リボーン複数主 | ナノ


▼ 標的5

※途中で視点が変わります


入学して2ヶ月程が経ち、ようやく学校生活にも慣れてきた。ふぅ、と無意識に吐いた溜め息に気づくことなく、なまえは由良を探していた。と、いうのも、なまえが入学して初めて出来た友人のくるみは放課後都合がつかないことが多く、また由良も仲良くなった友人はほとんど部活に所属しているか通学路が逆方向か、といった具合なので自然と登下校を合わせていたのだ。何かあればお互い連絡し合うものの、どちらも委員会に所属している訳でもないのでそういったことも無く、今日も一緒に帰ろうと校舎を探して回っていたのだ。
自己紹介の時、友達100人出来るかな計画を大っぴらに言っていた事もあってか、クラスメイト達は皆よく話しかけてくれたり自分から話しに行ったりしてそこそこ友好的な関係を築けていたおかげか、由良のいる場所もすんなり情報として入ってきた。どうやらクラスではなく、先程まで行われていた体育の片付けを体育館の方でしているらしい。様子を見るついでに時間がかかりそうならば手伝おうと思い、教えてくれた子に礼を言って体育館の方に向かう。

「ふーんふんふんふふーんふふーん…」

こうして歩いている時に偶然でもいいから会えないかな、と少し邪な想いも交えながら鼻歌で校歌を歌う。入学してから未だに会えていない彼女の好きな人、基最推しの人はいつも何処にいるのか彼女には分からない。ただ、放課後は決まって幼なじみであるくるみを呼び出していることから校舎を巡回するということはなさそうだ。なんて少し悲しくなりながら、それでもと一縷の希望を抱えて体育館に向かい、校歌を歌い終わる頃には誰にも遭遇することなく体育館に到着してしまった。

「由良みーっけ!」
「なまえ。もう終わったの?」

扉の間から見えた友人にまだいて良かったと安堵しつつ声をかければ、振り向いた彼女の手に掃除用のモップが握られていた。そんな彼女に近寄りつつここまで来た経緯を説明すれば問答無用で手にしていたモップを渡され、じゃあお願いと一言。

「由良さんや、もう少しあの、雰囲気というか、態度というか、そういうのをちょっとわかりやすくして貰えないですかね。」
「手伝ってくれるんでしょ?なまえってばやさしー。」
「おかしいなあ心がこもってるように感じないよ!?」
「心がくすんでるんじゃない?」
「言い方!!」

ねえ君もそう思うよね!?と話題を振られた相手はえっ!?と肩をビクつかせ、そ、そうかも?と目線を逸らしながら答えた。綺麗なススキ色の柔らかそうだが何故か逆立っている髪型をした少年はいきなり振ってこないでくれと思ったが、2人特になまえの勢いがすごいせいで声に出すことは出来なかった。
もちろん2人は本気で言い合っている訳ではなく、実はクラス発表の時と同じように少しテンパっていたのが正しい。由良もなまえもどちらもこの少年を、正しくは物語の主人公として描かれているはずの彼を知っているからだ。由良は1人残され掃除をさせられている少年を不憫に思い、またそこまで物語に詳しくなかったこともあって声をかけて手伝いだしたし、逆に由良よりは記憶していたなまえは探していた由良を見つけたところ何故か一緒にいた主人公に驚いたのだ。その為2人とも少しテンションがハイになり、普段はあまりしないようなやり取りを始めてしまい、収拾がつかなくなってしまったのである。しかしそれも暫くすれば落ち着き、静かになったところで2人して少年に謝罪した。少年は気にするなと言ったものの、2人のこの落差に若干引いていた。

「私、B組のみょうじなまえ。由良とは小学校の頃からの友達なの。」
「あ、俺は、沢田綱吉。よろしく。」
「うん!よろしくね!沢田くんが初めての他クラスのお友達だよ!」
「えっ!?」

驚く沢田に、なまえはニコニコと友達100人作るって決めてるんだ!と説明し、早く終わらせて帰ろうとモップをかけ始める。ボソッと私と同じじゃんと由良が呟いたのが聞こえたが、心の中で同意するだけに留めた。

「そういえば、なんで沢田くんと由良だけで体育館の掃除してるの?こんな広いところ、2人だけで終わらなくない?」
「あ、えっと…」
「沢田が押しつけられたから、私はその手伝い。」
「なっ、神崎さんっ…」

なまえのもっともな疑問にどう答えようかと吃った沢田を他所に由良が的確に答えてしまった。バスケでチームが負ける原因になったから掃除を押し付けられたなど、カッコ悪い理由だったこともあって隠したかったのに、なんで言ってしまうんだと由良の行動に頭を抱えてしゃがみこむ。折角事情を知らなそうな他クラスの女子が友達になってくれるかもしれなかったのに、こんなダメな自分ではやっぱりさっきのなしで、と言われるかもしれない。

「うわぁ、何それ最低。沢田くんだってわざと負かせたわけじゃないのにね。」
「えっ…」

そんな沢田の耳に届いたのは、掃除を押し付けた者を批難するもので、沢田を擁護するような言葉だった。少し拍子抜けしたような心地でなまえを見れば、想像しているのか不機嫌そうな顔をしていた。

「運動とか私も苦手だよ。人数少ないバスケなんて、パス出さないでっていっつも思ってるし。」

それめちゃくちゃ分かる。声には出さずとも、コクコクと何度も頷いて同意する。

「そういう時は由良に言えばなんとかしてくれるよ!なんたって強いからね!」
「いや、いくらなんでも試合じゃなければそうそう振り回さないから。」
「神崎さん、何かしてるの?」
「薙刀。」
「この前の地区大会で優勝したんだよ!」
「えっ!?すっげー!!」

沢田が褒めればでしょでしょ!とまるで自分の事のように嬉しそうに頬を上気させ破顔するなまえ。さらにそこからポンポンと由良がいかに強いのか、性格が優しく友達思いなのかということを思い出話とともに出していく。急なことでポカンとしてしまう沢田に少し赤くなり照れ隠しの為にもういいから!と声を荒らげる由良。すぐに我に返った沢田は、なまえも友達思いのいい子なのだと分かり、こんな自分でも、彼女なら友達になってくれるかも、と少し希望を持った。

「あと手っ取り早いのはねぇ、相手を呪うこと!」
「呪う!?ム、ムリだよそんなの!第一呪うってどうやって…」
「簡単だよ。相手が地味に嫌だなって思うことを願えばいいんだよ。」
「た、例えば?」
「例えばそうだなぁ…財布が小銭だらけになっちゃって少し重くなるとか!」
「……………へっ?」

いきなり物騒なことを言ってくるなまえに驚いていれば、内容はなんてことはない、本当に地味な嫌がらせにもならないようなやり方で、そんなので本当に効くのか聞けば、気持ちの問題!と返された。そんなんでいいのか。

「それじゃあ沢田くんまた明日!」
「じゃあね沢田。また明日。」
「あ、うん!また明日!」

無事に掃除も終わり、主人公と別れた2人。由良は教室に荷物を取りに戻るので、なまえは昇降口に向かう。
そんな2人は、というか主人公も知らなかった。まさかこのやり取りをした数十分後、主人公がパンツ一丁で学校のアイドルである笹川京子に告白する所謂原作に突入することを。

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