リボーン複数主 | ナノ


▼ 標的65

いつもなら幼なじみが座るその場所に、今は屋上で楽しく戦っていていないからと座って今日までに溜まった書類を片付けているのはくるみだ。ついてきた風紀副委員長の草壁は今、職員室に書類を届けに席を外している。
ペラリペラリと規則的に響く紙をめくる音をBGMに、くるみはつい先程のことを思い出す。

「その顔、つまらないな。」

バッサリと言い切ったヒバリに、手当をしていたくるみは救急箱を思いきり投げつけ(全て避けられた)、恭弥くんのバーカ!と叫び屋上を飛び出した。飛び出したところで教室に行けばリボーンに会うなと言われた由良がいるだろうと考え、くるみは仕方なく応接室に足を向けた。応接室に着いたはいいが、待ち受けているのは溜まりに溜まった書類たち。それらを草壁と共に捌き出して小一時間が経過していた現在、くるみは書類を確認しつつ、どこかぼんやりとしていた。
この感覚は、前も感じたことのあるものだ。どこでだっけ、何時だっけ。

「ああ。」

余命を伝えられた時だ。
前世、くるみは大きな病気を抱えていた。不治の病とされるそれは、もしかしたらこの世界ならば治ったかもしれないが、くるみがいた世界では治療法が確立されておらず、似たような病気の薬を使ってなんとか生きながらえていた状態だった。しかし、当時のくるみは今と同じような歳で、さらに言えば今と違って病気によって体力は落ち、自分で起き上がる力もなかった。
そんな状態の彼女に、担当医は苦しげな表情で言った。「君の身体は、持って1年と満たないだろう」と。聞いた時、くるみの両親は悲しんだ。どうにか出来ないかと医師に縋っていたが、医師はないと、何かを堪えるように告げるだけだった。
対するくるみは、両親を悲しませる弱い自分を憎むと共に、どこか心がすっと軽くなるような安心感を感じていた。自分が死ねば、両親がこれ以上悲しまなくて済む、お医者さんや両親に迷惑をかけなくて済む。そう思ったからだろう。あの時のくるみは、きっと腹を括っていたのだ。そしてそれは今も同じで、今のくるみは、昨日事情を聞いたディーノがこちらを悲しげに、苦しげに見つめることに申し訳ないな、そんな顔をさせる自分が情けないな、と感じていた。しかしそれと同時に、由良ならなまえを守りきることが出来るから大丈夫、自分よりもずっと気にかけられていたのだから大丈夫、2人の間に入ってしまった自分がようやくいなくなるのだからきっと安心できるだろうな、そんな思いもあった。

「少しくらい、なまえちゃんの役に立てたらいいな…」

去年会ったばかりだけど、なまえにはたくさん助けられた。それに対して、自分は何も返せていない。寧ろなまえを振り回してばかりだった気がする。暴走しがちなくるみを宥めるのは何時だって由良で、なまえはそんな由良に絶対の信頼を置いていた。そんな2人の間に入っていったのは、何も出来ない自分。

「なまえちゃん、喜んでくれるといいな…」

思い返すのはなまえの可愛らしい笑顔。くるみちゃん!と元気よく呼ぶ声は、くるみの沈んだ気分を上昇させるのに効果覿面で、想像するだけでも自然と笑みが零れる。ふふ、と笑っていると、コンコンと扉が叩かれる音がした。草壁が戻ってきたのだろうか。そう思ったくるみは間の抜けた声でどーぞーと声をかける。

「くるみ?」
「!た、武くん!?」

声に反応してガラリと開けて入ってきたのはまさかの山本で、驚いたくるみは先程自分が出した気の抜けた声を思い出し赤面する。そんなくるみに気づいているのかいないのか、山本は今いいか?と軽く聞いてくる。

