リボーン複数主 | ナノ


▼  標的63

家を出る前に、ここ数日の日課となっているトークアプリの画面を開く。どれだけ確認しても新しいメッセージは届いていない。落胆の溜め息を吐いたなまえは携帯をしまい、家を出た。
待ち合わせの時間に間に合うように行っても、いつもなら先に来ている友人らの姿は見当たらない。10分程待って、来る気配がないと分かると歩き出した。

「今、どの辺りなんだろう…」

前世で読んでいたから話の流れなどを知っているとは言っても、全て事細かに覚えている訳では無い。生まれる直前は普通に歩いていたし、生まれ直してからは情報を得るための媒体は無く、文字が書けるようになるまででもだいぶ忘れてしまっていた。ノートにでもまとめておこうとまとめたはいいものの、既に朧気な記憶で書いたものばかりで、この日に何があって、というのは黒曜編の始まり、リング編の始まりくらいで、それ以外は何があるということしか思い出せなかった。それでも、10日よりもだいぶ早いはずだから、と必死に計算して考えた。

「ぁ…」

暫く歩いていると、ここ最近見ていなかったツナ、獄寺、山本の姿が見えた。その近くに目当ての友人らの姿は見えなかったが、何かしら知っているだろうと思いパタパタと小走りで近づいた。

「ヒバリもいなかったよな。アイツと手合わせしてーんだけど…」
「アイツはきっと寝てるぜ、応接室で。」
「ディーノさんと修業してるハズだけど…」
「みんなっ!お、おはよう!」
『!』

少し緊張して声をかけると、ツナ達は一斉に振り返った。あまりの勢いになまえは驚き、どうかした?と戸惑う。慌ててなんでもない!と返して口々におはようと言うツナ達は、昨夜のリボーンの言葉を思い返していた。

「雪のリングがどう作用するか分からねーからな。2人には互いに会わないように言っとくし、なまえにも会わせない。一番危険だからな。だからお前らも絶対になまえには話すなよ。分かったな。」

リボーンの言葉から連想して思い出すのは、黒曜から帰ってきた由良を心配するなまえの姿だった。ツナ達は全員、なまえが由良を気にしてどんどん弱っていく様を知っていた。くるみが時々気分転換と称して、なまえをツナ達の病室に連れてきていたからだ。最初見た時よりも疲弊していくなまえに胸を痛めた記憶はまだ新しい。

「みんな久しぶりだね。風邪で休んでるって聞いてたけど大丈夫なの?インフルエンザとかだった?」
「あ、うん。全然大丈夫!」

誤魔化すように答えるツナに、そうなんだ!とニコリと笑ったなまえはそれじゃあ先に行くねとツナ達を追い越し、学校に向かう。そんななまえになんと言おうか迷ったツナは咄嗟に2人はっ…と声をかける。

「2人とも、今忙しいみたい。一緒に行けるってなったら必ず連絡くれるか、待ち合わせ場所で先に待っててくれるの。だから、それまで私も待ってみようと思って…」

だからよく知らないの、ごめんね。
振り返って困ったように笑いながら答えたなまえに、全員言葉を詰まらせた。今度こそ行くね、と声をかけ、なまえは振り返ることなく歩き出した。

「何、してんだろう、私…」

ツナ達と別れてすぐにスタスタと小走りに近い早歩きで歩いていた足も、段々スピードが緩まり、遂にピタリと止まり、その場に立ち止まったなまえはぼんやりと呟いた。思い返すのは自分の声に過剰に反応を返したツナ達の姿。その様子を目にしたなまえは、まるで冷水を浴びせられたような感覚に陥り、ハッと我に返った。
自分は、何を聞こうとしたのだろうか。
あの場にツナ、獄寺、山本がいたということは、きっと今日からリング争奪戦が始まるのだろう。

「それを知ってるのは、私だけ…」

しかし、皆から見るなまえはそんな事は知らない、ただのほほんと生きている一般人だ。そんな人間が、ピンポイントにリングの話だったり関係している友人らの変化について聞くのは異常だ。ましてや、由良やくるみに関しては自分の方が詳しいだろうに。
リボーンがヴァリアーの強襲を受けたとツナが話そうとしたのを無理矢理にでも遮ったのを思い出すと、これは自分が知るべき内容ではないということだ。ツナ達が言いにくそうにしていた様子も思い返し、きっとリボーンから言うなと言われているのだろうと推測する。
それでもツナ達はきっと、私がしつこく聞けば必死に誤魔化したり、もしくは話そうとしたりする。それを受けて、私は今まで通りに振る舞うことが出来るのかと聞かれれば、出来ないとしか答えられない。私は嘘をついたりするのが苦手だから。

「知らない方がいい事もあるって、こういうことを言ってるのかな…」

知ってしまえば、知らないフリなんて出来ないから。ならば、最初から何も知らなければフリも何もない。知らないことが真実なのだから。
どんなに気になっても、誰にも聞かないようにしよう。2人が望むのは、いつも通りの自分。

「大丈夫。2人なら絶対負けない。」

ヴァリアー相手に負けたりなんかしないんだから。
心の中で自分に言い聞かせるように何度も言って、再び歩き出したなまえは知らないから信じることが出来た。大丈夫だと思うことが出来た。
これから己の1番大事な友人らが悲しい戦いをしなければならないことを、なまえは知らなかったから、彼女は正気を保つことが出来た。

後に彼女は大きな選択に迫られることになることも、この時は全く知らなかった。

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