リボーン複数主 | ナノ


▼ 標的68

昨夜、急にリング争奪戦のことについて話を聞く気になったヒバリは漸くディーノから説明を受けた。ヒバリと共に、くるみも改めて説明を受け、自身が勝った場合にもしヴァリアー側が勝利すればそちら側に行くことも説明された。自身が勝つことはまずないだろうと考えているくるみは、動揺することなくそうですか、と返すだけだった。
説明が終わるとヒバリは昨日の鬱憤を晴らすようにディーノと激しくやり合い、くるみも2人についていくのに精一杯だったがなんとか喰らいついた。そうしているうちに、気づけば日はどっぷりと暮れ、辺りは暗くなった。

「じゃ、今日はここまでにしとくか。」
「ヤダよ。」
「恭弥くん!」

暫くして、ディーノが終わりを告げるもヒバリは聞かずにトンファーを振り下ろす。慌ててくるみが銃で受け止めるが、ヒバリの力が強くなったせいか押されている。ヒバリの様子にディーノも焦ったように待てって!と声をかけて鞭を振るい、ヒバリからトンファーを取り上げる。

「今日は雨の守護者戦。山本とスクアーロの戦いだ。昨日負けるなって言ったんだから、見に行って損はないだろ?」
「………………。」

ディーノの言葉にむすりとした顔でトンファーをしまったヒバリは無言で並盛中に向かう。そんなヒバリを慌てて追いかけるくるみに、ディーノが声をかけ、リボーンからの伝言を伝えた。


先に行くヒバリを追う事を諦めたくるみはディーノと共にバトル会場である並盛中に足を踏み入れた。昨日はヒバリを止めることに必死で気づかなかったが、深夜の学校はどこか不気味な雰囲気を醸し出していて、居るはずがないのに居たりする人達が居るような心地がしてなんだかワクワクしてきてしまう。しかしすぐに今日ここで何が起こるのか思い出し、浮かれた気持ちを他所へやるように首を振る。
ダメダメ、集中しなきゃ!
まるで考えることを放棄するように周りに目を向けていたくるみは気を引き締めて、目の前のリング戦に意識を向けた。

「今日のバトルはどこでやるんだ?」
「えーっと…あ!あっちに明かりが点いてますよ!」
「お、じゃああっちだな。」

ツナ達よりも少し遅く到着した為か、チェルベッロも誰もおらず、どうしようか考えていたディーノに、場所を把握していたくるみが誘導するように校舎B棟を指差した。B棟に近づくと、入口付近に了平の姿を捉え、ツナ達がいることが確認できた。
近づくにつれ、ツナ達の会話も聞こえてくる。どうやら今日の戦いにはヴァリアーのボス、XANXUSも来ているらしく、場は騒然としていた。

「負け犬はかっ消す。てめーらか、このカスをな。」
「なっ…」

XANXUSは消す対象に入れた味方のスクアーロの呼び止める声に耳を貸すことなく、スタスタと歩いていく。そのXANXUSの態度に本気だと静かにリボーンが言えば、聞いていたツナはゴクリと唾を飲み込んだ。

「あんまり勝負前に驚かすなって、リボーン。」
「ディーノさん!」
「みんな昨日ぶり!」
「くるみ!」

ディーノの後ろからひょこりと顔を出してにこやかに声をかけるくるみに気づいた山本が駆け寄る。その手には昨日までなかった竹刀が握られていた。そんな山本に、勝負を見させてもらうとディーノが声をかけ、それに軽く答える山本はひどく落ち着いている。

「くるみも来てくれたんだな。」
「うん!由良ちゃんが来ないから、近くで応援していいってリボーンくんから言われたから。頼りないかもしれないけど、頑張って応援するね!」
「おう!頼りにしてるぜ!」
「う、うん!」

山本から言われて嬉しくなったくるみは頬を紅潮させながら頷いた。
ディーノから、由良がくるみを気遣って今日の戦いは見に来ないとリボーンに伝えた伝言を聞かされ、くるみは心置きなく山本の応援に来られたのだ。
今日勝てなければ、くるみはヴァリアーの守護者となってしまう。昨日聞いた時から、山本の頭にはその言葉が度々過ぎっていた。不安で心配という訳ではなく、ただその言葉が過ぎる度、無性に腹立たしくて仕方がなかった。くるみの近くにいるのは、自分がいい。そんな独占欲とも言える感情が山本の心を支配し、勝負が近づくにつれ、大きくなって行った。
しかし、それもくるみ本人を前にすると、途端に霧散し、心が穏やかに、すっと軽くなった。くるみは自分が頼りないと言っていたが、山本にとって、一番自身の力に結びつくのはくるみだと感じ、彼女を愛おしいと想う気持ちも強くなった。

「よーし!そうと決まれば、円陣にヒバリも入れるぞ!奴はどこだ!?」

山本とくるみが話している間、ディーノがヒバリも来ていると伝えたらしく、了平が意気揚々とヒバリを円陣に入れようと息巻いた。当然それは周りから止められ、くるみも機嫌が悪くなっちゃうから、と止めておいた。
特例は許さないと怒る了平を宥めたツナは、その代わりと言ってはなんだが、今日までツナ達のサポートをしていたバジルを入れることを提案した。皆それに賛同し、昨日同様ランボのシッポも持って、円陣に加わる。