「ぜ、全然大丈夫!あ!ソファー使って!机はちょっと散らかってるんだけど、ソファーは無事なはずだから!」

焦りながら、しかしちゃんともてなす為に机の上にあった書類を乱雑に集め端にどかし、ソファーを手で払って座るよう促した。山本はサンキューと一言言ってソファーに座った。
山本が座ったことを確認したくるみは思い出したように何か飲むか問うが、山本は首を振って、代わりに持ってきたと両手に校舎に設置されている自動販売機で売られている飲み物を持って見せてきた。それをくるみに渡した山本は、隣をポンポンと叩いてちょっと座って話さね?と軽く言ってきた。距離が近いことに戸惑ったくるみだが、断る理由も何もないので、赤い顔のまま失礼します、と小さく言って少し間を空けたところに座った。

「聞いたぜ、昨日。リングのこと。」
「…………そっかっ…」

受け取った飲み物を開封して、口をつけた時、山本が徐に話し出した。一瞬目を見開いたくるみだが、それもそうかと思い直して山本を盗み見る。
山本は何かを考え込んでいる様子で、手に持っている飲み物を見ていた。声をかけるよりも早く、山本は少し緊張した面持ちでくるみに目を向けて言った。

「どうするつもりなんだ?」

その問いかけに、くるみは目を見開き、静かに山本に向けていた体を向かいのソファーに向け、俯いた。その顔は、困ったように笑っていて、くるみは力なくどうしよっかな、と呟いた。今度は山本が目を見張る番だった。いつも見る彼女とはあまりにもかけ離れていて、あまりにも弱々しい姿に、言葉を失った。しかしすぐにハッとして、真剣な表情で声をかける。

「話してみてくんねーか。くるみが思ってること。」
「でも…」
「俺じゃ頼りねーかもしんねーけどさ。」

以前の病院の時のように話そうとしない素振りを見せるくるみに、少し明るめの声で言って遮った。そのままコトリと持っていた飲み物を置いて、俯いたくるみの視界に入るようにくるみの前でしゃがみ込んだ。

「話したら、楽になるかもしんないだろ?」
「………………!」

ニカリと、山本らしい爽やかな笑みを浮かべて言えば、くるみは零れ落ちるのではというくらい目を大きく見開いて、やがてぐしゃりと顔を歪めた。
無言のまま、言おうかどうか迷うように口を開いては閉じ、を暫く繰り返したくるみはやがて震える口を開いて、ぽつりぽつりと話し出した。

「よく、分からないの。実感が湧かないって言えばいいのかな。由良ちゃんと殺し合うかもしれないって言われても、今日も遠くから登校してくる由良ちゃんを見たけどなんとも思わなかったし、何かしようともしなかった。でも…」

1度言葉を切ってグッと唇を噛む。

「由良ちゃんを、殺したくなんかない。由良ちゃんを傷つけたくない。傷ついた由良ちゃんを見たなまえちゃんが、悲しむ姿は、もう見たくない…!」

泣きそうな顔で言うくるみは、膝の上に置いた拳を震えるほど握りしめていて、その想いがどれ程のものか伝わってくる。真正面から見ていた山本にもそれは充分伝わっていて、少し切ない気持ちを抱えながら、そっか、と呟いて、話してくれてありがとなとくるみの頭を撫でた。
暫くそうしていた山本は、くるみが落ち着いた頃を見計らってまた隣に座った。

「何にも分かんないけどさ、なんとかなんじゃねーかな。」
「え…」

山本の変わりない明るい声に、くるみは戸惑い、山本を見る。山本はくるみを見てニカッと笑い、言った。

「くるみは1人じゃないんだからさ、みんなで考えればなんとかなると思うんだ!俺も、頭使うのは苦手だけど少しくらいなら役に立つと思うし、獄寺も神崎も頭良いからいたら百人力だぜ?」

な!だから大丈夫!とカラリと話す山本に、くるみの凝り固まった考えが解れていくような感覚がした。
そうか。なんとかなるのか。
心がすっと軽くなったような心地がして、安心したくるみはそうだね、と微笑んだ。

「武くん、ありがとう。」
「ん!どーいたしまして!」

くるみの穏やかな笑みに見惚れていた山本だが、すぐに返して、そうだ!と思いついたように声をあげる。

「この戦いが終わったらさ、くるみに話したいことがあんだけど、聞いてくんねーか?」
「?もちろん!約束したもんね!」

少し緊張した面持ちで話す山本を不思議に思いながら、しかし話の内容が何かは思いつかなかったくるみは笑顔で答えた。

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