リボーン複数主 | ナノ


▼ 標的64

校舎同士を繋ぐヒバリがよくいる本来の屋上よりも低い位置にある屋上に近い場所の柵にもたれかかって空を見上げているのは、異様に早く来てしまって暇を持て余した由良だった。その左手首には校則違反と言われてもおかしくないスマートウォッチに似た、しかしその性能は非常に危険なリストバンドが嵌められており、由良が手を動かす度に少し位置が変わる。

「どうしよっかなぁ〜…」

溜め息と共に吐き出した言葉は、夏よりも高く感じる秋の青空に吸い込まれていく。
リボーンからリングの説明を受けた時から覚悟はしていたつもりだったからか、それともまだ実感が湧かないからか、比較的心は穏やかで、偶に空を飛ぶ飛行機を眺めたり、流れる雲をぼんやりと見ていた。どうしようも何も、相手を聞いた時から既に決めていた。自分がどうすべきなのか。どうしたいのか。

「呆気ない人生だったなぁ…」

前世で生きた年齢の半分くらいしか生きていないけど、あの時よりも悔いはない。
あの時は、何も分からなかった。自分の体の動かし方、相手の力量の測り方、何もかも。でも、今は違う。何年もかけて鍛えてきた自分の体の使い方は自分が一番よく分かる、大会や先生の指導で相手の動きをよく見ることで相手がどれ程の強さか分かるようになった。だからこそ、自分よりもずっと強い存在に気づいた。

「川崎さんなら…」

自分と同じようになまえを大切にしていて、自分よりも頼りにされている子。怖くて途中まで怖気付いて役に立てなかった私と違って、なまえを守る為に1人で敵に立ち向かい、勝利した子。私よりも何倍も何百倍も秀でた能力を持っている、優れた人。
彼女なら、私がいなくなっても、きっとナマエを守ってくれるだろうし、あの子の支えになってくれるはずだ。
くるりと向きを変えて、前に屈むように柵に肘をかけてふぅ、と何度目になるか分からない溜め息を吐いた。

「由良!」
「!ツナ、笹川先輩も…」
「おお、神崎もいたのか!」

そんな折、ツナと了平が揃ってやってきた。何か話そうとしているようだったので席を外そうとすれば、そのままでいいと言われたのでまた戻る。珍しい組み合わせにどうしたのか問えば、色々あってと返された。

「ちょうどいい!神崎にも頼みがあるんだ。」
「頼み…?」

了平の言葉に首を傾げた由良は隣に並んだ2人に目を向けた。ツナと由良に、了平は自分の額に出来た傷を指して話し出した。2人が小学生だった頃、近所に了平を敵対視する中学生がいたらしく、京子を使って呼び出した。しかしそれは罠で、幼い了平を待ち受けていたのは何人もの不良達だった。いくら了平でも数には敵わず、袋叩きにあい、頭を割られ重傷となってしまったらしい。額の傷はその時にできたものらしく、京子はそれ以来自分のせいだと責任を感じ、了平が喧嘩をすることに酷く敏感になってしまったようだった。

「だから神崎も京子には話さないようにしてほしい。」
「分かりました。」

真剣に話す了平に頷いた由良に安心したからか、途端いつもの調子に戻り京子に黙っていてもなんら問題はない!と豪語した。驚くツナ、由良に了平は自信ありげに笑い、言った。

「俺は勝つからな。まかせとけ!」
「お兄さん…」

了平の言葉に根拠などないが、由良もツナも不思議とそんな気がして、安心したように微笑んだ。

「それじゃあ私、先に行くね。」
「由良!」

了平の言葉に安心し、しかしどこか苦しくなった由良は1人になりたくてその場を離れようとした。しかしそれをツナが呼び止める。振り返れば、なにか言いたそうにしているツナがいた。どうしたのかと待てば、由良は、と口を開いた。

「由良は、どうするの…」
「……………」

その問いかけに、静かに目を見張る。どうするの、なんて、そんなの決まってる。でも、それをここで言うことは出来ない。
グッと唇を噛み、震える息を吐き出した。

「さあ?」
「っ…さあって…!」

とぼける素振りを見せる由良を咎めるように語気を荒くするツナに、事実しか言ってないよと返す。

「私と川崎さんじゃ、実力差なんて分かりきってる。普通に戦えば私は負ける。でも川崎さんは私を殺したりはしない。かといって、私が川崎さんを殺せるかと言われれば殺せない。」
「っ……」
「ごめんツナ。私はツナ達の事まで考えられない。私は…」

なまえが悲しまない方を選ぶ。
由良の言葉に驚いて何も言えなくなったツナ、了平を残して、今度こそ由良は校内に入った。


歩いて暫くして、由良は昨日の骸との会話を思い出していた。
チェルベッロから対戦相手を知らされたこと、リストバンドについて説明を受けたこと、リボーンから粗方聞いていたからあまり動揺はしていないこと。精神世界で会った時、黒曜の様子を伝えるついでに話せば一瞬驚いた後、どうするのか聞かれた。

「川崎さんに譲る。」
「そんな事をすれば貴女も彼女も死ぬのでは?」
「だから一緒に方法考えてよ。無理ならいいけど。最悪川崎さんの腕斬り落としてやろうと思ってたから。」
「いきなり物騒になるのやめてくれますか。」

骸は言って、呆れたように溜め息を吐きつつ顔を逸らした。湖の先の方を見ているような骸は何故か苦しげで、眉間に皺を寄せながら僕は、と話す。

「貴女を死なせるのは惜しいと思っています。」
「………………。」
「やりたいことを、見つけるのではなかったのですか?」

静かに、ゆっくりと目を見開いた。骸の表情がまるで懇願しているような、駄々をこねる子どものような、悲しそうな顔をしていたのだから。

「(やりたいこと…)」

黙り込んだ由良は舌の上で同じ言葉を転がした。脳裏によぎるのは、暖かい陽だまりのような笑顔でこちらに笑いかけるなまえの姿。そのなまえが傷つき、悲しむ姿が一瞬浮かび、ハッとしてギュッと両の拳を握り締める。

「私は、なまえが大切なの。あの子には絶対泣いてほしくない。笑っていてほしい。だから、あの子が悲しまない選択をしたい。」

それが、私のやりたいことだよ。
意思の強い眼差しで、真っ直ぐと骸を見て微笑んだ由良に骸は唇を噛み、そうですか、と絞り出すように答えた。

「もう、ここには来ません。千種達の様子も見に行かなくて結構です。さようなら。」
「骸…っ!?」

一際大きな風が吹いて、気づけば骸はいなくなっていた。以降、何度呼びかけても骸は応じず、由良はほんの少し苛立った。


思い出したら腹立ってきた。
余計なことまで思い出したせいか、苛立ちが蘇り、自然と歩くスピードも速くなる。その勢いのまま到着した久々の教室には、くるみはいなかった。

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