リボーン複数主 | ナノ


▼ 標的62

ディーノが来てから数日経とうとしていた。途中本気を出さないディーノにキレたヒバリがリングを捨てると言い、それに対して交換条件だと本気の勝負で勝てばリングの話を聞くということでこれまで少し休憩は挟むものの、2人はずっと戦っていた。
くるみはその2人の動きを決して逃さないように見続けた。というのも、ディーノから言われていたのだ。くるみは体を動かして鍛えるのではなく、見て鍛えるのだと。ディーノの意図はよく分からなかったが、しかしヒバリと共に自身の家庭教師となったディーノの言う事ならばと、ずっとその通りに見てきた。元々動体視力はいい方だが、この5日で随分発達したのか最初の頃より2人の動きをより正確に見ることが出来ていた。

「……………。」

しかし、くるみの表情は晴れず、グッと何かを堪えるように唇を噛み、拳を握りしめる。
何も出来ていない。
くるみの頭の中はその言葉でいっぱいだった。なまえから由良が自分と同じようにリングを与えられたと知り、リボーンから修業をつけてもらっているだろうと思うとそれだけで焦ってしまいそうになる。しかし自分にもディーノという素晴らしい家庭教師がついているのだから、少しは追いつけるかもしれないと思っていたのに、蓋を開けてみればただ見ているだけ。
同じような境遇にいるはずの由良が成長しているのに、自分は立ち止まっているというこの状況はくるみが焦るのに充分だった。

「一旦休憩にしようぜ。」

ディーノの言葉で思考の海にいたくるみはハッとなり、近くにあった救急箱を持ってヒバリの元に駆け寄る。ディーノはロマーリオが手当をすると知っているからだ。無言で手当を受けるヒバリを、どこか羨ましく思う。それが表れていたのか、ヒバリがジロリと睨みをきかせながら何、と聞いてきた。

「私も強くなりたい。」
「跳ね馬に言いなよ。第一、なんで跳ね馬の言うこと聞いてるのさ。」
「それは…」

言いかけて、口を噤んだ。分かっているのだ。くるみの今の実力では、2人の間に入ることなど到底出来ないということを。目では追えるようになったと言っても、入ったところで本気のヒバリやディーノの攻撃を避けたり防いだりできる自信などない。ディーノもそれを分かっているから、見せているのだろう。
そう思うと、気分が沈んでいく。

「くるみ。」
「ディーノさん。」

と、ロマーリオから手当を受けていたディーノが近づいてきた。ヒバリは手当が終わるとさっさと1人でどこかへ行ってしまった。
どうかしたのか聞くと、ディーノは少し緊張した面持ちで聞いてくる。

「なまえはリングを持っていたか?」
「なまえちゃん、ですか…?」

くるみの問いにああ、と硬い表情のまま頷いたディーノを見て、くるみは首を傾げる。何故なまえがここで出てくるのだろうか。しかし聞いたところで答えてくれるような雰囲気ではないので、正直に持っていなかったしそんな話も聞いていないと答えると、驚いた様子でそうか、と返ってきた。
そんなディーノにどうかしたのか聞こうとしたが、機嫌を悪くしたようなヒバリが始めようよと言ってきた為聞けずに終わってしまった。


バトルを再開したディーノとヒバリを見る前に救急箱の中身を確認すると、包帯があと少しでなくなりそうだった。保健室で借りてくるついでに、気分転換でもしてこようと、いつも一緒に見ているロマーリオに一言言って屋上を出た。
保健室に向かう道すがら、そういえばシャマルも修業で不在だったと思い出し、鍵を貰わないとと考えていた時だった。

「川崎くるみさんですね。」
「!」

先程まで誰もいなかったはずの廊下に、褐色肌に薄いピンク色の長い髪の女性2人組が現れた。こちらが一方的に知っている2人組が突然現れたこともそうだが、彼女らが自分の名前を知っていたことにも驚いた。物語を通して彼女たちは公平ゆえこちらの味方ではないことも知っていたくるみは警戒しつつ、貴女たちは、と問う。

