リボーン複数主 | ナノ


▼ 標的57

カキーン!と小気味良い音が響く。かろうじて目視できる小さな白いボールは空高く上がり、グラウンドとフェンスの際まで行った相手チームの外野手を軽々通り過ぎ、グラウンドよりも少し奥に設置されているフェンスにガシャンと当たってそのまま落下した。一瞬しんと静まり返った球場は次の瞬間わっ!と歓声に沸く。その歓声を一身に浴びながらグラウンドを駆けるのは英字で並盛と書かれたユニフォームを着た山本で、ランニングでもするかのように軽やかにホームベースを踏んだ。

「わぁー!!すごいね!」
「うん!流石武くん!」

歓声を上げていたのは観客席で応援していたツナたちも同様で、口々にすごいと山本を讃えていた。しかし大人しく見ていた獄寺はそうではないようで、山本ごときに相手チームは何をしているのかとおかしな方向に焦点を当てていた。どういうことかと疑問に思うよりも先に、獄寺は急に火をつけたダイナマイトを幾つか手にしてあろうことか相手チームに向かって叫んだ。

「テメーらしっかりやんねーと暴動起こすぞ!!」
「何しに来たのー!?」
「普通に山本応援しなよ獄寺。」

つっこむツナと、呆れたように注意する由良に味方するように了平が落ち着けタコヘッドと声をかける。続けてスポーツ観戦では他にやるべきことがあると言って、すぅ、と大きく息を吸った。

「野球などやめてボクシングやらんかー!!」
「それも間違いー!!」
「先輩それは横暴ですよ。」

ツナ、由良が指摘しているところに騒ぎを聞いたのかくるみが少し怒ったような顔でやってきた。

「もう!獄寺くんも笹川先輩も武くんのことちゃんと応援してください!野次入れないでっ!」

腰に手を当て、プリプリと怒る姿は大変可愛らしいが、獄寺も了平も反省しているようには見られなかった。もう!と怒るくるみにまあまあと由良やなまえが宥めに入る。
その間にビアンキが素顔のまま来たようで、獄寺が悲鳴を上げて倒れていた。そんな獄寺を介抱するためにツナが駆け寄ったところでバッと勢いよく振り返った。

「ツナ?」
「どーした?」
「あ………な、なんでもない!」

若干青い顔をしたツナに由良、リボーンが尋ねるが誤魔化され、そのままツナは獄寺の方に向かった。由良はそんなツナを心配して視線をやり、ここは自分がやるからと言おうと声をかけようとした。

「ツナ君。」
「あ!きょ、京子ちゃん…!」

が、先に京子に呼ばれ、顔を赤らめるツナを見て、諦めたように笑い、息を吐いた。

「1人は寂しそうだな。またいつでも相手になってやるぞ。」

由良と違い、振り返ったリボーンは何かに気づいたように見知らぬ少年の背中に声をかける。母親に何が食べたいか聞かれているにもかかわらず、騒がしいツナたちを見ていた少年は気づいたようで、今度はリボーンの方に目を向けて、また、いずれと答えた。その顔は、右側がヒビ割れたような筋が幾つも入っていて、子供らしからぬものだった。

「!」

ゾクリとした寒気を感じた由良も振り返り、少年の存在に気づいたが、少年が何がする訳でもないと分かると思い切り顔を顰め、息を吐いていた。


眠りに就いていたはずの由良は心地よく吹く風を感じて目を覚ました。
広がるのは以前も見た自然豊かな風景で、ここが自分の精神世界だと理解する。
久しぶりに訪れた場所に2回目にもかかわらず癒されるように感じ、大きく深呼吸をした。

「おや。」

癒されていた時間も束の間、またもや後ろから酷く聞き覚えのある声がかかる。恐る恐る振り返ればそこにいたのは以前と変わらずクフフ、と独特の笑い方をした骸がいて、げ、と顔を顰めた。

「もう会えないんじゃなかったの。」
「そのはずだったんですが、気づいたら僕もここにいましてね。」
「あっそ。」

嘘か本当か分からないことを笑いながら言う骸に素っ気なく返してそっぽを向いた。何故また会う羽目になったのかは分からないが、今度こそ無視しようという決意の表れだった。勿論そんな心づもりは骸に伝わるはずもなく、今回も骸は何かあったんですか、と話しかけてきた。

「この前の質問ゲームの続き?」
「いいえ、単純な興味です。」
「なら答えるつもりない。」

ジト目で伝えてもう一度そっぽを向いて木の根元に座った。由良に倣うように骸も少し距離を空けて座った。文句を言うこともしない由良をじっと見た骸はややあって口を開いた。

「沢田綱吉ですか。」
「!」

断言した骸にバッと振り返れば、骸は笑みを消し、以前も何度か見た無表情に近い言葉では言い表せない複雑な顔をしていた。そんな顔とは反対に、当たりですねと言った声はいつもと変わらず、そのアンバランスな状態に由良の方が戸惑った。
しかし由良自身分からなかった。何かあったのかと聞かれるほどいつもと違うようには思えなかったし、今日もいつもと変わらない、何も進展せず、何も変化せず、という日だったはずだ。それが顔に出ていたのだろうか、骸はまるで逸らすように目を閉じ、ひとつ溜息をついた。

「見たんですよ、今日。」
「もしかして、小学生くらいの男の子?」
「よく分かりましたね。」
「………………。」

涼し気な顔で答えた骸に無言で顔を顰める。気づいているだろう骸は、しかしまるで気づいていないとでもいうような素振りで由良の咎めるような視線から逃げるように体の向きを変えた。そんな骸の様子にはぁ、と溜め息をついて、独り言のように話し出す。

「ツナのあだ名知ってる?ダメツナっていうの。でも全然そんなことなくてさ。いつもどうしようって慌てるくせに、いざという時は自分を疎かにして友達を優先しちゃうの。アンタを相手に闘う時も、最初は怖いとか緊張するとか言ってたのに、結局は友達の為に闘った。」

そんなこと、言われずとも知っている。
出そうになったひねくれた言葉を呑み込んだ骸は静かに見つめ、続きを促した。

「初めは、この前言ったみたいに守りたいっていうだけだった。でも、自分のことよりも、私のこととか、友達のことを気にかける姿に自然と惹かれていった。だから、この前名前呼ばれた時、嬉しかったんだよね。」

まあ、叶うことはないだろうけど。
言って、目を伏せた由良が思い出すのは京子の姿だ。可愛らしい笑顔でツナに話しかける京子は、ツナと並んだらまるで小動物のような愛らしさを感じさせる。自分では到底届かない京子との距離に、何度も心が折れそうになって、その度に、何を期待してるんだ、と言い聞かせてきた。諦めさせてきた。
本当は、なまえに一番に言うつもりだったんだけどな。
困ったように笑って、骸を盗み見る。骸は口をへの字に曲げ、まるで拗ねたような顔をして目を逸らしていた。思わぬ表情に虚をつかれた。

「何かあったの?」
「言おうと思ってましたが、やめました。」
「あ、そ…」

これ以上聞いても答えないだろうと思って、戸惑いを隠せずに返せば、そろそろ時間ですね、と今度はそっぽを向かれながら言われる。確かに周りを見れば少し白んでいた。
前の時より随分早いな、と思ったが、前は2週間も一緒にいたのでこれが本来の時間の流れなのかもしれない。

「聞いてくれてありがとね。じゃあね。」
「ええ。また……!」

言いかけて、口を抑えた骸を不思議に思いながら、由良は目を覚ました。

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