リボーン複数主 | ナノ


▼ 標的55

パチリ、と珍しく目覚め良く起き上がり、清々しい気持ちを抱いて大きく伸びをした。シャっとカーテンを開け、朝日を窓越しに浴びてもう一度伸びをする。脱力して顔をパチンと叩いてスッキリした面持ちで部屋を出た。

「よし!」

顔を洗い、朝ご飯をしっかり食べて昨日の夜最終確認までして準備したスクールバッグを提げて家を出る。いってきます!と今年一番、いや、今世で一番元気よく声を出したかもしれない程上機嫌のまま待ち合わせ場所に駆け足で向かった。

「おはようなまえ。」
「おはよう由良!」

待ち合わせ場所にいた友人に嬉しくなって飛びつかんばかりの勢いで駆け寄る。見ていた由良は落ち着きなと、呆れたように笑った。
今日は念願だった由良が退院してから一緒に登校する日だった。退院する日が金曜日だったので、それじゃあ月曜日から一緒に行こうと軽く言われたなまえは嬉しくて年甲斐もなく飛び跳ねた。それから指折り数えて今日という日をずっと待ちわびていた。
残念ながらくるみは由良より早く退院したもののそれでも長い間学校を不在にしていた幼なじみの手伝いの為、暫く別々の登校になってしまっているが、また今度とわかる事実がなまえは嬉しかった。

「あ、そうだ。なまえ、今度の日曜日ヒマ?」
「日曜日?」

基本インドアで家族や友人との予定がない限り引きこもるしか予定のないなまえは特に何もないよ、と答える。予想していただろうに答えを聞いた由良はそっか、と呟いて少し視線をウロウロと彷徨わせた。どうしたの?と聞くことなく暫く待つと、意を決したように口を開いた。

「その日薙刀の大会あって、出る予定なんだけど、見に来る?」

一瞬理解が遅れたなまえは目をぱちくりと瞬かせ、少しして理解したと同時に行く!と食い気味に答えた。
実を言うと、なまえは由良が大会に出たことは知っていても実際に応援に行ったことも見に行ったこともなかった。由良が頑なに教えようとしないのだ。そもそも由良は大会に出て賞を取ることが目標ではなく、ただ強くなる為に薙刀を極めているので応援は家族にもされたくなかった。しかしなまえが見たがっていたことを知っていたし、骸との会話で少し自分に素直になってみようと考えた時に純粋になまえに見てほしいと思ったのでちょうどいいと誘ったのだ。勿論由良の心境の変化を知らないはずのなまえは、しかし知っているかのように話しかける。

「なんか由良変わったね。」
「変わった?」
「素直になった。すっごい可愛い!こっちの由良も好き!」
「はいはい。」

あしらうように答えても、嬉しさは隠せずに無意識に上がる口角を抑えられず、いつもよりも年相応に感じる笑顔で返した。


今日も授業を無事に終え、帰り支度をしているところだった。教室に設けられているスピーカーからピンポンパンポンと軽快なリズム、音が聞こえてきた。それは通常誰かを呼び出すためのチャイムだったが、帰宅部で委員会にも所属していないなまえは自分ではないと教科書やらをスクールバッグに詰めていく。

「2年C組みょうじなまえ。応接室に来るように。」

繰り返されることなく終わった放送にあれ?と思わずスピーカーを見上げた。しかしスピーカーは以降うんともすんともいわない。一瞬幻聴かな?と逃避し始めた自分を現実に戻すようにまだ教室内にいたクラスメイトたちが一斉になまえに視線をやる。

「おっとぉ…?」

皆口々に遂にクラスでは飽き足らずあのヒバリさんに友達になろうなんて言ったのかだの、体育祭でのこと根に持ってるんじゃないかだの、単純にお前何したんだだのと言いたい放題である。誰も味方してくんないじゃんつら…と泣き真似をして見せるが、それよりも早く行け!と圧が凄すぎて泣く泣く応接室を目指した。


思えば、応接室自体行くのは片手で数えるくらいしかなかった。部屋の長にはこれまで何度も遭遇しているのに、あまり行ったことがない場所だとやはり緊張する。正直部屋にいるだろう人物に会うのも未だに緊張するのだけれど。
すぅはぁ、と深呼吸をして、早く脈打つ心臓を落ち着かせる。それでも鼓動は早まるばかりで、緊張も消えない。そんな自分の状態にもう一度深呼吸してから、と呆れつつもすぅ、と大きく息を吸った。

「ねぇ、早くして。」
「げっほ!」

ガラリと躊躇なく開いたドアから出てきた、会うと緊張するんだよなぁと思い描いていた人物に吸った息を止め、咳き込んだ。何してるのと言わんばかりに呆れた目で見下ろす部屋の主にしてなまえを呼び出す放送をかけた張本人、ヒバリに咳き込みながらすみませんと謝罪する。
暫くして落ち着いた頃、入ってと言われたので素直に従った。見れば部屋にいたのはヒバリだけだったようで、いつも手伝いの時にソファーに座っているはずのくるみはおらず、机の上も綺麗に片付けられていた。あれ?と思うなまえにヒバリは座ってとソファーを指差し、自分は専用の机に向かった。

「ヒバリ!ヒバリ!」
「!」

ヒバリが窓に近づいたのを見計らっていたかのように窓からすいっと黄色い丸いフォルムが特徴的な小鳥が入ってきた。パタパタと小さな羽をしきりに動かしヒバリの肩に降り立った小鳥は丸いつぶらな瞳でなまえを見つめる。
ひ、ヒバードだ…!思わぬ小鳥の登場に驚き、感動したなまえは声が出せず口を抑えて声にならない歓喜の悲鳴を隠す。
そんななまえに気づかないヒバリはちょうどよかったと零す。

「君にはこの子に校歌を教えてほしいんだ。」
「私がヒバ、ヒバリさんの、小鳥さんに?」

思わずヒバードと言いかけて慌てて言い直す。ヒバリはうんと頷いて、爆弾を落としてきた。

「君よく歌ってたでしょ。校歌。」
「………………。」

ビシリ、と固まった。それからぶわりと顔を真っ赤にして、両手で頬を押さえ、俯いた。
暫くそうしてから恐る恐る顔を上げ、ちらりとヒバリを見上げた。

「なんで、知って…?」
「聞こえたから。」
「!」

ヒバリの答えを聞いて今度は顔を覆ってまた下を向く。
なんで…!そんな話少しも出てなかったからてっきり聞こえていないものとばかり思っていたのに…!!まさか聞こえてるなんて…!
羞恥で隠れていない耳まで真っ赤になっているなまえを気分良く眺めていたヒバリだが、暫くすると飽きたのかねぇ、と声をかける。かけられたなまえははい!と肩を跳ねさせて答える。

「僕はここで仕事してるから、君はこの子にしっかり指導してね。」
「えっ………ここで、ですか?」
「それ以外何処があるの。」

ヒバリの答えに無理です!と言いたくなるのを必死に抑えて、頑張ります、と返した。
それからヒバリが帰るよう声をかけるまで心を無にしてヒバードに校歌を教えたなまえは、ヒバードがいたにしてもヒバリと2人きりの空間にいたことに終始気づいていなかった。

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