リボーン複数主 | ナノ


▼ 標的56

セットしていたアラームがけたたましく鳴る音で目が覚める。寝惚けた状態でアラームを止め、むくりと起き上がり、ぐっと伸びをする。お陰でスッキリと目が覚め、カーテンを開けて朝日を浴びる。

「よしっ…」

呟いた自分の声が少し緊張を含んでいることに気づかないフリをして、顔を洗う為に部屋を出た。


準備に手間取ってギリギリの時間になってしまったが、なんとか間に合ったことに安堵し、家を出た。今日は学校は休みだが、向かう先は学校だ。

「おはようなまえちゃん!由良ちゃん!」
「くるみちゃんおはよう!」
「おはよう。」

幼なじみの手伝いも無いので無事に2人と待ち合わせることに成功したくるみは走っただけでなく、 別の要因でもドキドキと心臓が早く脈打っていた。
2人と並んで歩いたくるみは走ったことで乱れた髪を整えて、持ってきていた紙袋の中に目を向ける。見たところバランスを崩したようでは無さそうで、ホッと息をついた。

「くるみちゃん、それは何か聞いても大丈夫なやつ?」
「へっ!?」

そんなくるみの様子に目敏く気づいたなまえがニヤついている顔を隠さずに聞いてきた。もしかして、気づかれてる…!?なまえの表情にドキリとしたくるみは恥ずかしさで顔を赤くする。

「全くアンタは…川崎さん、言いたくなかったら言わなくていいからね。」
「えっ?あ、えっと…」

呆れたようになまえを咎める由良だが、なまえはめげることなく期待に満ちたキラキラした目でこちらを見てくる。くるみも、言いたくないというわけではなく、ただ恥ずかしいだけだったので、大丈夫だと思い、実はね、と話し出す。

「た、武くんに、お弁当作ってって頼まれて、作ってきたんだ…」

聞いた由良は驚いたように目を見開いてへぇ、と呟き、なまえは嬉しそうにそうなんだ!と言ってきた。
そんな2人をよそに、くるみは数日前の山本とのやり取りを思い出す。
いつものように、他愛のない話をしていたはずだったが、何かがきっかけで今度行われる山本がレギュラーに選ばれた野球大会の話になったのだ。

「その日は風紀委員の手伝いもないから、応援に行くね!いいかな?」
「ああ!すっげー嬉しい!」
「よかった!」

山本の気前良い返事に頬を上気させて笑ったくるみに、一瞬山本が見惚れる。それを誤魔化すように頬を掻いた山本はそうだ!と少し大きな声を出す。

「くるみがよければ、なんだけどさ…」
「うん?私ができることならなんでもいいよ!」
「じゃあさ、弁当、作ってきてくんねぇか?」

山本の思いがけない頼み事にぱちくり、と目を瞬かせ、そしてお弁当?とこてりと首を傾げる。そんなくるみの仕草を可愛いなぁと思いながら、それでも断られたらという少しの不安を抱いた山本はああと頷く。ついでにバレンタインの時に作ってくれたチョコが美味かったからという理由もつけて。
暫し放心状態だったくるみだが、理解したのか先程よりも顔を赤くし、ウロウロと視線を彷徨わせ、こくりと小さく頷いた。

「ホントか!?」
「う、うん。あの、あんまり、上手に出来ないかも、しれないけど…」
「そんなことねーって!くるみが作ったもんならなんでも美味いからさ!」
「あ、ありがとう…」

自信なく話すくるみだったが、山本に勇気づけられたお陰か、少し自分にもできるような気がしてきて、はにかんだ。真正面からもろにくるみの表情を見た山本は無意識に顔が赤くなるが、自分のことで精一杯のくるみは気づかず、少し明るいトーンで何か食べたいものとかあるかなっ?と聞いてくる。

「えーっと…」

一拍遅れて反応した山本は暫し考え、いくつかリクエストを伝えた。くるみは分かった!頑張るね!と言ってその日から今日まで、毎日美味しい弁当が作れるよう特訓していた。お陰で今日の出来は文句無しというレベルになり、なんとか渡せそうな状態に少し自信をもてた。
それらを掻い摘んで2人に話すと、なまえはすごい!と素直に言い、由良も感心したようにへぇ、と反応していた。


学校に着いて、山本から聞いていた場所に弁当を届けに向かうため、2人と別れたくるみはドキドキと速る鼓動を落ち着かせようと深呼吸をした。少し落ち着いて進んでまた立ち止まって深呼吸をして、と繰り返していると数分もせずに着くはずの場所に10分近くかけて到着した。
そんなくるみの目にユニフォームを着た山本が映る。

「武くん!」
「くるみ!」

遅くなってごめんね!
謝るくるみにそんな待ってないから気にすんな!と明るく答えた山本だが、実はくるみが来るまで今か今かと期待しながら待っていた。少し緊張した面持ちで深呼吸を繰り返すくるみの姿を見てそわそわと落ち着きなく待っていた素振りをやめて、余裕があるように見せているだけだった。
勿論そんな格好悪いことは言えないので彼女が持つ紙袋に目をやり、もしかしてそれか?と誤魔化すように聞く。指摘されたくるみはビクリと肩を震わせ、うん、と小さく頷いた。

「一応、味見はしたから、大丈夫だと思うけど、もし美味しくなったら言ってね!その…頑張って練習するから…」

おずおずと差し出された紙袋と、俯いて不安そうに話すくるみに内心苦笑した。絶対不味いなんてことはないと思うんだけどなぁという思いと、また次も作ってくれるだろう発言にくるみには悪いが嬉しくなる。そんなことを感じさせない山本はサンキュ!と言って受け取り、ニカッと爽やかな笑みを浮かべる。

「絶対美味いから次も頼むな!」
「!ま、まだ食べてないよ!?」

山本の言葉にボッと顔を赤くしながら戸惑う声を上げるくるみにハハッ!とカラリと笑って誤魔化した。しかし試合の時間まであと少しと迫っていた為、そろそろと山本を探しに来た野球部員に声をかけられ、そのやり取りも強制終了させられた。

「武くん、頑張ってね!」
「おう!ありがとな!」

呼びに来た部員に今行くと声をかけた山本に、まだ少し赤い顔で笑ったくるみからの応援を受け、山本は俄然やる気が湧いてきたような気がした。
そのお陰か、山本はその日、自軍を勝利へ導くホームランを打った。

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