振りを見せたくるみは恭弥くんは、と言いかけて、口を閉じる。不自然なところで途切れた言葉にヒバリが目で続きを促すが、くるみは少し難しい顔をして黙り込んだ。
なまえちゃんのこと、どう思ってる?
口を噤んだくるみが聞こうとしていたことだった。
ヒバリが好むのは強者。自分と同等、又はそれ以上の実力を持つ者が現れれば嬉々として勝負を挑む。群れるだけの草食動物と称する弱者を甚振るのも生き生きとしてやっている。
しかしヒバリは、それ以外にも、自身が小動物と称する存在も好む。恐らくなまえはその位置付けだろう。彼女は1度としてヒバリに噛み殺されたことも、噛み殺そうと思われたこともないようだから。それに、なまえがただの草食動物というものでないことは、くるみが一番よく分かっている。ヒバリはハッキリと言わないが、少なくとも好ましい存在と思っているということは、傍から見ても分かっていた。
きっとヒバリなら、なまえを気にかけてくれるだろう。そう思い、くるみは聞こうとしていた言葉を飲み込み、代わりにニコリと笑って言った。

「なまえちゃんのこと、よろしくね!」

言われたヒバリは怪訝そうな顔をして、また前を向いた。そのままスタスタと歩くヒバリは明日、と静かに言う。

「骨くらいなら拾ってあげる。」
「せめて頑張れとか激励の言葉くらい言ってよっ。」

言外に見に来るつもりだと言ったヒバリに、いつもの様に不貞腐れつつ返す言葉は変わらぬ文句。それにくるみは、これが自分が望んだ最期の光景なのだと嬉しくなった。


翌日、学校に向かう途中で登校する山本の後ろ姿を見かけた。普段なら、声をかけることはあまりしないのだが、今日は最期だろうからと、思い切って名前を呼ぶ。気づいた山本は振り返り、おはよう!とニカリと笑った。

「おはよう武くんっ。怪我、大丈夫だった?」
「ああ。くるみが手当てしてくれたお陰で問題ないってさ。」
「そっか!」

よかった、とホッと息をついた。基本物語通りに進んでいるとはいえ、やはり不安だったのだ。昨日は治療の為か、山本は学校に来なかったようだから、それが気掛かりだったくるみは心底安心した。
隣で歩く山本に視線をやり、くるみは人知れず頬を染め、小さく笑う。怪我をしていると言っても、元気そうな山本に嬉しくなって口が綻ぶ。
嬉しいなあ。よかった。やっぱり好きだなあ。なんて思っていると、山本が不意にこちらを向いてばちりと目が合う。慌てたくるみはビクンと肩を跳ねさせ凄まじい勢いで俯いた。その顔は先程よりも真っ赤になっていて、ばくんばくんとうるさく音を立てる心臓が全身に行き渡ったように感じ、胸を押えた。
そんなくるみを知ってか知らずか、山本はくるみの名前を呼ぶ。未だ赤いままの顔でそろりと山本を見上げれば、笑顔の筈なのに、どこか真剣味の帯びた表情をした山本が見つめていた。驚くくるみにもう一度呼びかけた山本は続けて言った。

「この前の約束、覚えてるか?」
「約束…?あ!う、うん!もちろん!覚えてるよ!」

山本の言った約束とは、リング争奪戦が始まる日の朝のことだ。このリング争奪戦が終わったら山本が伝えたいことがあるらしい。いつも自然な流れで話す山本にしては珍しいやり方に、くるみの記憶に印象深く残り、まるで昨日の事のように思い出せる。そうして思い起こしているくるみはどうかしたの?と問いかけるが、山本はなんでないと返すだけ。
最期になると分かっていても、言いたくないと言うような山本の雰囲気にそれ以上聞くことは出来ず、くるみはそっか!と返して前を向いた。


くるみが学校に着くと、ツナ達はまだ来ておらず、今日のバトルには参加しないヴァリアーとチェルベッロがいた。少し気まずいなぁと思いつつ、これで最期ならと思いきって動いてみることにした。

「こんばんは!」

前世で原作を読んでいたこともあってちょっとしたファン心というか、ミーハーな自分がひょこりと顔を出していたくるみは折角ならとヴァリアーの面々に声をかけた。が、もちろん誰一人として返さない。しかしくるみはめげることなく横からだから気づかなかったんだと考え、正面に回ってもう一度こんばんは!と声をかける。再び無言が返ってくる。もしかして聞こえていないのかもしれない、そう思って今度は先程よりも大きな声でこんばんは!と声をかけた。声が大きかったからか、ベルフェゴールやレヴィが耳を押えている。