「ほら、くるみも入れよ!」
「えっ!?」
「早くしろよ時間ねーだろーが。」
「川崎さんも同じ仲間だし、やろうよ。」
「特例は許さんぞ!」

酷く曖昧な立ち位置にいるくるみは、加わってもいいのか不安だった。しかしそれも杞憂だったようで、皆自分の入る場所を空けておいてくれていた。それに嬉しくなって、笑顔で入っていく。

「山本ファイッ!」
『オーッ!!!』

円陣を終え、山本はフィールドとなる校舎内に残り、くるみ達は外に設けられた観覧席へとそれぞれ別れた。
今回のフィールドは校舎内をほぼ壊して作られたアクアリオンというもので、屋上のタンクから流れる水が1階から徐々に貯まっていき、勝負が続く限り水位が上がっていく仕組みとなっている。更に水は特殊な装置で海水と同じ成分に変わり、特定の水位に達した場合獰猛な海洋生物が放たれることになっているらしい。
その為、観覧席が外に設置され、室内の様子は壁面のモニターに映されることとなった。

「武くん…」

くるみが不安そうにモニターを見つめる中、雨の守護者線が始まった。


ああ、自分はどうして、見ているだけしか出来ないのだろうか。
くるみは観覧席でモニターに映る山本を、悲しげな表情で見つめていた。

山本とスクアーロの戦いは、激しいものだった。スクアーロの型破りな力任せのようでいて繊細な剣捌きは山本を追い詰めるのに充分で、しかし山本も父親から継承した時雨蒼燕流を使って応戦した。途中、スクアーロが時雨蒼燕流を潰したと言い、実際山本の技を見切ってしまい、窮地に立たされる場面もあったが、山本が時雨蒼燕流の継承の形を理解し、新たな型を生み出して勝利を収めた。

「規定水深に達した為、獰猛な海洋生物が放たれました。」

しかし喜ぶのも束の間、勝負の時間が長引いたせいか、事前に説明されていた獰猛な海洋生物がアクアリオンに放たれてしまい、勝者の山本は助けるが、敗者となったスクアーロの命は保証しないと告げられた。勿論それに納得出来る山本ではなく、怪我でフラついている体に鞭打って、スクアーロを抱え、アクアリオンを脱出しようと試みた。だが、思ったよりも怪我が酷く、うまく動けない。

「おろせ。」

そんな山本に、スクアーロは静かに声をかける。剣士としての俺の誇りを汚すなと言ったスクアーロにでも、と反論しようとする山本をスクアーロは蹴飛ばし、そのまま海洋生物に喰われてしまった。
蹴飛ばされたまま座り込んで悔しげに言葉を零す山本に、居てもたってもいられなくなったくるみは走り出す。そんな中告げられた明日の対戦は、霧の守護者と決まった。


アクアリオンの屋上、タンクがある場所とは別の所にアクアリオンと通ずる扉があった。鍵がかけられているその扉を持っていた銃で壊し、扉の向こうに人の気配がないことを確認して蹴り飛ばす。

「武くんっ…」

足場として残されている天井や床に飛び降りて山本の姿を探すくるみ。その顔は悔しそうで、悲しそうで、苦しそうに歪められていた。
それらを全て振り払うように首を振って、山本を探す。

「!武くんっ!」
「!くるみ!?」

漸く見つけた山本はチェルベッロが連れていくところだったようで、急いで山本達のいる所へ降り立ち、私がやりますとチェルベッロを睨みつけた。チェルベッロはどうぞと静かに言って、その場を去った。

「くるみ…」
「武くん。」

手当て、しよう?
山本に肩を貸した状態で、いつも通りの笑顔を見せるつもりで、くるみは言った。


何、してるんだろう、私。こんなことしたって、何も変わらないのに。
屋上に出てすぐ、持ってきていた救急箱にあるものを使って山本の手当てをしていくくるみは、自分の無力さを痛感しながら、無言で手を動かしていた。
くるみは、未来をある程度知っている。だから、スクアーロがどうなるのかも、本当は知っていた。それでも、山本に言うことは出来なかった。これはきっと山本のためだと思っていたし、何より、言って未来が変わることが怖かった。だから言わなかった。しかし、それはくるみの個人的な理由であって、正当化されるものではない。くるみが言わなかったことで山本は傷つき、後悔し、苦しんだ。
そんな山本を見て、居てもたってもいられなくなったくるみだが、できることと言えば今こうして手当てをする事くらいで、知っていたから、知っているから大丈夫と声をかけることなど出来なかった。本当に、嫌になる。こんな事しか出来ない自分を、益々嫌いになった。

「くるみ。」

沈黙が続いていた中、山本がとても穏やかな声で呼びかけた。名前を呼ばれたくるみは動かしていた手を止め、山本を見る。くるみと目が合った山本は困ったように笑った。

「ごめんな。」
「っ………。」

その表情と、言葉に、くるみは喉元からせり上がってくるものをグッと唇を噛むことで堪え、そのままフルフルと頭を横に振った。山本はそんなくるみの頭に手を置いて、撫でた。

「ありがとな。」

くるみはもう一度頭を横に振って、無言で手当てを再開した。
謝るのは、私の方なのに。
そう思っても、くるみの口は固く閉ざされ、開くことはなかった。いや、出来なかった。
ごめんなさい。謝らせて、苦しませて、悲しませて。でも大丈夫なんだよ。そんなに苦しまなくていいんだよ。
何度も頭の中で繰り返して言葉にするも、それは決して言ってはいけない言葉で、もどかしく思ったくるみは、何も出来ない自分を恨めしく感じた。

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