リボーン複数主 | ナノ


▼ 標的70

さあっと心地良い風が吹く。青々と茂る緑に太陽光を反射し輝く湖畔、見上げた空は高く、白い雲が風に流されていく。
久しぶりに、ここに来た気がする。
毎日訪れていたはずの場所なのに、何故かそう思ってしまった。ここに来るといつも癒され、落ち着くが、最近はそんな余裕もなかったように思う。

「由良。」
「……………疲れたんじゃなかったの?」

大きく伸びをした由良に声をかけたのはもう来ないと言ったはずの骸で、振り返った先にいた彼は微笑んでいながらも、どこか苦しそうに見えた。由良の問いに無言で返した骸は、表情を変えずに由良に近づいた。近づく骸に警戒することなく黙って見つめていれば、2人の距離はわずか数センチまでになっていた。あと一歩、骸が足を進めればぶつかってしまう程の距離で、骸はもう一度聞きます、と静かに言った。

「考えは、変わりませんか。」

骸の言葉に合わせるように、ざあっと一際大きな風が吹いて、木々や草、湖面を揺らした。
骸のまるで懇願でもするかのような歪められた顔に静かに目を見開いた由良は、つい先程の出来事を思い返していた。


ツナ側の霧の守護者として戦うことになったクロームと、敵側の霧の守護者であるマーモンとの戦いは、高度な幻術のぶつけ合いとなっていた。霧戦では特に装置等で会場を変えることはなく、完全に本人たちの実力勝負のような状態だった。
クロームは骸と同じ能力を使ってマーモンと戦った。今の由良では追いつくだけで精一杯な高度な幻覚、人を死に至らしめる生物の召喚。それらを駆使して戦うクロームだったが、相手の方が一枚上手だった。
マーモンはリボーンやコロネロと同じアルコバレーノの1人、バイパーであることが判明した。そのバイパーはアルコバレーノ一のサイキック能力を持つと言われている術士だそうで、クロームの熱さを感じさせる程の幻覚による火柱をいとも容易く凍らせ、あっという間にクロームを拘束してしまった。
拘束されたクロームが為す術もなく地面に叩きつけられた際、持っていた槍を離した時、慌てて取りに行った。その行為は、槍が何か関わっていると勘づかれるのには充分なもので、マーモンは幻術を使い、槍を粉々に破壊した。

「ごふっ!」
「!えっ!?ええっ!」
「クローム!」

槍が破壊されたと同時にクロームがいきなり吐血した。そのまま咳き込んだクロームはばたりと後ろに倒れ込んだが、その顔色は悪く、更に腹部が異常なまでにへこんでいた。それは決して幻覚ではなく、本当に起こっていることだった。
一体どういうことかと困惑しているツナ達に、信じられないといった様子でマーモンが気づいた。どうやらクロームは、幻覚でできた内蔵で延命していたらしい。そんなことが出来るのか、信じ難い内容だったが、実際クロームは今までそれで動けていた。しかしそれも要となる槍が壊され、幻覚のコントロールが失われてしまい、今に至っている。

「クローム…」

由良が心配そうに見つめる中、突如クロームの体から霧が出現し、クロームを包みだした。マーモンは自分の死体を隠すためと言っているが、いきなりツナが頭を押え、「来る」と言い出した。何度も「あいつが来る」と言うツナに、山本や由良がどうしたのかと聞くが、ツナは来ると言うだけで答えない。その間にも、クロームを覆う霧はどんどん濃くなっていく。

「六道骸が…来る!!」
「!骸が…?」

ツナの言葉に反応するように、クロームがいるはずの場所がガラリと空気を変える。先程まで感じなかった冷たく鋭い空気。それはまるで黒曜で骸と対峙した時のようなものに感じられ、それに気づいてまさか、と霧の中心を注視する。
すると、どこからともなくクフフ、と特徴的な笑い声が聞こえてきた。信じられない思いで、しかしこの声は幻覚でも幻聴でもないと分かってしまった由良の視線の先には、霧が渦を巻いて球体のように何かを包んでいた。と思えば、突然何かが地面を割ってマーモンに襲いかかる。ふぎゃっと悲鳴を上げて倒れたマーモンに、随分いきがっているじゃありませんか、と男の声がかかる。次第に霧が晴れていく。

「マフィア風情が。」

現れたのは、クロームではなく正真正銘の六道骸。周りが驚き、呆然とする中、由良は久々に見る骸の姿にどこかホッとして、骸、と呟くように呼んだ。それに気づいたのか、一瞬骸と目が合った気がして、気まずさを覚え、目を逸らした。
体勢を立て直したマーモンが、骸の名を聞いたことがあると言ってまたふわりと浮く。