「何の用だ。」
「挨拶してみました!」
「うわうぜー…」

痺れを切らしたのかレヴィの問いかけに元気よく答えたくるみはベルフェゴールの言葉を聞こえないふりをして聞き流し、何故いるのかと問うた。

「雪の守護者戦見に来たに決まってんじゃん。ヒマだったし。」
「勝てば我々の元に来ることになるからな。下見だ。」

また無言で返されるのかと思いきや、すんなりと答えられ目を丸くする。それからすぐにニコリと笑って口を開いた。

「沢田くんたちが勝つので私も由良ちゃんも行きません。」

途端、ずしりと空気が重くなる。重苦しい空気がぶわりと襲いかかってくるような感覚がして、その出処を見れば、今までずっと黙っていたXANXUSがギロリと睨んでいた。
まるで蛇に睨まれた蛙のように、恐怖で足がすくみ、動けなくなる。しかし負けじとくるみは笑みを深めた。

「くるみ!」

その時、XANXUSの怒気に気づいたのか、山本が切羽詰まったように叫んでやってきた。後ろにはツナや獄寺、了平、バジルの姿が見える。由良とリボーンは見当たらない。

「大丈夫か!?」
「武くん!特になんともないけど、大丈夫って、何が?」

くるみの返答に一瞬息を詰まらせた山本はぎこちない笑みを浮かべ、無事ならいいんだ、と伝え、掴んでいた肩を放した。そのまま山本に連れられる形でヴァリアーから離れたくるみは後からやってきたツナ達にも同じように心配されたが、全然平気!とにこやかに答えた。

「両者揃ったようですね。」

静かに言ったチェルベッロの言葉に驚き、目を周りに向ければ、ツナ達より奥の方にクロームと共にいる由良の姿が見えた。向こうも気づいたようで目が合い、ひとまず手を振っておいた。振り返した由良も、くるみもどこかぎこちない雰囲気に、ツナ達は口を閉じ、表情を曇らせる。
そんなツナ達のことなどお構い無しとでも言うように、チェルベッロは今宵のフィールドは旧校舎ですと告げ、皆を案内する。
旧校舎は雨戦が行われたB棟の隣に位置する木造2階建ての校舎で、老朽化が激しく今は使われておらず、来年取り壊される予定の建物だ。1階の昇降口から入るとひんやりとした空気が漂い、夜ということもあって酷く寒く感じた。それは2階に上がった瞬間に目の前に広がる光景で原因が分かった。

「な、何これー!?」
「校舎が凍ってるぞ…!」
「これだけの寒さであれば体力がより消耗されてしまいます…!」
「最悪凍死するぞ。」

ツナ、了平、バジルの後に続いたリボーンの言葉に聞いていた皆は息を呑む。了平の指摘通り、2階の校舎は廊下も教室も全て凍りついていて、吐く息は白く、まるで真冬、いや、それ以上の極寒の地にでも来てしまったのかと錯覚してしまうほど寒かった。
校舎の状態に驚くツナ達の前に、防寒着を身につけたチェルベッロが淡々と説明する。

「雪戦のフィールドは旧校舎全て。特殊装置により、室温は−10℃に保たれ、5分経過すると共に10℃ずつ下がっていきます。」
「また、随所に設置してある装置から強力なブリザードをランダムに飛ばします。威力は嵐戦のハリケーンタービンと同程度とお考え下さい。」
「更に…」

言葉を区切ったチェルベッロの1人がいつの間に持っていたスプーンを放る、すると、ピーという高い音の直後、スプーン目掛けて熱光線が飛び、スプーンを破壊した。

「フィールド内の至る所にセンサーを設置し、反応すればあのようにレーザーが放射されます。センサーはランダムに位置が変わり、レーザー以外にも様々なトラップが仕掛けられています。」
「雪戦では、リングを1つに完成させた後、校舎2階の中央の教室に設置された解消装置に嵌めてこれらの仕掛けを停止した者が勝者となります。なお、停止装置を起動させればリストバンドも解除されます。」
「ただし、今回も15分の時間制限を設けさせていただきます。15分経過してもリングが完成せず、かつ仕掛けを停止できなければどちらも失格とし、リストバンドから猛毒が注入され、校舎内随所に設置した時限爆弾が順次爆発し、校舎を全壊します。」
「そして、雪の守護者を選ぶ際の絶対条件、候補者どちらかの死が必要となる為、リングをとられた側はその時点でリストバンドから猛毒が注入され、絶命します。」

チェルベッロの説明にツナ達は言葉を失った。
あまりにも厳しい条件に、もしかしたら2人共助かる方法があるのではないかと思っていた期待が潰されたことに、皆この状況に憤り、焦る。しかし、チェルベッロも、由良、くるみも落ち着いており、両者は中央へと声をかけられ、2人共無言で向かう。

「由良っ…」
「くるみっ…」

ツナ、山本が声をかけるが、2人は大丈夫とでも言うように微笑み返すだけで何も言わなかった。今回も観覧席は外に設けられているようで、チェルベッロは無情にも守護者以外の方は外へと言い放つ。ツナ達は後ろ髪引かれる思いで縋るように2人を見るが、2人は微笑み、手を振るだけで何も言わず、しかしツナ達も何も言えず、そんな自分が悔しく、情けなく思いながら観覧席に向かった。
皆が観覧席に入った頃、チェルベッロは徐に口を開く。

「それでは、雪のリング…」
「神崎由良VS川崎くるみ。バトル開始!!」

いよいよ、雪のリング戦が始まった。

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