「我々は、ボンゴレ9代目直属チェルベッロ機関です。明日から行われるリング争奪戦に関して、説明に参りました。ですがその前に…」
「!」

言葉を切って何かを投げたチェルベッロの動きに反応したくるみだが、カチャリという音と何かに締め付けられるような圧迫感が左手首から感じる。見れば、白いスマートウォッチに似た物が嵌められていた。取ろうとしてもビクともせず、チェルベッロを睨む。

「貴女には、リング争奪戦が終わるまで、そちらのリストバンドを装着していただきます。」
「………………。」
「では、説明します。」

涼しい顔をして言ってのけるチェルベッロは、戸惑い警戒するくるみを他所に、説明を始めた。


同時刻、ツナは敵に渡ったリングが偽物だとバレたことで日本に奪いに来たとされるボンゴレの独立暗殺部隊、ヴァリアーの面々と対峙していた。ボスであるXANXUSが修業をして強くなった獄寺、山本、了平が身動きを取れなくなる程の殺気を放ち、殺そうとしたところをボンゴレ門外顧問であるツナの父、家光が止め、そこから9代目の勅命としてリング争奪戦が行われることを告げる。そんな彼らの元に、くるみの所にも現れたチェルベッロがやってきて、リング争奪戦はそれぞれの候補が命を賭けて、深夜の並盛中で行うことを説明する。それだけでも驚きの連続で戸惑っていたツナたちだが、次に説明された内容に更に驚くこととなる。

「なお、このリング争奪戦に併せて動き出した雪のリングが候補者を選んだことも、我々は把握しております。」
「よって、雪の守護者も同様に候補者同士命を賭けて勝負していただくこととなりました。」
「雪のリング…!?」

聞き覚えのない単語にツナは驚き、リボーンを問い詰めるように見るが、チェルベッロはそれを無視して説明を続ける。

「雪の守護者はリングによって選ばれた2名が戦い、どちらか一方の勝者が守護者となることが義務づけられています。」
「今回、リングが選んだ候補者2名は、沢田綱吉氏側より…」
「神崎由良氏。」
「川崎くるみ氏となりました。両名には特殊なリストバンドをつけて頂き、バトル当日どちらか一方でも会場に来なければその時点で両者失格となり、リストバンドから猛毒が注入され、絶命します。また、自らリングを捨てるなどの行為で自分から辞退した場合も、同様の措置を取らせていただきます。」

それを聞いたツナ達は絶句した。チェルベッロがでは明晩11時に並盛中でお待ちしておりますと言って去っていっても、ヴァリアーがいなくなっても、誰一人として動けなかった。

「リボーン!どういうことだよ!」

暫くして、ようやく動いたツナは怒鳴る勢いでリボーンに問い詰める。迫られたリボーンはボルサリーノの鍔を下に下げ、苦々しく言った。

「ボンゴレリングの中で、唯一ボスとリングの保持者しか触れないリングがある。それが雪のリングだ。ボスや門外顧問が選出して候補を決める、お前達が持つリングと違い、雪のリングはリング自身が次の守護者に相応しい人間を選ぶんだ。だが、選ぶのは基本親しい間柄の人間ばかり。家族、友人、恋人、選ばれた候補者らは狂ったように殺し合いを始め、生き残った者が雪の守護者となるが、大体1年も経たずに死んじまうんだ。しかもリングが候補者を選ぶのは1代につき1回きりでな、2代目以降、まともに雪の守護者に在籍する奴はいなかった。リングが選んだ以上、選ばれた者同士の殺し合いは避けられねぇ。」

リボーンの説明を聞いたツナ達は信じられない思いでリボーンを見るが、リボーンはそれきり黙り込んだままだった。

「他に、方法はないのかよ…」
「ない。雪のリングは、ボンゴレのボスですら制御出来ねーからな。」
「っ…」

震える声で聞いたツナに、硬い声で答えたリボーンの姿がこれは本当なのだと言外に伝えてくる。
ツナは、震える拳をギュッと握り締め、ショックを隠しきれない表情で唇を噛み締め俯いた。

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