「たしか一月程前だ。復讐者の牢獄を脱走しようと試みた者がいた。そいつの名前が、六道骸。」

その内容にツナ達はまた脱走したのかと驚いたが、次にマーモンが脱獄は失敗に終わり、現在は光も届かないような最下層の牢獄にぶち込まれたと聞いたと説明したことで言葉を失う。由良も、脱獄については聞いていたが、あの空間で平然と話していたし、そこまで聞いていなかったから驚きと、少し心配そうに骸に目を向けた。
が、骸は皆からの視線も気に留めることなく、現に僕はここに在ると平然と話す。それに対し、マーモンは骸がクロームについた幻覚だと結論付け、骸を氷漬けにし、幻覚で生み出したハンマーで叩き割ろうとした。骸は狼狽えることなく幻覚で対抗し、マーモンの動きを封じる。マーモンはなんとか拘束を解こうと幻術で応戦するが、骸は六道のスキルでもある修羅道の格闘スキルを発動させ幻覚で出されたマーモンを次々と消していく。それに焦ったのかマーモンは体育館全体に大掛かりな幻覚を仕掛けた。骸も負けじと幻覚で応戦し、それは観覧席にいた味方も巻き込む形となり、全員脳に直接作用する幻覚を立て続けに喰らったことで体の不調を訴えていた。

「ぐっ…」
「ううっ…頭が…!」
「10代目!」
「神崎!」

そんな中、ツナと由良は頭が割れそうな程の痛みに襲われていた。2人に見えたのは水の中で鎖に拘束され、右目と口元に管が繋がれた骸の姿、そして、骸が千種、犬を逃がす為にわざと捕まり、更に2人の保護の為に霧の守護者となることを承諾した記憶だった。
骸の記憶に動揺する間、骸はマーモンに勝利し、霧のハーフボンゴレリングを2つ手にしていた。骸がリングを1つにしようとしたところでマーモンがまだだ!と声を上げ、骸を倒そうとするも、骸の方が強く、マーモンを上回る幻術能力でマーモンを倒し、霧のリングを完成させた。
XANXUSに何か訳知り顔で話す骸だったが、話が終わればツナ達の方にやって来た。
久々の再会に喜ぶ、犬、千種、骸に対し警戒してダイナマイトを構える獄寺に、骸は霧の守護者となったのはツナの体を乗っ取るためだと警戒心のないツナに忠告するように話した。しかしツナはそれ以外の理由を知っていたので、ありがとうと困惑しながらも伝え、聞いた骸はふっ、と笑ったと思えば、由良と声をかけた。

「………久しぶり?」
「そうですね。見ていましたか?僕らの幻覚を。」
「うん。すごかった。」

先程見た記憶と、最後に会った時の骸を思い出し、少し居心地悪く話す由良。骸はそれに仕方ないとでも言うように小さく笑い、口を開く。

「君の今の実力では、あれ程高度な幻術は使えないでしょう。ただ、鍛えればいずれ到達できる領域です。」

それで、と続けた骸は、由良を真っ直ぐ射抜く。

「考えは、変わりましたか?」
「!」

骸の問いに驚き、そしてクロームと骸が見ていろと言った意味を理解した由良は一瞬目を見開き、伏せた。どうして、出てきそうになる言葉を飲み込み、同じように骸を見る。

「変わらない。なんとかする。」
「っ…………。」

由良の答えに骸はギリ、と歯噛みし、そうですか、と苦しげに答えた。それからすぐに少々疲れましたと残すと、気配が消えていくと共に前に倒れ込み、クロームに変わった。クロームはすやすやと眠っていて、内蔵は元通り機能しているようだ。それにホッと息をついていると、チェルベッロから声がかかる。

「勝負は互いに3勝ずつとなりましたので、引き続き争奪戦を行います。」

その言葉に、緊張が走る。
残る守護者はヒバリが持つ雲のリングと、由良、くるみが持つ雪のリングだ。
ごくりと誰かが固唾を呑む中、明日の対戦は、とチェルベッロが口を開く。

「雪。」
「!」
「……………いやこっち見すぎだから。」

チェルベッロの告げた対戦カードに、ツナ達は一斉に由良に視線を向ける。見られた由良は告げられた事よりも見られたことに驚き、嫌そうに向くなと言う。
皆が視線を戻す中、山本は1人握り拳を握り締め、戸惑いの表情を浮かべていた。
それでは明晩、お待ちしております、と言ってチェルベッロは去って行き、由良は千種、犬が置いていったクロームを自宅へ連れ帰った。


骸は、明日自分が戦うことを知っているのだろうか。
疑問に思いつつ、先程は聞けなかったことを聞いてみることにした。これが最期だろうから。

「なんでそんなこと聞くの。私が死んだってどうでもいいはずなのに。」
「っ…………以前も話したように、貴女を死なせるのは惜しいと、思っているから、ですが…」
「それだけ?」
「ええ…」

一瞬息を呑んだように見えた骸はまるで言い聞かせるように言い、対して由良は納得できなかった。しかし、由良の問いに答えた骸も分かっていないように見えて、それならば、問い詰めるのも野暮というものだろうと聞くのをやめた。代わりにふぅ、と短く息を吐き出し、骸を見る。

「同じだよ。変わらない。私は明日、川崎さんに譲る。例え、誰かが傷つこうと、それがなまえの幸せに繋がるなら、喜んでやってやる。」
「っ…………。」

由良の答えに、骸はぐしゃりと顔を歪め、そう、ですか、と呟いて、力なく笑うとそれと同時にさらさらと体が霧状に消えていった。驚く由良を余所に、力を使い過ぎました、と疲れたように言った骸はそのまま消えていなくなり、由良の心は、どこか悲しさや寂しさを覚えた。

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